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26.共犯者は終わり
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しおりを挟む「初めはなんだこの人って思ってたんだ。愛想のない僕にやたら話しかけてくる意味がわからなくて。正直うっとおしいと思ってた」
「えっ。悪口?」
「いや、すごいなって思って。話を聞いたら長野から一人で学校決めて出てきたとか言うし。今まで見たことのない生き物だった……」
咲良が遠い目をして言うので、私は複雑な気持ちになった。
「柚希といると……なんだろう、心が晴れるんだよね。僕はずっとここから動けないと思ってたのに、どこへでも行けそうな気がしてくる。僕も柚希みたいに生きられたらなっていつからか思ってた。
柚希が愛想良くしろって何度も言うから、おもしろくない時でも笑うようにしてみたり。なのに本人はなかなか認めてくれないけど」
咲良はこっちを見て苦笑いする。
「そんな風に思ってたの?」
そんな風に思われているなんて、全く想像していなかった。だって、咲良が中園さん以外のことで行動を変えようとするなんて、思ってもみなかったから。
そういえば、いつからか咲良がほかの人の前でも笑うようになったから、複雑な思いをしたこともあったっけ。そこに私が関わっているなんて、夢にも思わなかった。
「うん。ずっとそう思ってた」
「咲良は中園さんしか見てないと思ってた」
「そんなことはないんだけどな……。随分前から。確かに、瑠璃はとても大切な人だけど」
咲良が少し困った顔をする。
「咲良。でも私、全然真っ直ぐに生きれてないよ」
そう生きたいと思ってたけれど。ついこの間、自分の価値観が崩れてしまったときのことを思い出す。
「どうして?柚希はヒーローみたいだよ。この前、上原に捕まった時、話を全部聞いても、僕や瑠璃が傷つけられるのを見てられないって言ってくれて嬉しかった」
それは違うよ、と言おうとしたけれど、言葉が出てこない。あの時の私は自分の感情を優先しただけだ。それに、「僕や瑠璃が」じゃない。私は咲良のことしか考えていなかった。全然、褒められるようなことじゃない。
「あの時、迷わず助けに来てくれた柚希を見て、もうやめようって思ったんだ。僕と瑠璃で作った歪な場所に逃げ込むのは」
咲良はこちらを見ずに言う。
「……僕は瑠璃のことを裏切ってしまったのかもしれない」
そう言った声は、どこか寂しげだった。
「裏切るって、どうして?」
「僕が瑠璃にそのままで良いって言ったんだ。
瑠璃がやっていることはいけないことだってわかってたけど、僕は味方でいるって約束した。瑠璃が間違っていても、僕も一緒に間違った方に行くから大丈夫だよって。
だって、瑠璃はおかしくないよ、僕にも気持ちがわかるって言ったらすごく嬉しそうな顔をしてたから。その顔を見たら、何でもしてあげたくなった。なのに今さら約束を破ろうとしている」
咲良は思いつめたような顔で言う。
「どうしてそこまでするの?」
すごく嬉しそうな顔をしてたから。それだけで何でもしてあげたいと思うのも、一緒に間違った方へ行ってもいいとまで思うのもわからない。咲良の中園さんへの態度は、友情や愛情を通り越して、忠誠に見える。
「……どうしてだろう。初めて僕を頼りにしてくれたからかな。瑠璃のおかげで、僕にも生きてる意味があるように思えた。自分のことは好きじゃないけど、瑠璃の力になれる自分だけは価値があるような気がした」
咲良は答えを探るように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
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