色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
上 下
12 / 66
証言者たち

ブラウグルン共和国・首都ズーデハーフェンシュタット

しおりを挟む
 大陸歴1710年5月18日・ブラウグルン共和国・ズーデハーフェンシュタット

 翌日、イリーナ・ガラバルスコワとクララ・クリーガーは駅馬車を使ってフルッスシュタットを出発し、さらにグロースアーテッヒ川を渡し船で渡り、夕方にはズーデハーフェンシュタットに到着した。
 ここでも安い宿屋を駅馬車の係員に聞いて、そこに泊まることにした。
 
 宿屋に到着して荷物を部屋に置くと、長旅で疲れた二人はベッドに身を投げ出してぐったりした。
「わたし、ちょっと寝るわ」。
 クララはうつぶせで、枕に顔を半分うずめたまま言う。
「そう。私は少し休んだら、食べ物を買いに行って来るわ」。
 イリーナはそういって、クララの隣のベッドで仰向けで寝そべって、自分の資料を読んでいた。ユルゲン・クリーガーの弟子オットー・クラクスから聞いた話が衝撃的で頭から離れなかった。

 しばらくして、夕刻頃、イリーナは起き上がり、食料の買い出しに街に出かけた。
 宿屋の主人に近くの市場の場所を聞き、そちらに向かう。
 辺りは少々暗くなっている時間だが、人通りは多く、大通りには人民共和国ではまだ珍しいガス灯が明るく辺りを照らしている。イリーナとクララの故郷・アリーグラードも大陸でも人口かなり多いが、それに劣らないにぎわいだった。
 そして、海が近いのか、微かに潮の香りがする。
 海のないパルラメンスカラ人民共和国出身の二人は海を見たことが無かった。明日、時間を見つけて海を見に行きたいとイリーナは思った。

 イリーナが宿屋に戻るとクララはまだ眠っていた。
 イリーナがクララを叩き起こす。
 「晩御飯買って来たよ!」
 「ん?…、ああ、晩御飯? ありがとう」。
 クララが目をこすりながら身体を起こした。
 そして、二人は床に座って、イリーナの買ってきた食べ物を並べる。
 貿易港らしく珍しい果物があった。海も近いので魚の干物も。肉類はソーセージなどをの少し。手洗い桶で手を洗って、二人でわいわい言いながらそれを食べ始める。
「ワインもあるわよ。なんか安かったから」。
 イリーナが瓶を取り出した。
「おお!でかした!」クララは喜んで軽く両手を打った。「でも珍しいねえ。イリーナが飲みたいなんて」。
「たまにはね」。
 イリーナは少し恥ずかしそうに答えた。クララはワインのラベルを見るとアレナ国産とあった。このワインは最近、帝国でもよく出回り始めた品だ。帝国では少々高めだが、共和国ではかなり安く売られていたので、イリーナはお得感から衝動買いしてしまったのだ。
「コルク抜きは?」
「抜かりはない」。そういってイリーナはコルク抜きを取り出した。「さっき、宿屋のおじさんに借りた」。
 イリーナはコルクを抜いた。
 そして、カップにワインを注いで、酒盛りが始まった。
「かんぱーい!」

 ◇◇◇

 翌日の朝、イリーナは旅の疲れの影響もあったのか、二日酔いでうなだれていた。一方のクララは、けろっとしている。
 二人でワインの瓶一本はちょっと量が多かったか。イリーナはさほど酒が強い方ではなかった。一度、何とか起き上がり、コップに水を汲んで飲んだ。そして、またベッドに横になる。
 ソフィア・タウゼントシュタインとは、手紙であらかじめ会う約束をしている。それは、今日の午後だ。それまでには酔いも醒めるだろう。

 クララは一人で食料の買い出しに出かけた。
 正午、少し前にはイリーナの二日酔いも醒めて来た。イリーナが起き上がったところにちょうどクララが返って来た。
「ずいぶん遅かったわね」
「ちょっと迷っちゃって。いろんな人に道を聞いて戻ってきた」
「戻ってこれて良かったわね」
「もう体調はいいの?」
「だいぶ、良くなったわ」

 クララはそれを聞いて安心したような表情をして、買って来た食料の袋をテーブルの上に置いた。
「結局、お昼ご飯になっちゃたよー」
 二人は、資料を読みふけながら、昼食を食べる。
 イリーナは、まだ二日酔いを抑えるため、頻繁に水を水差しからコップに汲んで、飲んでいた。

 イリーナとクララは海を見たことが無かったので、今日のソフィアと会うまでの時間がまだ少しあったので、港を見に行こうということになった。ソフィアも港に近いところに住んでいるらしいので、ちょうどいいだろう。
 歩いて港の桟橋付近まで来た。多くの人が忙しく働いている。数多くの貿易船がいて、積み荷の陸揚げをしていた。

「ここらへんで、お爺様と共和国軍の戦争継続派が戦ったのかなあ?」
 クララが話しかけて来た。
「きっとそうよ。港に停泊していた戦艦の上で戦争継続派の兄弟子と戦ったって“回想録”に書いてあったからね」
 クララは桟橋のほうを指さしながら答えた。
 二人は港の賑わいを見ながら目的地に向かって歩き続ける。

 ソフィアから手紙によると、彼女は海が見える石造りのアパートの二階に住んでいると言う。
 イリーナとクララは目的の建物を見つけると階段を上がり、ソフィアの部屋の前に来た。そして、扉をノックする。
 返事があって出て来たのは中年男性だった。二人が予想外の人物に驚いていると、男性は自己紹介した。
「こんにちは。お待ちしておりました。私は、ソフィア・タウゼントシュタインの息子で、ステファンです」。
「こんにちは、私は、イリーナ・ガラバルスコワです」。
「私は、クララ・クリーガーです」。
 二人は頭を下げた。
「どうぞ中へ」。
 ステファンは二人を中へ招き入れた。
「母は、足が悪くて、最近はほとんど部屋にいるんだよ」。
 そういって、さらに奥に案内する。
 二人が奥の部屋に入ると、ベッドの端を背もたれにしている老女がいた。ステファンは彼女に声を掛けた。
「かあさん、お二人が来たよ」。
 老女は読んでいた本を閉じて顔を上げ、二人を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...