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第1部 私の推しくんを返せ

第4話 改悪

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『多田野さん……?』

「……いや、なんでもない」

私が首を横に振った瞬間、授業終わりのチャイムが鳴った。夢主にこれ以上追求されることが無くなったので助かったなーと思った(小並感)

「「「「萌亜璃/さん!」」」」

お前ら来るの早すぎだろ授業終わる前から保健室前スタンバイしてたろと思わず突っ込まずにはいられなかったがなんとか口に出さず堪えた。えらい。

主要キャラ達の声が聞こえてきたので私は白いカーテンを開ける。

『みんな……』

「萌亜璃、元気そうだな、良かった……悪子、どうしてここに?……もしかして萌亜璃になにかしたのか?」

駄作者くんさぁ……夢主が元気そうにしてるなら私がなにかしてるわけないし、そんなこと頭が良い葉月が少しでも考えたらわかることだろいい加減にしろ!!あと頑なな悪子呼びやめろ

原作でも主人公である葉月が余計なことを言ったおかげで私は主要キャラ全員から睨まれる羽目になった。あーもうめちゃくちゃだよ……

『ち、ちがうよ聡司くん、多田野さんはなにもしてないよ』

「萌亜璃がそう言うなら、あたしたちは信じるけど……」

「……悪子、もし萌亜璃に何かしたら……俺たちが許さない」

原作ヒロインで主人公の妹である葉月ユイの言葉にサトーくんが同意して私を睨む。

……まだ何もしてないのになんの理由もなく疑われたのはクソムカつくけどサトーくんに睨んでもらえたので全部許します。痺れる、抱いて。やはり推しは全てを解決する。

私が菩薩顔になってる内に、夢主を引き連れて主要キャラたちは保健室を出ていった。姫かな?あと夢主さっきまで顔真っ青だったくせにもう大丈夫なのか……ならいいけど別に。かなり御都合主義を感じた。

……一応聞くが駄作者くんもしかして今のシーン私が悪女でこの後夢主を酷い目に合わせるよっていう伏線のつもりか?不自然すぎるだろ、プロットから書き直せ。そもそも占ツク夢小説ごときにプロット書かないか……(私は書かない)(占ツク作者全員に腹切って詫びろ)

よく考えたらそもそも私はさっきから駄作者くん駄作者くんって呼び掛けてるが、この世界がもし本当に夢小説だったとしても、基本的に夢小説って夢主か主要キャラ目線で描かれるから私のモノローグ(今書いてる心理描写のこと)が駄作者に伝わるはずもない。

たとえ今私が「おおい駄作者くん見てるー????」ってここでクソデカボイスで叫んだとしても、〇〇sideの〇〇部分に該当するキャラが私の声を聞いて駄作者まで中継してくれなければ届かないのだ。ちょっとシステム難しいな……

もし私が主要キャラの前で急に、おおい駄(ryと行ったとしても、不審に思われて怪しまれて評判下がるだけ下がって駄作者くんと交流できなければ私の負けだ。

正直私鍛えてる訳でもないTDNただの悪女なので、もし評判下がりすぎて何もしてないのに夢主いぢめシーンのあとのざまぁシーンになってしまったとしたら、主要キャラたちにフィジカルで勝てると思わないし、夢主はあんなんでも一応最強設定持ちな上多分世界最強の財閥の令嬢とかだったりするのでもちろん負ける。

……何となくだが、どんどんと追い詰められていってる気がする。駄作者野郎覚えてろよ(この件に関しては何もしてない)

とにかく取り巻き2人が心配しそうなのでとっとと教室に戻ることにした。授業フケてもよかったけどそれでまた良からぬ疑いを掛けられたらたまらない。

教室にもどると、取り巻き2人が慌てて駆け寄ってきた。

「心配したよぉ悪子ぉぉ~」

「怪我、だぃじょぅぶだった?」

普通に心配そうな顔で見てきてくれるの嬉しいが、お前らは私の心配より先に自分が良い奴なのか悪い奴なのかのキャラクター固定を優先しろよ。

「心配してくれてありがとう、アタシは大丈夫。」

……というか、あれを見て普通に怪我だって判断して本気で心配してくるのはおかしい。眼科行った方がいいと思うんですけど(提案)

それとも目がおかしいと言うより、私が悪女の中では親玉的存在だから波風立てないように気遣うふりしてるだけなのかもしれない。もしそうだったらそれはそれで強すぎる。その器用さを分けて(切実)

そこまで話して、そもそも私が保健室に行った理由である夢主のことをふと思い出す。

「……アタシのことより、如月さんは先に戻ってるはずだよね、あの子は大丈夫?」

「悪子、あんな奴の心配すんのぉ?」

「ほんと気にぃらなぃしぃ、萌亜璃はずっとほけんしっにぃててくれればぃぃのにねぇ」

……お前らほんと示し合わせたように夢主のことボロカス言うな。

「……そんなこと言わないで。アタシの友達が如月さんにそんなこと言ったって知られたらアタシがサトーくんに嫌われちゃうでしょ」

「そ、そっかぁ、ごめん……」

「もぅぃゎなぃょ……」

…………こいつら、頭おかしいとか演技とかじゃなくて本当にただチョロいだけなんでは?私みたいな悪女どころじゃないもっとヤバいやつに利用されそうで心配だ。

こんな酷い名前でなくてその上夢主がこの世界に存在してなければ普通の人生を歩めてたんだろうなぁと思った。同情させてもらいます!

……なんやかんやでお昼休みになった。1時間目の後の休み時間からここまでの記憶が全くないが周りが普通に談笑したりしているので多分イベントスキップされただけなんだろう。

そういや夢主、保健室出ていった時私が貼ってあげた冷えピタつけたまま出てったけどいつ剥がしたんだろうか。ついさっき主要キャラたちに囲まれて教室を出ていった如月の額にはもう冷えピタはなかった。

一応原作では花道学園には(※尚駄作者が間違えたせいでここは華道学園な模様)学食が存在する。

葉月はお料理が得意なので妹である原作ヒロインのユイと、幼なじみのサトーくんには毎日お弁当を作ってあげている設定がある。だから学食は利用しないし基本的には屋上でご飯を食べるシーンが多い。

……この夢小説ではどうなるんだろ? 原作では一応影が濃い訳では無い風見がハブられたりしないかが心配だ。

そんなことを考えていたら、夢主、葉月、原作ヒロイン、サトーくん、風見は談笑しながら5人一緒にどこかへ行ってしまった。

風見、もしかして駄作者くんに優遇されてるんだろうか?原作では屋上で一緒にご飯食べてるシーンないのに夢主たちと一緒に行くってことは多分そうなんだろう。

……その推しの性格を改悪するとは、許すまじ駄作者。

「肝子、毒子、アンタたちお弁当とか持ってきてる?」

「きゅぅにどぅしたの?悪子ぉ」

「アタシたちいっーつも学食で食べてるでしょぉ?」

なるほど、悪女組は学食派か。

「そう……今日はアタシが奢ってあげる。一緒に食べましょ」

「えぇ~?珍しーじゃん悪子ぉ」

「ほんとにぃぃのぉ?」

「いーから。早く行くわよ」

お前ら悪女な癖に変なとこで奥ゆかしいの笑っちゃうからやめろ。

2人は怪訝そうな表情のまま先を行く私と一緒に教室を出た。

……そういや悪子はお金どれくらい持ってるんだろうか、足りなかったらどうしよ。奢るとは言ったものの若干後悔する私だった。
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