上 下
38 / 54
番外編(後日談)

番外編5−2

しおりを挟む

「ヒューバート!? え!? あの、ヒューバート!?」
「そうだよ。シェリルさん。ふふ、見つかってよかった。姉さんとお出かけするって聞いたから、目星つけて探したんだけど――――あ、ここ。空いているとこ、座るね?」
「え、あ、うんっ。どうぞどうぞ」

 コートは適当に店員に預けながらも、丸いテーブルで空いていた一席を、彼は自分で引いて座ってしまう。

 って、足、なっが。
 え? 最後にヒューバートと会ったのって、たしか3年くらい前だよね?
 3年前にマーセリーナ王国の王都マルドゥラにあるマルドゥラ高等学校に留学して、そのままマルドゥラ大学まで入っちゃったんだよね。
 マルドゥラ大学って、この近郊の国々でも一番って言われるくらい超有名大学だから、わたしもびっくりして、すっごく覚えてる。

 そこがあまりに勉強が忙しかったらしく、そういえば、わたしたちの結婚式も来られなくてさ。ケリーがすっごく謝ってきたの、覚えてる。
 へええ。
 そっかあ。今、ちょうど冬期休暇でこっちに帰ってきてたんだ。

 でも、ヒューバートってば、3年でこんなに変わるもの? ってくらい、すっごくおっきくなってる。
 レオルドには届かないくらいけれども、身長もすっごく高くなってなかった? わたしとはもう頭ひとつ分ちかく離れちゃってる?

 すごいなあ。ぜんぜん雰囲気変わっちゃったもん。
 3年前はまだまだ美少年って感じだったもんね。
 成長期がなかなかこなくて、女みたいなのが嫌だって言ってたの、すっごく覚えてる。
 今だって中性的な顔は相変わらずだけど、体つきはしっかり男性になってて、筋肉だってついてるんじゃないかな。かなり鍛えてるっぽい。
 ふふふ、服装変えたら、まるで騎士さまみたいになるんじゃないかなあ。
 こんなにかっこよかったら、きっと大学でもモテてるんだろうなって思う。

 ほら、今だって、ゆったりと腰かける彼はまさにどこぞの王子みたいだもん。
 これで17歳とか……嘘でしょ。

「す、すごいね……ヒューバート、おっきくなったね……?」
「ははは。もうすぐ成人だしね。どう? 少しはいい男に見える?」
「見える見える。なんか、王子さまみたい」
「あー……そこは、騎士さまみたいって言ってほしいかも。ちゃんと鍛えてるんだよ? これでも」
「あ。そっか。ヒューバート、昔から騎士みたいになりたいって言ってたもんね」
「覚えてくれてたんだ」

 正確にはちょっとちがうんだけど――なんてボソボソ言いながら、ヒューバートは微笑む。

 うーん。
 それにしても本当に綺麗な顔だなあ。大人っぽいし。
 ケリーもそうだけど、この姉弟はこうして並ぶと壮観というか、美男美女ですさまじい。
 ケリーは全然わたしよりも年上に見えるし、なんならヒューバートだってそう。

「シェリルさんも、髪も瞳の色も、すごく綺麗。――悔しいな。シェリルさんにまだ、こんなにも僕の知らないところがあったなんて」
「え? あ、ありがとう……?」

 なんだかすっごく熱っぽい目で見つめられて、しかも褒められて。あわあわしちゃうのはしょうがないことだよね?
 わたしってば、身長だってそんなに高くないし、童顔だしさ……あんまり綺麗って言葉で褒められたことないもの。
 ヒューバートみたいな子にあんなにも真っ直ぐ褒められると、お世辞だってわかってても、そわそわしちゃうよ。

「結婚式、出られなくてごめんね。姉さんや家族が――――って、わっ!? 姉さん!? なに!?」
「いいから、ちょっと来なさい! ――あと、アンナ、お願い」
「はい、かしこまりました」

 んんん!?
 ケリーはヒューバートを連れてちょっと離れて行っちゃったし、アンナもアンナで、お店のカウンターの方へと何か用事があるみたいで行ってしまう。
 っていうか、アンナってば! わたしじゃなくてケリーと意思疎通してたけど、一体なにかな!?
 あと、ケリーとヒューバート、さっきからこそこそお話してるけど、どうしたのかな!?


 わたしだけがひとり取り残されて、あわあわしていると、先にケリーたちが席に帰ってくる。
 んー……ヒューバートってば少しだけふて腐れた様子だけど、どうしたんだろ。

「ケリー? えーっと、ヒューバートもどうしたの? 大丈夫」
「ええ。ちょっとね。――ヒューってば、女たちの集まりに押しかけてくるなんて、常識しらずだって少しね」
「え? でも、わたしはこうして久しぶりに会えてうれしいし。大丈夫よ?」
「…………はああ……シェリルは、ほんっとに、旦那さま・・・・ひとすじね? 他の男なんてどーでもいい・・・・・・のよね?」

 ……なんだかケリーの言葉の至るところに力が入っているけど、どうしたのかな……。
 まるで誰かに言い聞かせてるみたいなんだけど。う……うん?

 でも、彼女の言っていることは全然まちがっていない。
 ふと、レオルドの顔を思い出して、頬が熱くなっちゃう。

「どうでもいいって、そんな……。でも、そうね。旦那さまひとすじ……ってのは。ほら、だって……」

 好きなんだもん。仕方ないじゃない?
 ケリーだけならともかく、ヒューバートみたいな若い男の子に聞かれるのはちょっと気恥ずかしくって、もじもじしちゃうけど。

「ふふふ、そうよね! ひとすじだもの! いま、シェリルは新婚さんでらっぶらぶだもんね。他に目移りなんて、絶対ありえないもの」
「ちょ、は、……はずかしいって、ケリー!」
「でもそうでしょう?」
「そ、そうだけどっ」

 ついでにいうと、新婚さんじゃなくなっても、他の男の人に目移りするとか、ありえないよ?
 いつまでもわたしは、レオルドひとすじだし。そこは揺るぎない。

「ふっふっふー。だって、ヒュー?」
「わかってるよ、姉さん。――でも、僕だって」

 バチバチバチ。
 姉弟間で火花が散ってる気がするのは気のせい……かな……?

 って思ったら、ヒューバートがこちらに視線を送ってくる。
 お店のカウンターの方で何か話し込んでいたアンナも戻ってきて、ケリーに何かを伝えている。
 念のため使いを出した? とか。もともとそろそろ迎えが来るころだから、あの方も――だとか。なんだかぼそぼそ聞こえてくるけど、ちょっと話が読めない。

 一方のヒューバートはというと、彼女たちの話は無視して、わたしに向きあった。

「ずるいよ、シェリルさん。僕がいないあいだに結婚しちゃうなんて」
「ちょ……ヒュー!」

 その会話に気がついたケリーが慌てて会話を遮ろうとする。

「僕の初恋は、シェリルさんだったのに」
「え? そうなの? ありがとう」

 でも、ケリーが慌てるほどのことじゃないよね。
 子供のころの初恋とか、なんだかすっごく可愛い話題。
 ちょっとだけ歳が離れてるもんね? 昔はまだ、身長差も年相応にあったし、わたし、おねえさんできてたもん。
 男の子の初恋だなんて可愛い話題に、にこにこ笑っちゃう。でも、なんだかケリーもヒューバートもちょっと呆れたような顔しちゃった。

「あのねえ……シェリル……」

 ケリーが頭を抱えてるけど……え? 思い出話してるんだよね? ちがった?

「うーん。これは全然伝わってないなあ」

 ヒューバートの方も、なんだかすっごく困った顔をして、頬を掻いている。


「あのね、シェリルさん。僕、ソーウェル家の長男ではあるけれど、母さんの血が強いというか……アルメニオの血が、わりと色濃く出てると思うんだよね」
「うん?」
「だから、いつまで経っても初恋を諦められない」
「え?」

 アルメニオの血。
 初恋。
 このふたつの言葉がそろって、わたしもはじめて、心に引っかかりを覚える。

 ケリーの制止を聞かずにヒューバートは立ち上がり、わざわざわたしの座席の前に片膝をついて、彼はわたしの手をとった。

「だからね? シェリルさん――僕の初恋の人? 僕が成人したあかつきには、僕と結婚して?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。