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番外編(後日談)
番外編5−2
しおりを挟む「ヒューバート!? え!? あの、ヒューバート!?」
「そうだよ。シェリルさん。ふふ、見つかってよかった。姉さんとお出かけするって聞いたから、目星つけて探したんだけど――――あ、ここ。空いているとこ、座るね?」
「え、あ、うんっ。どうぞどうぞ」
コートは適当に店員に預けながらも、丸いテーブルで空いていた一席を、彼は自分で引いて座ってしまう。
って、足、なっが。
え? 最後にヒューバートと会ったのって、たしか3年くらい前だよね?
3年前にマーセリーナ王国の王都マルドゥラにあるマルドゥラ高等学校に留学して、そのままマルドゥラ大学まで入っちゃったんだよね。
マルドゥラ大学って、この近郊の国々でも一番って言われるくらい超有名大学だから、わたしもびっくりして、すっごく覚えてる。
そこがあまりに勉強が忙しかったらしく、そういえば、わたしたちの結婚式も来られなくてさ。ケリーがすっごく謝ってきたの、覚えてる。
へええ。
そっかあ。今、ちょうど冬期休暇でこっちに帰ってきてたんだ。
でも、ヒューバートってば、3年でこんなに変わるもの? ってくらい、すっごくおっきくなってる。
レオルドには届かないくらいけれども、身長もすっごく高くなってなかった? わたしとはもう頭ひとつ分ちかく離れちゃってる?
すごいなあ。ぜんぜん雰囲気変わっちゃったもん。
3年前はまだまだ美少年って感じだったもんね。
成長期がなかなかこなくて、女みたいなのが嫌だって言ってたの、すっごく覚えてる。
今だって中性的な顔は相変わらずだけど、体つきはしっかり男性になってて、筋肉だってついてるんじゃないかな。かなり鍛えてるっぽい。
ふふふ、服装変えたら、まるで騎士さまみたいになるんじゃないかなあ。
こんなにかっこよかったら、きっと大学でもモテてるんだろうなって思う。
ほら、今だって、ゆったりと腰かける彼はまさにどこぞの王子みたいだもん。
これで17歳とか……嘘でしょ。
「す、すごいね……ヒューバート、おっきくなったね……?」
「ははは。もうすぐ成人だしね。どう? 少しはいい男に見える?」
「見える見える。なんか、王子さまみたい」
「あー……そこは、騎士さまみたいって言ってほしいかも。ちゃんと鍛えてるんだよ? これでも」
「あ。そっか。ヒューバート、昔から騎士みたいになりたいって言ってたもんね」
「覚えてくれてたんだ」
正確にはちょっとちがうんだけど――なんてボソボソ言いながら、ヒューバートは微笑む。
うーん。
それにしても本当に綺麗な顔だなあ。大人っぽいし。
ケリーもそうだけど、この姉弟はこうして並ぶと壮観というか、美男美女ですさまじい。
ケリーは全然わたしよりも年上に見えるし、なんならヒューバートだってそう。
「シェリルさんも、髪も瞳の色も、すごく綺麗。――悔しいな。シェリルさんにまだ、こんなにも僕の知らないところがあったなんて」
「え? あ、ありがとう……?」
なんだかすっごく熱っぽい目で見つめられて、しかも褒められて。あわあわしちゃうのはしょうがないことだよね?
わたしってば、身長だってそんなに高くないし、童顔だしさ……あんまり綺麗って言葉で褒められたことないもの。
ヒューバートみたいな子にあんなにも真っ直ぐ褒められると、お世辞だってわかってても、そわそわしちゃうよ。
「結婚式、出られなくてごめんね。姉さんや家族が――――って、わっ!? 姉さん!? なに!?」
「いいから、ちょっと来なさい! ――あと、アンナ、お願い」
「はい、かしこまりました」
んんん!?
ケリーはヒューバートを連れてちょっと離れて行っちゃったし、アンナもアンナで、お店のカウンターの方へと何か用事があるみたいで行ってしまう。
っていうか、アンナってば! わたしじゃなくてケリーと意思疎通してたけど、一体なにかな!?
あと、ケリーとヒューバート、さっきからこそこそお話してるけど、どうしたのかな!?
わたしだけがひとり取り残されて、あわあわしていると、先にケリーたちが席に帰ってくる。
んー……ヒューバートってば少しだけふて腐れた様子だけど、どうしたんだろ。
「ケリー? えーっと、ヒューバートもどうしたの? 大丈夫」
「ええ。ちょっとね。――ヒューってば、女たちの集まりに押しかけてくるなんて、常識しらずだって少しね」
「え? でも、わたしはこうして久しぶりに会えてうれしいし。大丈夫よ?」
「…………はああ……シェリルは、ほんっとに、旦那さまひとすじね? 他の男なんてどーでもいいのよね?」
……なんだかケリーの言葉の至るところに力が入っているけど、どうしたのかな……。
まるで誰かに言い聞かせてるみたいなんだけど。う……うん?
でも、彼女の言っていることは全然まちがっていない。
ふと、レオルドの顔を思い出して、頬が熱くなっちゃう。
「どうでもいいって、そんな……。でも、そうね。旦那さまひとすじ……ってのは。ほら、だって……」
好きなんだもん。仕方ないじゃない?
ケリーだけならともかく、ヒューバートみたいな若い男の子に聞かれるのはちょっと気恥ずかしくって、もじもじしちゃうけど。
「ふふふ、そうよね! ひとすじだもの! いま、シェリルは新婚さんでらっぶらぶだもんね。他に目移りなんて、絶対ありえないもの」
「ちょ、は、……はずかしいって、ケリー!」
「でもそうでしょう?」
「そ、そうだけどっ」
ついでにいうと、新婚さんじゃなくなっても、他の男の人に目移りするとか、ありえないよ?
いつまでもわたしは、レオルドひとすじだし。そこは揺るぎない。
「ふっふっふー。だって、ヒュー?」
「わかってるよ、姉さん。――でも、僕だって」
バチバチバチ。
姉弟間で火花が散ってる気がするのは気のせい……かな……?
って思ったら、ヒューバートがこちらに視線を送ってくる。
お店のカウンターの方で何か話し込んでいたアンナも戻ってきて、ケリーに何かを伝えている。
念のため使いを出した? とか。もともとそろそろ迎えが来るころだから、あの方も――だとか。なんだかぼそぼそ聞こえてくるけど、ちょっと話が読めない。
一方のヒューバートはというと、彼女たちの話は無視して、わたしに向きあった。
「ずるいよ、シェリルさん。僕がいないあいだに結婚しちゃうなんて」
「ちょ……ヒュー!」
その会話に気がついたケリーが慌てて会話を遮ろうとする。
「僕の初恋は、シェリルさんだったのに」
「え? そうなの? ありがとう」
でも、ケリーが慌てるほどのことじゃないよね。
子供のころの初恋とか、なんだかすっごく可愛い話題。
ちょっとだけ歳が離れてるもんね? 昔はまだ、身長差も年相応にあったし、わたし、おねえさんできてたもん。
男の子の初恋だなんて可愛い話題に、にこにこ笑っちゃう。でも、なんだかケリーもヒューバートもちょっと呆れたような顔しちゃった。
「あのねえ……シェリル……」
ケリーが頭を抱えてるけど……え? 思い出話してるんだよね? ちがった?
「うーん。これは全然伝わってないなあ」
ヒューバートの方も、なんだかすっごく困った顔をして、頬を掻いている。
「あのね、シェリルさん。僕、ソーウェル家の長男ではあるけれど、母さんの血が強いというか……アルメニオの血が、わりと色濃く出てると思うんだよね」
「うん?」
「だから、いつまで経っても初恋を諦められない」
「え?」
アルメニオの血。
初恋。
このふたつの言葉がそろって、わたしもはじめて、心に引っかかりを覚える。
ケリーの制止を聞かずにヒューバートは立ち上がり、わざわざわたしの座席の前に片膝をついて、彼はわたしの手をとった。
「だからね? シェリルさん――僕の初恋の人? 僕が成人したあかつきには、僕と結婚して?」
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