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三五三話
しおりを挟む「なぁ、ミラちゃんや?」
「なんですか? おにいさんや?」
俺がそうミラちゃんに声を掛けると、ミラちゃんもノリよく言葉を返す。
「ここで作物を育てるなら、試しに一緒に育ててみて欲しいものがあるんだけどお願いしてもいいかな?」
「育てて欲しいもの……ですか?」
そんな俺の提案に、ミラちゃんが不思議そうに言葉を繰り返す。
そんなミラちゃんに、ちょっと待つように伝え、亜空間倉庫からあるお目当てのアイテムをゴソゴソと漁る。
そうして取り出したのは、小さな……大体クッキー缶程の大きさの箱だった。
以前、遺跡内で取り出したスモールチェストボックスである。
として、更にその箱の中からアイテムを探す。
そうして取り出したのが、手の平に乗るくらいの大きさの巾着袋が一つ。
「袋? ですか?」
何時の間に近くに来ていたのか、ミラちゃんと並んでボゥちゃんが俺の手の中を覗き込むようにしてそう聞いてきた。
「まぁ、袋っちゃ袋だな」
が、本題はコイツではない。この中身なのだ。
で、俺はボゥちゃんの質問に軽く答えると、巾着の口を縛っていた紐を解く。
すると……
ペッカーっ!
「きゃっ!」
「のわぁっ!」
巾着が一瞬光り、その光景にミラちゃんとボゥちゃんが驚いて小さく悲鳴を上げた。
……そういえば、こういう演出があったな。
と、今更思い出す。
俺が今使用したのは、作物を育てる……所謂スローライフなプレイを楽しみたいプレイヤー向けのスタートセット、初心者用ファーマースターターキットである。
この手の初心者救済アイテムを使ったのなんて、もう随分と昔の話しなので、すっかり忘れていた。
「あれ? 袋がなくなってる?」
そして、光が収まったところで、ミラちゃんが再び俺の手の平を確認した時には、巾着の姿を消えていた。
勿論、本当に消えてなくなったわけではない。
この巾着……というかアイテムは、使用すると中身が自動でプレーヤーのインベントリへと格納され仕様になっているのだ。
それを知らなければ、不思議に思うのも当然のことだった。
ちなみに、インベントリに十分な空きスペースがない場合は、入手アイテム
分のスロットを用意するように、という警告文が表示される。
で、改めてインベントリを確認すれば、そこには新しいアイテムがいくつか追加されていた。
鍬に鎌といった基本的な農具が数点と、作物の種のアソートセットが一つ。
これが、ファーマープレイの基本セットである。
一応、これを使えば、自作せずとも基本的な農具は手に入るのだが、ぶっちゃけ、普通の鍬とかいらないからな……
初心者用ということで、能力付与などないし、耐久力も低い。
そしてなにより、1セットしかないので数の足しにもならない。
まぁ、コイツらはバラして適当に素材にしてしまえばいいだろう。
と、農具な関してはどうでもいいとして。
そんなわけで、だ。この中で用があるのは、作物の種のアソートセットだけだった。
で、この作物の種アソートセットを使用すると、確か数種類ほどの作物の種が手に入った……はずだ。
正直、ファーマープレイなど興味がなく、何が手に入るかなど碌に調べていなかったのでうろ覚えだ。
まぁ、その辺りは使えば分かるだろう。
ということで、早速作物の種アソートセットを取り出すことに。
種アソートは、初心者用ファーマースターターキットと同じように、初期状態では巾着袋の姿をしているので、これを開封。
勿論、事前にインベントリの中からいらない物を撤去してからだがな。
「きゃっ!」
「うわっ、また光った!」
それを使用すると、先ほど同様巾着が光り、それが収まった時には俺の手の上から巾着が消えていた。
中身はインベントリの中である。
ということで早速インベントリを確認すると、ごっそりアイテムが追加されていた。
試しに一つ確認すると、アイテム名に【初心者用・米の種】と表示された。
……米の種でいいのか? 稲の種じゃないのか? まぁ、いいや。
続いて残りも確認すると、麦、大麦、カブ、ニンジン、カボチャ、ジャガイモ、サツマイモ、ナス、キュウリ、ダイコン、キャベツ、トマト、イチゴ、スイカ、メロン、計一六種類の作物の種が追加されていた。
種の数はそれぞれ一〇個ずつ。
勿論、すべてが【初心者用】である。
……思ったよりずっと多いな。
確か、これらが『アンリミ』で生産可能な基本生産物……だったはずだ。
これら以外にも、特定の条件……例えばNPCからのクエストをクリアすることで特別な種が手に入ったりとか、モンスターのドロップから入手するなどして、生産可能な品種を増やすことが出来る。
他には、農業系のスキルの【品種融合】を行うことで、融合食材という独自の作物を作れたはずだ。
融合食材というのは、プレーヤーオリジナルの作物で、俺が知る限りでは、カブとメロンの融合食材であるカブロンとか、トマトとスイカの融合食材であるトマイカ、などがあった。
……まぁ、美味いかどうかは別の話しなんだがな。
俺はインベントリから種の入った巾着を取り出しつつ、それがどんな作物か説明しつつ、ミラちゃんとボゥちゃんへとを手渡した。
ちなみに、この巾着は開いても発光することはない、至って普通の巾着袋である。
「えっと……これを育てればいいんですか?」
「ああ。ミラちゃん達が育てたいものと一緒に、畑の隅っこにでも植えてくれればいいからさ」
そう問うミラちゃんに、俺は簡潔に答える。
「うん、わかったよ」
と、ミラちゃんが笑顔でそう答えてくれた。
俺が試したいこと、それはこの世界で『アンリミ』産の作物を育てることが出来ないだろうか? ということだった。
実は、これは少し前から考えていたことだった。
今でこそ、まだ特に問題になってはいないが、ポーションなどの材料とて無限ではない以上、作り続けていれば当然何時かは材料が尽きてしまうのは明白だ。
モンスター由来の素材は無理だとしても、植物由来の素材なら尽きてしまう前に、自前でどうにかして増やせないだろうか? とそんなことを薄っすら考えていたのだ。
勿論、自分で試してもいいといえばいいのたが……
正直、俺は植物を育てるのが大の苦手だった。こまめな管理とかもう無理っす。
なんといっても、あの渇水に強いサボテンを水不足で枯らした男だからなっ! 俺はっ!
だからこうして、ミラちゃん達に頼もうとしているわけなのである。
本当なら、ポーション用の薬草の栽培を頼みたいところではあるが、現状ではちゃんと育つか分からない。
なので、まずは実験として【初心者用】の種で試してみてもらおう、という腹積もりだった。
実は、この【初心者用】というのがとても重要で、見ても分かるに所謂普通の種ではないのだ。
文字通り、農作業を初めて行うプレーヤー向けのアイテムなので、まずは作物を育てることを楽しむことを目的に、誰でもお手軽簡単気軽に育てられるイージー仕様になっている種……らしい。
あくまで聞きかじった程度の知識なので自信はないが、確かそんな効果だったはずだ。
知人から聞いた話では、どんなに手を抜いて育てても基本失敗することなく育てることが出来る、とのことだ。
ズボラな俺にもオススメだと、一緒に育てないかと誘われたこともあったが、性分ではないので断ったけどな。
で、だ。
とはいえ、世の中そんな簡単な話しはないもので、当然デメリットもある。
それが、この【初心者用】の種で育てた作物は必ず品質が3になる、というものだ。
本来、『アンリミ』での栽培は、栽培過程で適切な処置を施すことで作物の品質を向上させることが出来た。
要は、丹精込めて丁寧に育てれば、品質の高い作物が育ちますよ、ということだ。
当たり前といえば当たり前だな。
当然、手を抜けば、その分品質は下がる。
そして、品質の高い作物からは、品質の高い種が採取でき、その種を丹精込めて育てれば、更に高い品質の作物が採取出来るようになる、と。
こうしてより高い品質を目指して作物を育てるのが、ファーマープレイの醍醐味……らしい。
俺には分からん世界だな。
が、この【初心者用】の種は、どんなに手を抜いても育つ代わりに、どんなに手間暇かけて世話をしても、品質が3を超えることはない。
つまりは、そういうアイテムだということだ。
当然、その作物から採取される種もまた【初心者用】である。
正に、お試し、だな。
そんな【初心者用】の種ですら自分で育てたくないのは、【初心者用】の種を以てしても“基本”失敗しないだけで“絶対”失敗しないわけではないからだ。
サボテンを枯らした俺だぞ? それでも失敗しないという保証はないのだ。
なので、試すにしても出来ることなら経験者に任せたい、と考えていたところだった。
ミラちゃんも暇つぶし目的で家庭菜園をしたいと言っているので、試してもらうには打ってつけの相手といえるだろう。
これでもし成功するようなら、本格的に『アンリミ』作物の栽培を初めてみてもいいかもしれないな。
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