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番外編(後日談)
番外編5 ねえ、レオルド わたしだって負けないよ?−1
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ふたりが結婚してから最初の冬。
フォ=レナーゼの首都メル=ケアにて
シェリルは従姉妹のケリーとともに街の散策後、
カフェにてお茶を楽しんでいた。
※番外編4の少しあとのお話です。
* * * * * * * * * *
「んー! 楽しかった!」
わたし、シェリルはいま、すっごく満たされてる。
たっぷり街を散策して、大満足でこうしてお茶してるんだけど。
「ね? こうやって一緒にお買い物するの、いつぶり? もう1年以上たってるわよね?」
「かも……! なんだか去年の春から、すっごく目まぐるしくって……!」
中央公園近くのカフェの、窓際の席。
わたしはこの日、久しぶりに従姉妹のケリーと一緒に街をぶらぶら散策してた。――つまり、女の子同士のデートですよ、デート!
最近はお出かけするときは、いつもレオルドと一緒だったのもあって、なんだかとっても新鮮な気分。
外は寒かったけど、いっぱい歩いてポカポカだし、今はこうしてあったかなカフェでひといき。香りのいいお茶を口にしながら、ふふふと声に出して笑う。
「ケリーだからだよ、レオルドが折れたの。ふふっ、レオルド、ケリーにはたじたじだったもんね」
わたしの正面の席に着いているのは、ケリー・ソーウェル。お父さまの妹の子で、わたしの一個下。
淡い茶色の巻き毛に、緑色の瞳の、きりっとした美人さんだ。
わたしがまだ学校に通えてなくて、家に引き籠もっていた幼いころから仲良くしている親族。……というか、数少ないお友達で、大人になってからもよく街を一緒に散策したり、観劇したりしてたんだけど。
……ほら、去年さ? わたしがレオルドを迎えにいってから結婚するまで、ずーっとバタバタしてたでしょ?
お式にはもちろん来てくれたけど、ゆっくりお話もできなかったもん。だからこうして今日は、ふたりで街を歩いたり、お茶したり。思う存分息抜きしてるってわけ。
あ、もちろん護衛にアンナがついてきてくれるよ?
わたしたちと同じ席について、お姉さんの顔をしてお話聞いてくれている。
そう。
つまり、今日は女だけの日なの!
――だってさ?
レオルドとわたしってさ、お仕事はたまにバラバラになったりもするけれど、基本一緒じゃない?
フォ=レナーゼまで戻ってくるときにくっつきっぱなしだったってこともあるから、さらにお仕事以外でもずーっと一緒にいることが多い。それが落ち着くって理由で。
あ。もちろんね?
レオルドと一緒にいるのは、すっごく嬉しいし。幸せなんだよ? なんだけど……ね?
「レオルドってああ見えて、けっこう心配性なところあるからさ。こうして女ばかりで出かけるのとかって、こっち戻ってきたから全然なかったもの」
そうっ。そうなんだよね。
たまには、女だけであれこれお話したいこと、あるじゃない?
え?
あー……うん。
とかなんとか言っていますけれどもね?
……はい、そうです。
つまり。
女の子同士だったら、好きなだけレオルドののろけばなし、できるじゃない……!?
本音を言いますと、のろけたかっただけ、といいますか……!
ほらほら、だって。レオルドがいたらレオルドののろけ話ってできないじゃない?
わたしだって、女の子ばかりできゃっきゃ言いたいもん。
デガン王国ではいろいろあったけどさ?
レオルドが助けに来てくれたときの話とかっ。あー……言えないお話も、いっぱいあるけど? でもでも、ね? いろいろ、お話ししたいじゃないですか。
だからね?
わたしだって、レオルドなしでお出かけしてさ、人と会いたくなることだってあるってわけなんだよね。
そんなこんなで、ついついのろけ話だったりとか、デガンでのあれこれとか、たっぷりお話して。
ケリーも聞き上手だから、ついついあれこれ、話しすぎってくらいに話しちゃって、ちょっと気恥ずかしくなってきちゃった。
喉が渇いちゃって、お茶のおかわりまで頂いて、わたしはふーって息を吐いた。
「……なんだか、すっごく話しすぎた気がする」
「いつもと逆じゃない? シェリルってば、いつも私の話を聞いてくれる方だったもの」
「そうかな。……うーん、そうかも? えへへ、ごめんね。さっきも言ったけど、こういうの久しぶりで」
外の空気は冷たいけど、お店の中にいたらぽかぽかあったかくて、いつまででも長居ができてしまいそう。
ごめんごめん、ケリーのお話も聞くよって声をかけて、今度は彼女の恋のお話を聞かせてもらう。彼女はわたしよりも全然交友関係が広いし、流行にも詳しいから、情報交換もかねていろいろ聞いてたんだけどね?
「あ、いました。あちらの席です。僕は、あちらに」
なんて、遠くで店員さんと誰かが話す声が聞こえてきてさ。
あれ? なんか聞いたことがあるような――ないような――ってふと思ったら、ケリーが「げっ!」って呟いてさ。
ぎぎぎぎぎ、とゼンマイのように入口の方に顔を向けて、信じられないって顔をした。
「ケリー?」
「…………ごめん、シェリル」
「?」
彼女の視線の先を追うと、こちらに向かって歩いてくる、ケリーと同じ色彩をもつ青年がひとり見えた。
うーん、まだ学生さんなんじゃないかなあ。
わたしたちより結構若くて、柔和な笑顔が印象的なんだけど…………んんん? 見たことあるような、ないような。
「シェリルさん、久しぶり! このあたりにいるんじゃないかなって探してたんだけど、見つかってよかった!」
って? あれ? 話しかけられた。
って、久しぶり?
やっぱり会ったことがある……???
わたしが小首を傾げると、その青年はふふふ、と嬉しそうに目を細める。
「うーん。わからないかな? ヒューバートだよ。そこにいる、おしゃべりな姉さんの弟の」
「え!?」
「ふふ。そんなに成長した? わからないくらい変われたって、逆にうれしいかも」
あまったるい笑顔を浮かべて、青年――つまり、わたしの従兄弟のヒューバートは、はにかむ様に頭を掻いた。
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