色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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証言者たち

ブラウグルン共和国・フルッスシュタット

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 大陸歴1710年5月17日・ブラウグルン共和国・モルデン

 イリーナ・ガラバルスコワとクララ・クリーガーは駅馬車を使ってモルデンを出発した。次の目的地は、宿屋街のフルッスシュタットだ。そこで一泊してからズーデハーフェンシュタットに向かう。

 駅馬車では、品の良い初老で人物と一緒になった。聞くと彼は宝石商をやっているという。
 彼は若い頃は、彼の叔父と一緒にブラウグルン共和国を拠点にダーガリンダ王国やテレ・ダ・ズール公国を行き来して、魔石や魔術書の取引をしていたそうだ。現在では魔術を使う人は少なくなったので、宝石を主に扱っているという。

 ダーガリンダ王国はかつては魔石の産地として栄えていたが、魔石の需要が減ってからは、かの国は鉱石や宝石の産地でもあったので、それが今では国家の主な収入源となっている。
 魔術は昔、戦争でよく使われていたが、パルラメンスカヤ人民共和国と近隣諸国では “人民革命”以降、約五十年間は、大きな戦争が無かったため強力な魔術の必要性が減ったためだ。その帰結として魔石の需要も減った。
 更に、戦争の最中でもあまりにも強力な魔術は、大量な犠牲者が出ることで戦いで使うことは忌避されていた。
 強力な魔術が使われなくなる切っ掛けとなった大事件が大陸でもいくつかある。
 更には、かつては魔術が盛んだったダーガリンダ王国やヴィット王国でも悪意を持った魔術師が、たびたび国内外で悪事を働く事件が多かったので、いくつかの国では徐々に魔術の使用を禁止するようになったのだ。

 モルデンでオットー・クラクスから聞いた新しい真実で、“チューリン事件”に裏で関係していたアーランドソンという魔術師も大陸を征服しようという野心から、魔術を悪用してブラミア帝国を乗っ取っていた。
 また、 “ユルゲン・クリーガー回想録” にも書いてある内容で、ダーガリンダ王国が魔術を禁止するきかっけとなった “最後の魔術師 ”事件。王国の天才魔術師が国に逆らって山の坑道に立てこもり戦いとなり多数の犠牲者を出しただけでなく、近隣諸国にも影響が出た事件があった。

 初老の商人とはそういった魔術の歴史のような話を駅馬車の中でしばらくしていた。
 あと、イリーナとクララは商人が持っている宝石も見せてもらった。二人は目を輝かせて宝石に見入ったが、値段を聞くと、商人は、「学生さんにはとても手が出る額じゃあないよ」と笑ってみせた。
 それはそうだろう。

 夕刻、駅馬車はフルッスシュタットに到着した。
 商人は別れ際に名刺を二人に渡した。二人は別れの挨拶をして、名刺を見た。

 “宝石商 ウォルフガング・シュルツ”

 今後、何かの機会があるだろうか?

 二人が駅馬車の停車場を出ると旅行者向けであろう看板が立てられているのが目に入った。
“ようこそ! マリア・リヒターの故郷 フルッスシュタットへ”
 それを見てクララが尋ねた。
「マリア・リヒターって誰だっけ?どこかで、聞いたことがあるような…?」
「確か、共和国再興の立役者の一人よ。 “回想録” の中にも二,三度名前が出てきたわ。ユルゲンさんの傭兵部隊に短期間だけと参加していた、と書いてあるわよ」。
「そうだっけ? また後で読んでみる」。

 二人は適当な宿屋をさがして荷物を置いて、食事をしに出掛けることにした。
 街の中を適当に散策していると、クララが「おおっ」と一声上げてある建物を指さした。
 彼女の指のさす方向を見ると。“バー ブラウワ・スターン”という看板のかかった建物があった。
「また、飲むの?」イリーナはあきれるように言った。クララは酒好きなのだ。「あんたの事、“酒樽”って呼ぶわよ」。
「いいよー」。
 クララは明るく答えた。
「いいのかよ…」。
 イリーナはさらにあきれた。まあ、ここでも食べる物もあるだろうから、いいだろう。

 二人は酒場の中に入った。
 店は時間が少々早いためか、まだ空いていた。適当に空いている席に座り、クララは酒とつまみを、イリーナは食事を頼んだ。
 二人は二時間飲み食いして、宿屋に戻り就寝し、明日の出発に備えた。
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