最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一七八話

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「へぇ~、そんなことが……」
「あのあと、お前達はそんなことをしていたのか」

 セレスに説明するついでにと、俺はセリカ達出会った経緯と別れたあとの行動……ようは、エルフの村での出来事についても一通り話すことにした。
 一連の話を終えると、セレスが抱いた子ワーウルフをナデナデしながらそんな相槌を打ち、セリカはというと……

「それにしても、なんというのか……お前は運が悪いというか、むしろ一周回って良いとさえ言えるのか……?
 この国に来て早々にエルフの誘拐現場に偶然立ち合い、流れで我々と共に悪徳貴族を襲撃し、挙句脱走騎士と一戦交えたあとに、歩く厄災などとも呼ばれるアーマジロと遭遇しこれを撃退。
 で? 今度は受けた依頼の最中に、銀狼族の幼生を保護っと……
 お前は余程騒動の女神に愛されているらしいな」

 と、そんな感じで感心した様な呆れたような、どっちつかずな顔を俺へと向けていた。

「……そんな加護はいらんとです」

 それならまだ、女の子にモテモテになる呪いとかの方が欲しかったっす。

 まぁ、自分から首を突っ込んでいる部分もあるとはいえ、セリカに改めて指摘されると、確かに色々と騒動に巻き込まれているよな、俺。
 セリカ達とバハル邸を襲撃したのは俺の意思だが、ソアラに出会ったのも、赤鎧ことアーマジロを討伐することになったのも、この子ワーウルフを拾ったのもただの偶然だからな。 

「おっと、セレス殿には色々と話したあとで申し訳ないが、後半部分はともかくとして、前半部分にはまだ開示されていない情報も多分に含まれておりますので、この件は他言無用でお願いしたい」
「心得ておりますとも」

 で、セリカの言葉に笑顔で恭しく頭を下げるセレス。
 
「そういえば、エルフの村……オファリア村ってところで、随分と昔に人間の学者が遺跡の調査をしていた、なんて話を聞いたな。
 それを聞いて、俺は神秘学研究会の存在を知って、遺跡の話を聞く為に王都を目指したわけなんだが……この学者って、もしかしてセレスも知っている人だったりするのか?」
「知っているも何も、間違いなく、それはおじ……先代の学部長のことね。とにかくフットワークが軽い人だったから、何か気になることがあると、すぐに自分の足で調査に向かってしまうのよ。
 聞いた話だと、確かその時は何も発見出来なかったって、とても悔しそうに話していたことを覚えているわ」

 もしかして、と思って聞いてみたらやはりセレスのおじいちゃんのことだったか。
 ノマドさんからセレスのおじいちゃんの話しを聞き、それを頼りに尋ねてみればその孫に会うとは、何か因果めいたものを感じるな。

「そうだ。博識ついでに、もう少し聞きたいことがあるんだが……」
「あら、何かしら?」
「ワーウルフの食べる物についてなんだが。実はな……」

 というわけで、俺はワーウルフ達の食べ物について詳しく聞くことにしたのだ。
 俺は子ワーウルフを保護した時に、塩や香辛料を使って作ったソーセージを子ワーウルフに与えていた。
 聞き齧った程度の知識しかないが、確か犬にはそういう刺激物は厳禁だったはずだ。
 それらを食べた子ワーウルフが、未だに体調不良を起こしている風には見えないが、食べさせても大丈夫なものなのかどうかを確認する必要はあった。

「結論から言えば、食べ物に関しては殆ど問題はないわね。
 銀狼族に限った話ではないけれど、彼らは見た目には獣の要素を多く持ってはいても、本質的には私達“人”と同じ生き物なの。
 個人の好き嫌いはあるにしても、私達にとっては無害でも彼らにとっては毒、というようなものは本当に極一部の特赦なものしかないわ。
 基本、私達にとって毒なら彼らにとっても毒だし、彼らにとって毒な物は私達にも毒なのよ」
「へぇ~、なるほど。それが聞けて安心したよ。ヤバい物を食わせたんじゃないかと内心少し焦ってたんだ。
 でも、そいうのもあるにはあるんだな」
「当然でしょ? まったく同じ存在で無い以上、多少の差異は生まれるものよ。
 人間だって、モーフィーのお乳を飲んでお腹を下す民族もいれば、大丈夫な民族もいる。そういうものよ」

 牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする人としないことの違い、みたいなものなんだろうな、と話を聞いてそう思った。
 ってか、モーフィーってなんだよ……

 ちなみに、これは後に知った事だが、モーフィーとは牛と豚を足して二で割ったような生き物で、ミルクは勿論食肉してノールデン王国で広く飼育されている家畜だ。
 俺がマルトム村やサーイ村で買った加工肉や乳製品の大本がこいつらである。

「流石は天才美少女学部長なだはあるな。頼りになるよ」
「びしょっ……! ま、まぁ……伊達や酔狂で学部長をしているわけではないからこれくらいは当然ね」

 そう言って、セレスがフンスっと鼻息荒く胸を張る。
 何故か若干、頬が赤くなっているような気がするが、気のせいか?
 で、何やら横から視線を感じて首を巡らしてみると、こちらをジトっとした目で見つめるセリカと目が合った。

「な、なにか?」
「……いや、ただ、まぁ、相変わらずだと思ってな。
 背後から刺されない様に、精々月のない夜道は気を付けることだな」

 え? なんで俺、セリカに脅されてるんだ? 意味が分からんのだが……

「そうだ。食事の話しが出たことですし、ついでに銀狼族の生活様式など、教えて頂けないでしょうか?」
「生活様式……ですか?」
「ええ。実は、帰す先が見つかるまで、私の実家でその子の世話をしようと思いまして。つきましては、世話をする上で気を付けることなどがあればご教授願えないかと」
「なるほど。そういうことでしたら、わたくしの知り得る限りのことをお教えしましょう」
「忝い」

 とまぁ、そんなこんなで子ワーウルフのお世話の仕方なども学び、一通り聞いたところで神秘学研究会での要件も終わり、俺達はここで解散することになった。
 セリカはこのまま一度実家に戻り、保護した子ワーウルフを預かってもらえるように親に話に行くらしい。
 一緒に来るかと誘われたが、この件に関してはこれ以上俺が関与できることもないだろうからと辞退することにした。
 というわけで、俺は銀月の湖畔亭へ直帰である。
 すっかり日が傾いた街中を、俺は溢れる人混みを掻き分けて岐路に着いた。

 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢

「ただいまぁ~」
「えっ!? おにいさん、数日は帰らないんじゃなかったんですか!?」

 俺がそう言って銀月の湖畔亭の扉を開くと、たまたま受付カウンターの前を通りかかったミラちゃんとばったり出くわした。

「そのつもりだったんだけど、思いの外仕事が早く片付いてね。こうして早く帰って来れたんだよ」
「そうなんですか。あっ、でも帰らないって聞いていたんでおにいさんの分のご飯はないですよ?」
「ああ、その点は大丈夫。ちょっとしたお土産を買って来たから」
「お土産? ですか?」

 そう言って、こてんっと小首を傾げるミラちゃん。

「そそ。まぁ、物を見てもらった方が早いな。イースさんは?」
「お母さんなら、今は私達のご飯を用意すめたるに厨房にいますけど……」
「なら丁度良かった。ちょっとお邪魔するよ」

 そう一言断って、俺は食堂へと足を向ける。当然、それに着いて来るミラちゃん。

「っ!? スグミ様!? 今日はお戻りになられないはずじゃ……」

 食堂に入ると厨房で作業をしていたイースさんが、すぐに俺に気が付いて声を掛けて来た。
 決して広くはない食堂に厨房だからな。入ればすぐに気付かれる。

「思ったよりも早く仕事が片付いたもので帰って来ました」
「そうなのですか。あの、帰らないと聞いていたので今日の分のお食事が……」

 ミラちゃんと同じようなことを気にするイースさんに、俺は手で待ったをかける。

「実は、食材に関してはこっちで用意してあってですね……」

 そう言いつつ、俺は肩から下げていたリュックに手を突っ込むと、今日買った生肉のブロックや、ソーセージやベーコンといった加工肉、それにチーズにバターといった乳製品、キノコ、山菜、ドライフルーツといった山の幸を取り出してはカウンターの上へと並べて行った。
 傍からはリュックから食材を出している様に見えるだろうが、このリュックはダミー用に用意したカラのリュックである。
 本当は、事前にインベントリーへと移しておいたものを取り出しているだけだ。
 インベントリーや亜空間倉庫といったスキルを人前で使うには目立つので、一応のカモフラージュとして小細工を施している。

 ちなみに、カウンターに並べた食材は今日入手した物のほんの一部だ。
 チェストボックスの中には、この何倍もの量の肉やチーズが詰め込まれている。

「おっ、お肉がこんなにいっぱいっ! それにチーズまでっ!」
「あの……これは?」
「今日の仕事で立ち寄った村で買って来た物ですよ。これで何か作ってもらえればと思って。
 勿論、食事代は払いますよ」

 食事代といってもたかが500ディルグだしな。

「いえ、そんなこれだけ用意して頂いてお代なんて……
 それでは、こちらで何かご用意させて頂きます」

 というわけで、イースさんが並べた食材をカウンターから厨房へと移す。

「ああ、そうだ。沢山あるので、もしよかったらイースさん達もどうぞ召し上がってください」
「えっ!! このお肉食べてもいいんですかっ!」

 そんな俺の言葉に、秒で反応してのがミラちゃんだった。
 目をキラキラと輝かせ、既に口の端から涎が滴りそうにさせながら、俺へと詰め寄って来る。

「こらミラっ! 恥ずかしいことしないのっ!」
「だって、お肉だよお肉っ! ここ一年くらいまともに食べてないお肉だよっ! しかもこんなに立派なっ! 骨に薄っすらこびりついてるようなやつとは違うんだよっ!」
「お願いだから静かにして……」

 興奮が最高潮に達しているミラちゃんとは裏腹に、イースさんの声はどんどんか細いものへと変わっていった。
 厨房の奥へと行ったことで、物理的に距離が遠くなったから、という理由だけではないだろう。
 にしても、本当に慎ましい生活をしていたみたいだな……
 そういえば、野菜くずのスープはもう嫌だ、みたいなことも言ってたっけか?

「そ、それでは少しだけご相伴に預からせて頂きます」

 食材の運搬が終わったのだろう。
 カウンターへと戻って来たイースさんが、申し訳なさそうな顔で俺へと向かって頭を下げる。
 顔にやや赤味が差しているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

「やったぁー! この太いソーセージ食べてみたい! あっ、ベーコンは分厚く切ってね。分厚……ぐふっ!?」
「ミラちゃん? ちょっと静かにしよっか?」

 何時の間に厨房に移動したのか、大量の食材を前にはしゃぐミラちゃんの顔面を、イースさんのアイアンクローがフェイスをハガーしていた。

「少し失礼しますね」

 俺に向かってにこやかにそう言うイースさんではあったが、目が全然笑っていなかった……

「ちょっ! お母さんっ! イタイっ! 痛いよマジでっ! 割れるっ! 頭、割れちゃうからっ!」

 そうして、イースさんはミラちゃんのフェイスをハガーしたまま、ズルズルとミラちゃんを引きずって厨房から何処かへと続く扉を潜って出て行ってしまったのだった。
 それにしてもミラちゃんや……
 なんというか、雉も鳴かずば撃たれまい。って、ちょっと違うか? 
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