最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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二四五話

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「……ねぇ? これ、どういうことよ?」
「どうと言われましても……」

 現在、あの感情がなくなった無気力なセレスの目が、俺のことをジっと凝視していた。
 俺は凝視の見切りを持っていないので、このままでは状態異常になってしまいそうである。

 ことの始まりは厨房にて、改修作業を進めている時の事だった。

 初めこそ、傷んでいた調理台や、壊れていた竃やオーブン等を順調に補修して回っていた。 
 それら補修も大方片付いたところで、おそらくここに立つことが多くなるであろうミラちゃんに、どういうふうにしたら使い易いか? という意見を求めたら、真っ先に言われたのが、水の確保についてだった。

 宿屋では近くに共同の井戸があるため、そこから毎日水を汲んでいるらしいのだが、この屋敷には……というか、この場所にはまずその井戸そのものが無かった。
 一番近い水源は、近くを流れている小川である。

 しかし、近くといっても、距離的にはそこそこ離れており、そこまで毎日水を汲みに行く、というも中々に酷な話であった。
 それがミラちゃんのような子どもなら尚更だ。

 ミラちゃんの話しでは、普段水汲みに使っているという桶が、大体5リットル程入るサイズで、これを毎日五、六往復して宿屋にある瓶に水を溜めているのだと言う。
 それを考えるとかなりの重労働が予想された。
 ミラちゃんの言い分はもっともであり、何かいい方法はないかと考えた結果、一つ、あるアイテム……というかというか建造物をものは試しに作ってみることにしたのだ。

 それが、井戸、だった。

 『アンリミ』では、モンスターと戦うというアクション要素以外にも、物作りを楽しむクラフト要素や、農作物や家畜を育てたりするファームシミュレーションとしての要素も持ち合わせていた。
 戦闘や冒険だけでなく、こういったスローな遊び方が出来るのも『アンリミ』の魅力の一つといえるだろう。

 とはいえ、生憎と俺はクラフトとバトルが主なプレイスタイルだったので、ファーマー方面はまったく触れては来なかったんだけどな……

 で、この井戸だが、これは農業をする際に必要な生産施設オブジェクトと呼ばれる建築物の一つだった。
 農家プレイをする場合、畑や家畜だけがいればいい、というわけにもいかない。
 何をするにしても、色々と施設という物が必要になって来るものだ。
 収穫した作物をしまう倉庫や、家畜を収容するための畜舎など。

 井戸も、そうした生産設備の一つなのである。

 用途は言わずもがな、水の確保だ。
 作物を育てるにも、家畜を飼育するにも、水は必須だからな。

 『アンリミ』では、井戸は設置さえすれば何処からでも水が出た。
 勿論、設置場所にある程度の制限こそあるが……例えば、岩の上には作れない、とか、地面に直接でなければ作れない、とかな。
 ただ、設置出来てさえしまえば、必ずそこから水が出るようになっていた。
 設置した場所に水を供給する、というのが井戸の効果だからだ。

 ちなみに、屋敷の厨房は、土間、とでもいうのか、そこだけ石畳みがなく地面が剥き出しの状態になっていたので、井戸を設置する条件を満たしていたのだ。
 まぁ、ここだけ地面剥き出しというのもアレなので、あとで他の場所同様、石で舗装しようとは思っているがな。

 だから……だから、もしかしたら? 
 そんな思いで、ダメ元承知で試しに厨房の端に井戸の建築申請を出したら、すんなり通ってしまい、必要素材をぶち込んだら井戸が出来上がってしまったのだ。

 更に、掘った覚えもないのに確りと穴が開いており、桶を落としたらちゃんと水が汲めてしまったっていうね……
 しかも、めっちゃ綺麗な水でやんの……

 この水が何処から来ているかだって? そんなことは知らん。水にでも聞いてくれ。
 で、先ほどのセレスからのお言葉である。

 そうは言われても、実は作った俺が一番びっくりしていた。まさか、申請が通るとは思わんかったし、たとえ設置出来てもちゃんと水が出るなんて思ってもいなかったのだ。
 本当に、ただちょっと試してみただけだった。それがまさか、こんな結果になるとは……

 俺がそこまで驚いたのには一つ、ちゃんとした理由があった。

 それが建設制限という縛りが、『アンリミ』には存在していたからだ。

 『アンリミ』には、プレーヤーが活動出来るエリアが大きく分けて二つ、存在している。
 一つは、全プレーヤーが普通に戦闘や探索を楽しむことが出来るワールドエリア。
 街やダンジョンまた野外フィールドなど、これらの場所は例外なくすべてワールドエリアに分類されている。
 そして二つ目が、ワールドエリアから隔絶され、本人、もしくは所有者の許可を受けたプレイヤーのみしか侵入することが出来ない、マイガーデンというプライベートエリア。
 この二つのエリアだ。

 例えるなら、ワールドエリアを公共の場とするなら、マイガーデンはいってしまえば私有地の様な扱いといった感じだろうか。

 で、件の建設制限というは、生産施設オブジェクトは、マイガーデンにしか設置することが出来ない、というものであった。

 ワールドエリアであっても、プレーヤーが任意で建築物を作ること自体は可能である。
 一応、他者が物理的に破壊が可能であったり、設置から一二時間で強制的に撤去される、という仕様にはなっているのたがな。

 しかし、それは足場であったり壁といった一般オブジェクトだけであり、井戸の様な生産施設は設置が不可能となっていた。

 つまり、マイガーデンという場所自体が、ある意味ファーマープレイをする専用の場所となっており、生産施設オブジェクトはマイガーデン専用の施設である、ということだ。

 それがどうだ?

 ここは『アンリミ』でもなれければ、マイガーデンでもない。
 にも関わらず、井戸が設置出来してしまったうえに、あまつさえ確り水も出る……

 自分でやっておいていうのもアレだが、どうなっているのか理解出来ない。

 しかし、俺がどう思うが機能はしているので、事実を受け入れるしかあるまいよ……
 悩んでどうこう出来る問題でもないだろうしな。
 というわけで、もうここまで来たら自棄とばかりに、汲み上げ式ポンプまでついでに付けてやった。
 レバーを上下にガチャガチャすると、水が出て来るアレな。
 
 ミラちゃんは水汲みが楽になったと、大いに喜んでくれたが、セレスの目は死んでいた……
 だからその目でこっちをジっと見るのは止めなさい。状態異常になりそうで怖いから……

 で、井戸の設置後、ミラちゃんプロデュースにより、厨房の環境に更に手を加えていくことに。
 まず、ミラちゃんから出た要望が、折角井戸が家の中にあるのだから、室内で水回りの仕事が出来るようにしたい、というものだった。
 なんでも、ミラちゃんの宿屋を始め、何処の家、店でも基本的に室内に水回りの作業をするための、シンクのような設備がそもそも無いらしいのだ。

 勿論、飲み水用の瓶などは設置されているが、例えば洗い物一つを取っても、ミラちゃんの宿屋では、まず庭に大きな桶を用意し、そこに水を溜めて食器を洗い、その後、桶の水を庭に捨てる、ということをしていたらしい。
 これは、大体何処でも同じようなことをしているようだ。
 下水なんて施設がないのだから、水を直捨てになるのは分かるが、にしても洗い物の度にいちいち庭に出なければいけない、というのも非常に面倒な話しだった。

 基本、しゃがんでの作業になるから腰が痛くなるし、雨の日だって洗い物はあるし、なにより冬は寒かろうが冷たい水を野外で使わなくてはいけないため、特に大変なのだというのはミラちゃんの談である。

 確かにそれは大変そうだ。というわけで、室内でも洗い物作業などが出来るよう、また立った姿勢で作業が出来るようにシンクを設置し、シンクから排水管を庭へと伸ばし、屋敷の中から直接排水が出来るように手を加えた。
 今はまだ時期的に大丈夫だろうが、寒くなって来た時のことを考えて、温水を出せるシステムもそのうち導入しようかね。

 ついでに、調理クズや残飯なども、基本は地面に穴を掘って埋めて処理するをする、ということだったので、同じように室内から直接処理出来るよう、専用のダストボックスも設置。 
 ちなみにだが、こうした地面への直廃棄はこの国では普通に行われている廃棄方法だという。
 
 現代感覚の残る俺としては、そんな方法で本当にいいのか? と思い尋ねたら、 セレス曰く。
 食品廃棄物を地面に埋めておくと、どこからともなくメナシ虫という、姿形を聞く限りでは、ミミズによく似ている生き物がやって来て、勝手に廃棄した物を食べて処理してくれる、ということだった。
 ちなみに、メナシ虫という名の由来は、名が示す通り体の何処にも目が無いことからそう呼ばれているらしい。
 大きさは小さい個体なら5センチメートル程、大きな個体だと15センチメートル程だという。
 更に、このメナシ虫。雌雄同体の生物のうえ、単独で繁殖するらしく、しかも非常に繁殖力も強いこともあり、環境がいいとあっという間に増殖していくのだとか。
 毒を持っていたり、何か人に害がある生態をしているわけでもないので、多くの人達からは残飯処理要員として広く認知されている存在らしい。

 また、セレスの話しではこのメナシ虫の、有機物なら何でも食べる、という生態を利用して、食品廃棄物だけでなく、人から出た排泄物……要は、うんこなどの汚物処理なども各地で行われているとのことだった。

 汚物は基本そこらにポイ捨てだと聞いていた割には、王都を始めアグリスタから王都に向かう途中で立ち寄った小さな村々でさえ、排泄物特有のあの悪臭らしきものがしなかったのはこのためらしい。
  
 更に、農村部では、このメナシ虫が排出する糞が作物を育てるうえで非常に有益な肥料になるということで重宝されているのだとか。
 また、このメナシ虫自体もニワトリのような家禽かきんのエサになることもあり、肥料に家畜のエサにと、この国の人達の食を支える非常に大事な存在なのだと、セレスが話してくれた。

 ただし、そんな有益なメナシ虫だが、そのウネウネとした見た目から生理的にダメ、という人も相当数いるようだった。
 ミラちゃんとセレスは大丈夫のようだが、イースさんは完全にアウトらしい。
 てか、ミミズが大丈夫なミラちゃんとセレスの方が逆に凄く感じるよ。
 この歳の女の子なら、ミミズなんて大っ嫌いな生き物に含まれているのが普通だと思うが……

 と、そんな感じで厨房に手を加えている間にいい時間になったので、今日の作業はここまでとし、帰宅することに。

 ちなみに、クラフトボックスはそのまま放置して帰ることにした。
 一晩放置すれば、かなりの量の絨毯を製造することが出来るだろうからな。

 まぁ、こんな所に人が来るとも思えんし、俺以外の人間がクラフトボックスに触ったところで何の意味もないので、このまま放置しても問題なしと判断したのだ。
 そもそもクラフトボックスにアクセス出来なければ、クラフトボックス本体を移動することも、インベントリ内の物を持ち出すことも出来はしないのだから。
 まぁ、破壊されると中身が飛び出るんだが……そこは考えないことにした。
 てか、クラフトボックスは破壊可能だが、実際に破壊しようとするとかなりの耐久力があるのでかなり大変なんだよなぁ……
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