三角形とはちみつ色の夢

睦月

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25.懐かしい場所

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「柚希、次はどこに行く?」
「うーん、午前中に行きたいところは大分回っちゃったんだよね。行けてなかったところも、通りがけにみたら売り切れになってたし」


夕方になると、人気のお店はだんだんと売り切れて片付けを始めていた。


「そっか。まぁ、明日もあるし」
「うん。明日リトライしてみる!後は軽音部のステージも見に行きたいな。でも夕方からだっけ」


私がそういうと、咲良はパンフレットをぺらぺらめくった。


「18時からって書いてある」
「まだ結構先か。ねぇ、咲良の行きたいところはどこなの?私はステージまでもういいから、そこ行こうよ」


そう言うと、咲良は出し物ではないんだけど、と言ってから、立ち上がった。


「こっち」


咲良について、廊下を歩いた。人混みとは反対方向に。




「中等部?」


咲良は高等部の校舎を抜けて、中等部の校舎までやってきた。文化祭は中高合同で、中等部の校舎も使われるけれど、お店も展示も多くない。ほとんどの出店は高等部に集中している。


「うん。普段はなかなか入れないから」
「あー、確かに!いいね、こういうのも。懐かしい」


エントランスに正面階段、ホールに繋がる廊下。入口に来ただけで、どこもかしこも懐かしい。


「あ、ここ!」


エントランスのすぐ先にある展示室が目に入った。


「懐かしい。ここ、中一のときの授業でお題出されたとこだよ。ほら、あの校舎探検みたいなやつ。写真と同じものを見つけてきなさいって」
「ああ、あったあった」

「結局実物は見ないまま帰ったんだよね。あの時、咲良が知ってるのに全然教えてくれないからさー。なんなのこいつって思ったわ」
「そういえば、そんなことあった」


咲良は悪びれもせずに笑っている。



せっかくなので展示室に入ってみた。中学時代に展示室には何回か入ったはずだけれど、お題になった時計を意識して見たことはなかった。


「へー。こんなだったんだ。さすが花守。高そうな時計」
「三年越しで見れたね」


咲良がしみじみ言う。


「誰かさんが教えてくれなかったからね」
「まだ言う?真面目過ぎるんだよ、柚希は。あんな課題真剣にやってる人ほとんどいなかったよ」
「え、嘘」
「本当だって。みんな適当にしゃべって帰ってた」


咲良は、僕は黙って柚希についていっただけちゃんとやったほうだとか、ぶつぶつ言っている。私は聞き流した。


「ねぇ、柚希。ほかの教室も行ってみようよ」


気を取り直したように咲良が言った。
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