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番外編(後日談)

番外編2−3

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 とりあえず、この部屋から出るとしよう。
 でないと、コイツ、ここの荷を壊すんじゃねえかとか勝手にハラハラしやがるからな。


 シェリルを抱き上げたままオレはその小部屋を出て、真っ直ぐ部屋を突っ切った。
 そのままコイツの寝室まで直行し、ドサリとシェリルをベッドに下ろす。

「あのね、レオ――」
「なあ、シェリル」

 言葉を紡いだのは、同時だった。
 だが、今はコイツに譲ってやる気はない。

「そんなに、寂しかったのか?」

 だからオレはたずねた。
 シェリルの顎に手をかけて、視線を絶対そらさないようにさせて。

「……」
「別に、怒りはしねえよ。だからちゃんと教えてくれ。そんなに、寂しかったか?」

 シェリルが唾を飲み込んだ。
 ふるふると瞳が揺れて、目を細める。
 そしてそのまま、ばつが悪そうに、とつとつと語りはじめた。

「…………ぜんぶ、あなたに会いに行く前のものよ?」
「だろうな。新聞なんざ騎士時代のものばかりだろうし、さっきの絵もずいぶん若いころのだ」
「あなたに、ずっと、憧れてて」
「ああ」
「わたしはまだ、小さかったから、ひとりであなたに会いに行くこともできなくて……だから」
「ああして、オレを追ってくれていたのか」

 こくり、とシェリルが頷いた。
 髪をまとめているせいで、真っ赤になった耳までしっかり視界に入る。

「わたしは、ほんとうに、はじめてあなたに助けられたときから、あなたのことがずっと好きで、気になってて……ああやって、あなたのことをね? 感じられるようにって、ずっと、集めて」
「……」
「…………ひいちゃったり、しない?」
「しねえよ」
「ほんと?」
「ほんとに、ほんとうだ。――あのなあ、何度も言うが、お前オレを信用しなさすぎじゃねえか?」
「だって」

 シェリルが少しだけ悲しそうに目を細める。

「子供みたいって、あなた、きっと笑うもの」
「それはオレがお前に惚れる前の話だろ」
「それでも」
「もういい、黙れ」

 いつまでもうじうじ言い訳するのが聞いていられなくて、オレはシェリルの唇を奪う。真っ黒い瞳が驚きで見開かれた後、ゆっくりと閉じられる。
 久しぶりのキスに、オレたちはしばらく、何も話せないでいた。


 実際、シェリルが不安になる気持ちはわからないでもない。
 シェリルはオレの性格をよく理解しているからな。
 相手がシェリルじゃなければ引いていただろうし、ファンの女かって軽くあしらって終わりだろう。

 でも、シェリルなんだ。
 オレは知っている。コイツがどれだけ、小さい頃からオレのことを好いていたのかということを。


「ん……んん」
「ハァ……シェリル……」

 久しぶりのキスは、凄まじい破壊力だった。こうして貪っているだけで欲情があふれそうになる。

 正直、小さい頃のシェリルの心情を考えると、すごくもどかしくなるんだ。
 もちろん、当時のオレにはなにもしようがなかったとしても、だ。

 オレのことを好いてくれていたというのに、自分からは会いにいけない。
 オレにはロクデナシっつう噂もあって、きっと、不安だったろう。

 それでもシェリルがちゃんと一人前に成長したあかつきには、会いに来てくれる予定だったらしい。
 なのにオレは奴隷堕ちして行方不明。
 そのまま何年も、世間には情報が出回らなかった。
 生きてるか死んでるかもわからない状況で、シェリルが不安にならなかったはずはない。

 それでも、執念とも言える意志で、コイツはオレを見つけてくれた。
 そして、コイツははじめて、オレに、オレのままでいられる場所を与えてくれた。
 それほどまでに大切に積み上げてくれた気持ちを否定するなんてあり得ない。

「ちゃんと、わかってるよ」

 お前が、オレのことを好きだってこと。
 それだけ伝えて、もういちどシェリルにキスをする。

 つうか、オレだってもらえるなら、シェリルの絵の一枚や二枚、遠征に持っていきたかったさ。
 妄想だけより、ヌく時のおかずにゃあ困らなくなるだろうし……と考えて首をふる。

(だから、オレはいつまでも成長しないんだよな!)

 ……えーと、とにかくだ。
 奴隷時代のオレを見つけるまでの長い長い間も、そして、今回みたいにオレが遠征に行っている間も、こうやってオレの似顔絵なんかがコイツの慰めになるならそれでいいと思うんだ。
 恥ずかしくて隠したくなる気持ちもわからないことはないが――まあ、もう見つけちまったから、そこは諦めてもらわないといけないけどよ?

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