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二四四話
しおりを挟むセレスに執拗なまでに粘着されつつも、廊下や広間といった主要な場所へ照明を設置して回る。
ただし、玄関に付けたような豪華なものではなく、基本的にはランプ型の物を壁に掛けたり、天井から吊るしたりといった感じだ。
廊下、それに広間もそれなりに広い空間であるため、当然ランプは一つでは足りず、相応の数を等間隔で並べることになった。
これらの物も、一つ一つ操作していたので大変なので、すべて一繋ぎにして一括で操作出来るように細工していく。
こうして、廊下そして広間への照明の設置は完了した。
ただ、個室に関しては部屋数が多過ぎるので、必要になった時に適宜対応していくということにした。
すべての部屋に設置していたら、ランプがいくつ必要になるか分からんからな。
ちなみに、仕組みはすべて同じである。違うのは見た目くらいなものだ。
早速、取り付けた照明の効果もあり、この日は日が沈むまで作業をしてから帰ることに。
お陰で、必要な場所への照明の設置も完了することが出来た。
余談だが、帰りのキャリッジホームの中でも、俺の隣に座っては、論文論文論文論文と、まるで呪詛のように唱え続けるセレスがあまりに鬱陶しかったので、根負けして、別れ際に、以前【防御力強化】のエンチャントを施した板切れを渡した時同様、【マナ転換】をエンチャントした銀板一枚、好きに調べろと渡したら喜び勇んで帰って行ったのだった。
そして翌日。
「……おはよ」
いつもの待ち合わせ場所に、派手に目の下にクマを作り、瞳を真っ赤に充血させたセレスの姿がそこにあった。
さては、こいつ徹夜したな?
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「あれ? お屋敷までまだだけど、お兄さんどうしたの?」
屋敷へと向かう道中、キャリッジホームを途中で止めると、ミラちゃんがそんなことを聞いて来た。
ちなみに、セレスはというと徹夜明けで余程眠かったのか、今はソファーで爆睡中である。
「ちょっと木材が欲しくてさ。その調達だ」
別に、木材だけなら屋敷の周囲にいくらでも生えているので、そちらから調達しても良かったのだが、屋敷へと向かう道中に邪魔くさい木が結構生えているので、道路整備も兼ねて資材調達をしていくことにしたのだ。
まぁ、それにセレスを少し寝かせてやりたい、というのもあったしな。
そんな感じで、道幅を狭めている邪魔な木々を黒騎士で次々と切り倒しては、クラフトボックスに突っ込んで強化合板へと加工していく。
ついでに、今後の移動など考え、地面に激しい凹凸がある部分を形状変化で均しながら移動していたので、屋敷に着いた頃にはもう昼近くになってしまっていた。
取り敢えず、寝ていたセレスを起こし、昼食に。屋敷の作業は午後一から行うことにした。
「しかし……いざ手を加えるとなると、どういうレイアウトにしようか迷うな……」
昼食後。シャンデリアを吊るしたことで、一気に豪華さが増した玄関で、俺は腕を組みフムと唸る。
実のところ、この後のプランについては特に何も考えていなかったのだ。
床一つとっても、鏡面加工を施してピカピカにしてもいいし、多少手間だが、色付きタイルを張ってモザイクアートを作ってみてもいい。
さて、どうしたものか……
「だったら絨毯を敷こうっ! 絨毯っ! 真っ赤なやつっ!
お屋敷って言ったら、やっぱり絨毯じゃん? 一面全部絨毯で覆っちゃおう!」
なんて悩んでいたら、ミラちゃんがそんなことを言い出した。
絨毯ね……
「ちょっとミラ、絨毯って……しかもこの一面を覆うってどれだけお金が掛かると思っているのよ……」
そんなミラちゃんの言葉に、セレスが呆れたように溜息を吐く。
ひと眠りしたこともあり、すっかり何時ものセレスである。ただ、髪の毛に少し寝ぐせが残っている所為で、ちょっと締まらない感はあるがな。
これでも大分整えた方で、癖っ毛なのか、寝起きはかなりボンバーしており、整えるのにミラちゃん共々かなり苦労していた。
なので、エルフの村で作ったヘアードライヤーを貸してあげたら、今度はそれは何だと問い詰められるはめになり……なんて話はさておき。
セレスの主張も分からなくはない。それもそのはず、この世界では絨毯は超高級品なのである。
現代日本人である俺にとっては、絨毯なんて敷物として使って当たり前の感覚があるが、ここではそうではない。
この国では絨毯とは敷物ではなく、壁に掛けて飾るペルシャ絨毯的な美術品という側面が強いのだ。
それを敷物として使うなんて、カネに余裕のある、例えば貴族や大商人といった連中の道楽くらいなものだった。
ちなみに、セリカの実家であるラルグスさんのご自宅には、敷物としてふんだんに絨毯が使われていたけどな。
「そうは言うけどセっちゃん。お兄さんならそれくらいいけるんじゃね?
ほら、おにいさんアレだし」
そう言って、ミラちゃんが親指と人差し指をくっつけて輪っかを作る。
子どもがそんな手つきをするのは止めなさい……
「それは……まぁ、確かに?」
で、それで納得しかけるセレス。
この二人だが、ここ一週間くらいずっと顔を合わせていた所為か、今では十年来の親友の様に、すっかり仲良しさんになっていた。
「いや、でも流石のスグミでも絨毯は……」
「うん、いいんじゃないか? 絨毯」
「……本気?」
そう言う俺に、正気を疑う様な目をセレスが向けて来た。
少し考えてみたが、ミラちゃんの案は強ち悪くないと思う。
屋敷に赤絨毯、よくある光景といえばその通りだ。
「どの道自作するから、大してカネは掛からないんだよ」
勿論、クラフトボックスで作るので、更に時間も掛からないという利点もある。
ただし、クラフトボックス製はデザイン性もクソも無い単色製造なので、何か凝ったデザインの物を使いたい時は自作するか買うかだな。
とはいえ、それは追々の話しだ。
まぁ、買うにしても大した金額でもないけど。そう、俺に取ってはね。
「自作って……もしかして、またあの箱で作るの?」
「その通りっ!」
そう聞いて来たセレスに、俺は事も無げに答えると、早速クラフトボックスを亜空間倉庫から取り出して設置。
更に、追加でチェストボックスを出し、中から素材となる材料を取り出すと、右から左への要領で、チェストボックスからクラフトボックスへと投入していく。
「お兄さん? その白くてモコモコした物って何?」
「羊毛だな。これを材料に絨毯を作るんだよ」
その作業を見ていたミラちゃんが、俺の手元を覗き込みながら、そんなことを聞いて来たので、手にしたいた真っ白なワタの塊をミラちゃんへと手渡した。
「うわぁ~、ふわっふわっ!」
そう言うと、ミラちゃんは楽しそうにワタの塊をにぎにぎしていた。
これは、正確には羊毛ではなく、『アンリミ』に出て来るメーメルという羊型モンスターの毛である。
アイテム名も“メーメルの毛”だからな。とはいえ、見かけや手触りなどは、まんま羊毛である。
主に、毛糸やワタなどの原材料となるアイテムだ。
俺はこのアイテムを無駄に大量所持しているので、いい機会だからこの際使えるだけ使ってしまおうと考えていた。
元は知人からの頼みで、メーメル肉を集めていた時の副産物だ。
いつもの貧乏性よろしく、よくて服を作るクラフターにそこそこ需要がある程度の価値しかない、大して有用な素材でもないにも関わらず、捨てるには勿体ないと残していたものだ。
こういう機会でもないと減らないので、ジャンジャン使って行こう。
何かに役立てられるならそれに越したことはない。
ちなみに、ここでいうワタとは、あおい科の一年植物である綿のことではなく、細く柔らかい繊維状の塊、のことを指す。
布団に詰めるワタとか、ぬいぐるみのワタとか、フェルトとかな。
で、ミラちゃんの要望通り、深紅の染料を追加投入して、制作一覧から絨毯を選択肢クラフト開始。
一つ辺りのサイズは縦横1メートル、制作時間は二分と少々長めなので、こちらはある程度数が揃うまで、このまま暫く放置することに。
一枚二枚だけあっても仕方ないからな。
その間、ただ待つだけでは時間の無駄なので、絨毯を製造している間に、俺達は別の作業をすることにした。
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