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19.折り合い
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次の日、眠気をこらえて学校に行くと、咲良は来ていなかった。まだ病院にいるのだろうか。帰りに行ってみようか。
あの後、上原君はどうなったんだろう。中園さんのけがの具合はどうだろうか。朝のホームルーム中にそんなことを考えていると、上から声が降ってきた。
「えっ。柚希、普通に来たんだ。昨日あんなことがあったのに」
「おはよう、あげは。だって私はけがもしてないし」
「タフだなー。柚希は。見に行っただけの私ですら疲れて寝坊したのに」
「いやいや大変だったでしょ。本当、ありがとうね。あげは」
あげはは私の前の席にどかっと腰掛ける。
「上原たちも私たちが帰ってからそんなに経たないうちに帰されたみたいだよ。中園さんが言ってたことが影響したみたい。今朝、叔父さんが警察に確認してくれた」
「そっか……。よかった。上原君だけが悪いわけじゃないから」
「?どういうこと?どっちにしろ、柚希にナイフ向けてたのは許せないけどね。柚希、今度説明してよ?」
「うん。話すよ。大分長くなるけど」
どうやら今日は、中園さんも上原君も欠席しているようだった。無理もない。三人と次会うのはいつになるだろうか。
そんなことを考えていたのに、午後になると咲良は平然と登校してきた。顔にテープを貼り、腕に包帯を巻きつけて。当然、クラス中の視線が咲良に集まる。
何があったのか聞きに来るクラスメートに、咲良はいつもの作り笑顔で自転車で転んだと説明していた。中園さんと上原君も休んでいることから、関係を疑う子もいたけれど、咲良は笑顔で黙殺した。
「咲良。大丈夫なの?」
帰りのホームルームが終わるなり、私は咲良を廊下に引っ張って行って聞いた。午後の間中、休み時間には咲良の周りに人が集まって、昨日のことを聞く隙もなかった。
「うん。見た目は派手に出血してたけど、それほど深くなかったからさ。昨日、というか今朝のうちに家に帰れたよ。さすがに体がだるくて午前は休んだけど。瑠璃ももう家に帰ってる。瑠璃は俺よりけががひどくて、2~3日安静にしてるように言われてた」
「咲良も休んでれば良かったのに。深くないっていっても痛そうだよ」
顔の傷はテープで隠れているけれど、唇や目元にところどころ細かい傷が見えて痛々しい。
「……柚希はどうしてるか気になったし。昨日は、本当にごめん」
「昨日も聞いたよ。いいって、私はけがもしてないし。まぁ、感謝はしてよね。私に。私に……というかあげはに」
よく考えると、いや、よく考えなくても昨日一番良い判断をしてくれたのはあげはだ。私は一人で現場に向かい、あっさり捕まった自分の軽率さを、改めて反省する。
「うん。ありがとう柚希。南さんにもお礼を言わなきゃな」
「え……。なんでそんな素直なの?気持ち悪……」
「お前……」
私が冗談半分本気半分で言うと、咲良は納得いかない顔をした。
あの後、上原君はどうなったんだろう。中園さんのけがの具合はどうだろうか。朝のホームルーム中にそんなことを考えていると、上から声が降ってきた。
「えっ。柚希、普通に来たんだ。昨日あんなことがあったのに」
「おはよう、あげは。だって私はけがもしてないし」
「タフだなー。柚希は。見に行っただけの私ですら疲れて寝坊したのに」
「いやいや大変だったでしょ。本当、ありがとうね。あげは」
あげはは私の前の席にどかっと腰掛ける。
「上原たちも私たちが帰ってからそんなに経たないうちに帰されたみたいだよ。中園さんが言ってたことが影響したみたい。今朝、叔父さんが警察に確認してくれた」
「そっか……。よかった。上原君だけが悪いわけじゃないから」
「?どういうこと?どっちにしろ、柚希にナイフ向けてたのは許せないけどね。柚希、今度説明してよ?」
「うん。話すよ。大分長くなるけど」
どうやら今日は、中園さんも上原君も欠席しているようだった。無理もない。三人と次会うのはいつになるだろうか。
そんなことを考えていたのに、午後になると咲良は平然と登校してきた。顔にテープを貼り、腕に包帯を巻きつけて。当然、クラス中の視線が咲良に集まる。
何があったのか聞きに来るクラスメートに、咲良はいつもの作り笑顔で自転車で転んだと説明していた。中園さんと上原君も休んでいることから、関係を疑う子もいたけれど、咲良は笑顔で黙殺した。
「咲良。大丈夫なの?」
帰りのホームルームが終わるなり、私は咲良を廊下に引っ張って行って聞いた。午後の間中、休み時間には咲良の周りに人が集まって、昨日のことを聞く隙もなかった。
「うん。見た目は派手に出血してたけど、それほど深くなかったからさ。昨日、というか今朝のうちに家に帰れたよ。さすがに体がだるくて午前は休んだけど。瑠璃ももう家に帰ってる。瑠璃は俺よりけががひどくて、2~3日安静にしてるように言われてた」
「咲良も休んでれば良かったのに。深くないっていっても痛そうだよ」
顔の傷はテープで隠れているけれど、唇や目元にところどころ細かい傷が見えて痛々しい。
「……柚希はどうしてるか気になったし。昨日は、本当にごめん」
「昨日も聞いたよ。いいって、私はけがもしてないし。まぁ、感謝はしてよね。私に。私に……というかあげはに」
よく考えると、いや、よく考えなくても昨日一番良い判断をしてくれたのはあげはだ。私は一人で現場に向かい、あっさり捕まった自分の軽率さを、改めて反省する。
「うん。ありがとう柚希。南さんにもお礼を言わなきゃな」
「え……。なんでそんな素直なの?気持ち悪……」
「お前……」
私が冗談半分本気半分で言うと、咲良は納得いかない顔をした。
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