最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一八九話

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 自由騎士組合でそんなこんなあり、約束の場所に着いてみれば、そんなに遅くなったわけでもないのに、大概の奴らが既に良い感じに出来上がっているご様子だった。
 しかも普段なら、カネがないから、と飲み会にあまり参加しない奴らの姿が、これまた結構目に付いたっていうね。
 
 人のカネだと思って、好き勝手飲み食いしやがってからに。

「おうっ! 来たかスグミっ!」

 そんな中、一際派手に飲んでいたジエロに声を掛けられたので、そちらへ移動し同じテーブルに着く。
 で、ついでとばかりに、客員騎士の件はきっぱり断ったことを告げた。
 ジエロは「そうか、残念だ」とあっさりしていたが、「だったら次は……」とかなんとかモゴモゴ言っていたので、まったく諦めている様子ではなかった。
 俺はこの国に仕えるつもりはない、と言ってるんだがなぁ……
 そこまでして俺を工兵隊に入れたいか。

 で、散々騒いで大いに飲み食いして、いざ会計へ。

 そこで俺が50万ディルグをポンと出したら、周囲が一気に色めきだった。
 50万ディルグといえば、確かに一般人にとっては……まぁ、それは彼ら下っ端騎士にとってもなのたが……結構な大金だ。
 この金が、賊を捕まえて奴隷競売に掛けた売り上げ金だということは周知の事実なので、周囲から「自由騎士ってそんなに儲かるのかよ……」みたいな声が上がった。
 しかし、これで勘違いして国家騎士を辞めて自由騎士になられても色々と困るので、そんな彼らに「今回はたまたま懸賞金も掛かっていたから高いだけで、普通はもっと安い」というようなことを、ちゃんと説明しておく。

 そんなそこそこの大金である50万ディルグだが、四〇人を超える工兵部隊が一斉に好き勝手に飲み食いすれば簡単に消し飛ぶ金額でしかない。
 結局、お会計は俺の出した50万では収まりきらず、10ディルグ程足が出たのだが、なんと超えた分はジエロが一人で負担していた。
 というか、不足分に関しては初めからジエロが一人で負担するつもりだったらしい。
 意外に太っ腹なことをするものである。
 ……てかジエロの奴、俺の賊の売上金がもっと少なかったらどうするつもりだったんだろうな?

 今回は不足が10万とちょっとで済んだが、最悪、ジエロが50万ディルグ払うことになっていたかもしれないのだ。
 ひょっとすると、こいつ意外とカネを持っているのか?

 などと勘ぐりつつ、店の前で解散。
 あっちにふらふら、こっちにふらふらと千鳥足で帰って行く奴らが多かったが、お前らそんなに飲んで大丈夫なのか? 明日も仕事だからな?
 二日酔いとかで休むんじゃねぇぞ?

 俺も結構飲んではいたが、そこは状態回復キュアポーションがあるからな。
 喩え二日酔いになっても、一本いっておけばそれで万事解決なのである。
 そんなこんなで、俺もややふらつく足取りで宿へと帰る。

「ただいまぁ~」
「おかえりなさいっ! おにいさんっ!」

 そう言いながら宿屋の扉を開けると、少しして食堂の方からミラちゃんがわざわざ出迎えに来てくれた。
 食堂から出て来たってことは、どうやら夕食中だったみたいだな。
 最近はジエロ達と飲んで帰って来ることが多かったので、宿での夕食はなしにしていた。

「あっ! また飲んで来たんですか?」

 そんな俺に、ミラちゃんのやや冷ややかな視線が刺さる。

「まぁ、付き合いってやつだよ。付き合い」

 と、定番の言い訳をする。
 ただ、今日は50万程たかられたがな……と、心の中で一言付け加えておく。
 だが、口にすると「お金を落とすなら、ウチで落としてくださいよっ!」とか言われそうなので黙っておくことに。
 ミラちゃんはお金のことになると非常に厳しいのである。

「外でばっかり食べてないで、たまにはウチで食べてくださいよ~」
「商魂逞しいなぁ。宿で食べれば、その分食費も稼げるもんな」

 実に、ミラちゃんらしい言葉である。

「え? ああ、まぁ、それもありますけど……」

 と、俺がそう言うと、何故かミラちゃんの言葉の歯切れが急に悪くなった。
 稼ぎの話しではないのだろうか?

「どちらかというと、ごはんがですね……」
「ごはん?」
「はい。おにいさんが居ないと、ごはんが豪華にならないんですよ……」
 
 で、やや周囲を気にしてから、俺へとすり寄ると耳元に口を寄せと、小声でこう口にした。

「お母さん、ケチだから」

 俺は以前仕入れた肉などの食材を、この宿の女将さんであるイースさんにある程度渡して管理をお願いしていた。
 で、この食材だが、俺も必ず宿で食事をするとも限らないので、傷む前に自由に使っていいと、俺はそう言っておいたのだが、ミラちゃんから話を聞く限りでは、イースさんは俺が居ない時はこれらの食材にまったく手を着けていないそうなのだ。
 流石に傷むまで放っておく、ということはしないだろうが……

 そんなこともあり、以前……ほど酷くはないが、俺が夕食の席にいないと料理の質がぐっと下がるのだとミラちゃんは言う。
 
「もぉ~、目の前にいい食材が一杯あるのに、「スグミ様が一緒じゃないとダメだ」、って。
 ホント、お母さんは融通が利かないんだからっ! とんだ生殺しもいいとろこですよぉ……よよよぉ~」

 で、そんな泣きまねをしながら俺の胸回りに縋りついて来るミラちゃん。

「分かった分かった。それじゃ明日は宿で食べるから。イースさんにはそう伝えておいてくれ」
 
 そう言いながら、しがみ付くミラちゃんの頭を数度ポンポンと叩き、引きはがす。

「やったぁ! 絶対ですからねっ!」

 ミラちゃんは満面の笑みを浮かべると、また食堂へと戻って行った。
 俺もそれを見送ってから、自室へと戻る。
 いやぁ~、今日も働いた働いた。
 あとは休むだけ……なのだが、寝るには少し早い時間なうえ、酒が回っていると言ってもそこまで眠くもないんだよなぁ。

 この世界では、朝が始まるのも早ければ、夜が始まるのも早いのだ。そして、終わるのも早い。
 オプション画面から時間を確認すると、まだ二二時、夜の一〇時少し過ぎだった。
 この世界に来る前であれば、夜鷹な俺にとってはむしろ今からが活動時間みたいなところがあったからな。

 しかし、この世界には時間を潰せる娯楽も大してないため……いや、行こうと思えば凄い所があるのだが、流石に今からってのもなぁ……
 以前、ブルックから色々とそういうお店の情報だけなら仕入れていたのだが、まだ実際に足を運んだことはなかった。
 まぁ、何かと忙しい日々を送っているから行けていない、というのもあるが、興味半分怖さ半分、といった感じで二の足を踏んでいるというのもあった。
 
 まぁ、それは今後の楽しみ、ということにしておこう。やっぱり興味は尽きないからな……ほら? 俺も男の子ですしお寿司?

 実はノールデン王国では、そういったお店・・・・・・・が国の管理下であれば合法な店として扱われていた。
 指定の場所、指定のルール、病気の検査などなど、審査やなんやらが非常に厳しいらしいが、それらを遵守している限りにおいては、結構自由に商売が出来るうえ、収益もいいらしい。
 いってしまえば半国営みたいな感じだな。

 ブルックから聞いた話だと、シモに関する商売は、どれだけ規制したところで裏で商売する奴というのは必ず出て来るものらしく、そういう奴らは捕まえても捕まえても、次から次へと湧いて来て切りがないのだとか。
 なぜなら、収益がいいからだ。
 で、そうした商売をする奴らというのは、その多くが犯罪組織と繋がっている連中だという。
 要は、そうして稼いだ資金が犯罪組織などに流れて活動資金になっている、ということだな。
 デリヘルの運営会社が暴力団だった、なんてよくある話だ。
 勿論、個人営業みたいな奴もいないことはないらしいが、それは極一部の話しだ。

 そうして、犯罪組織にカネが集まれば、当然、治安は悪くなっていくわけで……

 ならば、と。
 いっそのこと、こうして国で管理することで闇営業自体を減らし、反社会勢力にカネが流れるのを防いでしまえ、ということになっていったらしい。
 確かに、反社の収入源を国営化してしまえば、相手の勢力拡大を抑止しつつ、かつ、税収で国庫が潤うことになる。
 勿論、麻薬なんかのヤバイ物は別として、だがな。
 ついでに病気の検査を定期的に行うことで、病気の蔓延を阻止することにも繋がっているのだとかなんとかなんとか。

 現代の日本では到底考えられないシステムだが、理に適っているとといえば確かにその通りだと思う。
 
 まぁ、そんな話はおいといて、だ。
 こうした隙間時間がちょっと暇になるのが、最近の悩みといえば悩みであった。

 というわけで、自室にてちょいと工作をば。
 ここ数日、暇つぶしも兼ねて俺は新しい人形について新しいアイデア出しをしているまっ最中だった。
 ゲーム時代では特に必要なかった、自衛用の人形を作ろうと思っているのだ。
 この世界に来てからというもの、何かと物騒なことに巻き込まれてばかりだからな俺。
 咄嗟の時に使える人形、というのが欲しくなったのだ。

 俺は戦える人形は数多くあれど、その多くがサイズがかさばるものばかりで、どうしても場所を選んでしまうのだ。
 エテナイトですら、出せる場所はある程度限られてしまうくらいだからな。
 
 以前、セリカと初めて出会った時、街中でいきなりどてっ腹にナイフを突きつけられた、なんてことがあった。
 こういう状況に置かれると、俺に対抗出来る手段っていうのはかなり限られてしまうのだ。
 一か八かで百里百足をけしかけるか、もしくは自爆覚悟で、足元に煙玉を投げるとか……そういう手段しかない。

 百里百足は小型で気付かれ難い、という面があるのは確かだが、小型であるが故にその毒牙も小さく、短いからな。
 となると、服などの上から噛みついても効果はほぼないといっていいだろう。
 確実に相手にダメージを与えるには、肌が露出している部分をピンポイントで攻撃しなくてはならないのだ。
 となれば当然、攻撃ポイントである腕や首筋を目指して、相手の体を移動しなくてはならない。
 しかし、所詮虫に毛が生えた程度の力しかない百里百足では、途中で見つかれば叩き落とされてお終いだ。

 煙玉に関しては、あれは煙玉という名前の催涙弾だからな……
 あんなん足元で爆発させたら、俺まで身動きが取れなくなった挙句、涙と鼻水でデロデロになってしまうわ。
 これをするのは、もう本当に最終手段なのである。

 とまぁ、そんな今後のことを考えて自衛能力、自由度、そして利便性が高い人形が作れないかなぁ……ということで思案していた。

 とはいえ、こういう物は最初から完璧な物を作ろうとしてはいけないのだ。
 失敗上等。むしろ、上手く行ったらラッキー程度に思っておくのが、物作りの基本である。
 そんな感じで、出て来たアイデアをノートにまとめつつ、試作実験機なんかの制作など、チマチマと作業をしていくうちに、夜は静かに深くなって行くのだった。
 ……そして、異変は何の前触れもなく、突然現れたのだった。
 
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