194 / 418
逡巡する初冬編
お宅訪問
しおりを挟む
水曜日。
雪乃が『空けておいて』と言った日の放課後。
勉強道具を片付けて鞄にしまっているところに、雪乃が声を掛けてきた。
「じゃあ、行こ」
僕の腕をつかむ。
「どこ行くの?」
「いいから、いいから」
「今日は演劇部は?」
「無いよ」
雪乃はそう言って僕の腕を引っ張って教室を出た。
連れてこられたのは、メトロの雑司が谷駅。
そして、地下鉄に乗り込んで一駅。西早稲田駅に到着した。
駅を降りて、徒歩数分のマンションまでやって来た。
これは、もしかして…。
エレベーターで昇り、ある部屋に招かれた。
扉の横のネームプレートに『織田』の文字。
雪乃の家だ。
「いらっしゃーい」
雪乃は、そう言って僕の背中を押して、中に入れる。
「お、お、お邪魔します」
まさか雪乃の家に来ることになるとは思わず、動揺しながら玄関で靴を脱いでいると、奥から織田さんの母親が出て来た。
「あら、いらっしゃい」
母親は笑顔で挨拶をしてきた。
「お、お邪魔します」
緊張するなあ。
「また違う男の子なのね」
母親は笑いながら、意地悪そうに雪乃に言った。
「ママ! 余計なこと言わなくていいから!」
雪乃は母親を奥へ押し戻して行く。
そして、奥のほうから、男の子がじっと覗いていた。
そう言えば、小6の弟が居ると言ってたな。あの子がそうなのだろう。
僕は雪乃の部屋に招かれる。
綺麗に片付いている部屋の家具やカーテンは淡いピンク色で統一されていた。
これが、女子の部屋か! うーん、異世界。
僕は、実は、妹以外の女子の部屋に入るのは初めてだった。
ちょっと感動。
「その辺に座って」
雪乃はローテーブルの脇の黄色の座布団を指さした。
僕は指示通りに座る。
「まさか家に招かれるとは思ってなかったよ」
そして、家族が居てよかった。
2人きりだったら雪乃が迫ってくる可能性が高かっただろう。
さすがに、家族がすぐそばに居るところで、僕に迫ってきたりはしないと思うが…。
「じゃあ、やりましょう」
雪乃は突然言う。
「えっ!?」
ヤるって!?
僕は呆然としてしまった。
「この前、『今後、勉強教えてくれる』って言ったでしょ?」
ああ、勉強をやるのか。
「も、もちろんいいよ。教科は?」
「今日の数学。さっぱり、わからなくて」
織田さん、勉強しようと言って来るとは、意外に真面目だな。
少し勉強していると、雪乃の母親がお茶菓子を持って部屋に入ってきた。
テーブルにそれらを置くと、話しかけてきた。
「今度の彼氏は真面目そうね」
母親は僕の顔をマジマジと見てそう言った。
「真面目だよ。頭も良いし、学年9位だよ! だから勉強を教えてもらってる」
「雪乃。今まで勉強なんかしなかったのに、彼氏の影響かしら」
「ママ! いいよ、余計なことは!」
「あなた、お名前は?」
母親は僕に尋ねた。
「武田純也です」
「武田さん。今後も雪乃をよろしくね」
「は、はい…」
親に紹介されるとか、外堀を着実に埋められていてそうで、なんか嫌だな。
僕は、まだ(仮)の彼氏のはずだが…。
そんなこんなで、数学の勉強は、きりの良いところで終えた。
今日は雪乃が学園祭で出演した『オセロ』と映研のショートムービーを観ようということになった。
そんなわけで、雪乃の持っていたノートパソコンでYouTubeを開き、映像を鑑賞する。
これらも映研が編集したらしく、作りがちゃんとしていた。
鑑賞終了。
『オセロ』ってシェークスピアだったのか。雪乃が教えてくれた。
映研のショートムービーはオリジナルのミステリー。
学園祭では、自分の舞台の出番があったので、最初の5分だけ見たのみだったが、今回は最後まで。結構面白かった。
「このショートムービーの台本も執筆部の人が書いたの?」
「そうよ。1年C組の森さん。冬公演の台本も書いてもらったよ」
森さんね。
まあ、執筆部も演劇部も関与していないので、僕と接点が出来ることもないだろう。
舞台映像の鑑賞が終わって、良い時間になったので、僕は帰宅することに。
今日は雪乃とキスしたりすることもなく終わった。
そして、雪乃は西早稲田駅まで見送ってくれた。
僕はホームのベンチに座って、それにしても西早稲田に来るの久しぶりだった、などと考えなから駅名標を見る。
≪F11 西早稲田≫
ん? 駅名標、なにか頭に引っ掛かるな…。
しかし、それが何か思い浮かばなかった。
地下鉄が来たので、僕は考えるのを止めて乗り込んだ。
雪乃が『空けておいて』と言った日の放課後。
勉強道具を片付けて鞄にしまっているところに、雪乃が声を掛けてきた。
「じゃあ、行こ」
僕の腕をつかむ。
「どこ行くの?」
「いいから、いいから」
「今日は演劇部は?」
「無いよ」
雪乃はそう言って僕の腕を引っ張って教室を出た。
連れてこられたのは、メトロの雑司が谷駅。
そして、地下鉄に乗り込んで一駅。西早稲田駅に到着した。
駅を降りて、徒歩数分のマンションまでやって来た。
これは、もしかして…。
エレベーターで昇り、ある部屋に招かれた。
扉の横のネームプレートに『織田』の文字。
雪乃の家だ。
「いらっしゃーい」
雪乃は、そう言って僕の背中を押して、中に入れる。
「お、お、お邪魔します」
まさか雪乃の家に来ることになるとは思わず、動揺しながら玄関で靴を脱いでいると、奥から織田さんの母親が出て来た。
「あら、いらっしゃい」
母親は笑顔で挨拶をしてきた。
「お、お邪魔します」
緊張するなあ。
「また違う男の子なのね」
母親は笑いながら、意地悪そうに雪乃に言った。
「ママ! 余計なこと言わなくていいから!」
雪乃は母親を奥へ押し戻して行く。
そして、奥のほうから、男の子がじっと覗いていた。
そう言えば、小6の弟が居ると言ってたな。あの子がそうなのだろう。
僕は雪乃の部屋に招かれる。
綺麗に片付いている部屋の家具やカーテンは淡いピンク色で統一されていた。
これが、女子の部屋か! うーん、異世界。
僕は、実は、妹以外の女子の部屋に入るのは初めてだった。
ちょっと感動。
「その辺に座って」
雪乃はローテーブルの脇の黄色の座布団を指さした。
僕は指示通りに座る。
「まさか家に招かれるとは思ってなかったよ」
そして、家族が居てよかった。
2人きりだったら雪乃が迫ってくる可能性が高かっただろう。
さすがに、家族がすぐそばに居るところで、僕に迫ってきたりはしないと思うが…。
「じゃあ、やりましょう」
雪乃は突然言う。
「えっ!?」
ヤるって!?
僕は呆然としてしまった。
「この前、『今後、勉強教えてくれる』って言ったでしょ?」
ああ、勉強をやるのか。
「も、もちろんいいよ。教科は?」
「今日の数学。さっぱり、わからなくて」
織田さん、勉強しようと言って来るとは、意外に真面目だな。
少し勉強していると、雪乃の母親がお茶菓子を持って部屋に入ってきた。
テーブルにそれらを置くと、話しかけてきた。
「今度の彼氏は真面目そうね」
母親は僕の顔をマジマジと見てそう言った。
「真面目だよ。頭も良いし、学年9位だよ! だから勉強を教えてもらってる」
「雪乃。今まで勉強なんかしなかったのに、彼氏の影響かしら」
「ママ! いいよ、余計なことは!」
「あなた、お名前は?」
母親は僕に尋ねた。
「武田純也です」
「武田さん。今後も雪乃をよろしくね」
「は、はい…」
親に紹介されるとか、外堀を着実に埋められていてそうで、なんか嫌だな。
僕は、まだ(仮)の彼氏のはずだが…。
そんなこんなで、数学の勉強は、きりの良いところで終えた。
今日は雪乃が学園祭で出演した『オセロ』と映研のショートムービーを観ようということになった。
そんなわけで、雪乃の持っていたノートパソコンでYouTubeを開き、映像を鑑賞する。
これらも映研が編集したらしく、作りがちゃんとしていた。
鑑賞終了。
『オセロ』ってシェークスピアだったのか。雪乃が教えてくれた。
映研のショートムービーはオリジナルのミステリー。
学園祭では、自分の舞台の出番があったので、最初の5分だけ見たのみだったが、今回は最後まで。結構面白かった。
「このショートムービーの台本も執筆部の人が書いたの?」
「そうよ。1年C組の森さん。冬公演の台本も書いてもらったよ」
森さんね。
まあ、執筆部も演劇部も関与していないので、僕と接点が出来ることもないだろう。
舞台映像の鑑賞が終わって、良い時間になったので、僕は帰宅することに。
今日は雪乃とキスしたりすることもなく終わった。
そして、雪乃は西早稲田駅まで見送ってくれた。
僕はホームのベンチに座って、それにしても西早稲田に来るの久しぶりだった、などと考えなから駅名標を見る。
≪F11 西早稲田≫
ん? 駅名標、なにか頭に引っ掛かるな…。
しかし、それが何か思い浮かばなかった。
地下鉄が来たので、僕は考えるのを止めて乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる