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第1部 私の推しくんを返せ
第3話 邂逅
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保健室につくころには左手は元のようにすっかり治っていた。両親が付けてくれたこんな酷い名前のおかげでギャグ補正がついてるのかもしれない。ありがとう両親!もう許さねぇからなあ!(豹変)
中にいるであろう夢主と風見にバレないようにゆっくりと扉を開けた。案の定女医は居なかったし、ベッドは一つだけ使用中の札がかけてあって白いカーテンが閉まっていた。
「萌亜璃さん……僕は貴女のことが好きなんです……!」
『ふぇっ!?』
うわ、めちゃくちゃ都合のいいところから聞こえてきたな。これからどうなるんだろう?
単純に興味が湧いた私は白いカーテンの傍に足音を頃して駆け寄る。
『か、和樹くんやめて……っ』
「萌亜璃さんっ……」
カーテン越しに2人の声と怪しげな物音が聞こえてくる中、私は胸の内に沸き上がる怒りを抑えきれなくなりそうだった。
先述のとおり、風見は相当な女たらしである。……とはいえ、女たらしだからといって変態というわけではないし、寧ろ紳士で女性の扱いも上手い上に優しい。
その風見くんがヤリチソみたいな改悪を受けているのだから風見最推しではない私でもブチ切れそうだ。原作への侮辱以外の何物でもないだろう。
そうこうしているうちに何故かリップ音なんかが聞こえ始めた。駄作者今すぐこれを書く手を止めろもし今度会えたらタダじゃ置かねぇからな。
……そういえば、もし本当にこの夢小説が占ツクで連載されているものだとしたら……これ以上過激な表現が入ってきた場合、成人向けフラグを立てなければいけないはず。
でもこういう夢小説って大抵小中学生が書いてるから、多分実際の行為に入る寸前で誰かが乱入してくるとかで有耶無耶になる……はず、と思うんだけど……
……もしかしてそれやるの私の仕事だとか言わないよね。やめてくれよ……(畏怖)
いやでもいくら私が風見推しではないとはいえ、駄作者のせいで風見があのキラキラぽっと出神寵愛受夢主で童貞を失うのは可哀想だろう。
もしこの夢小説が原作沿いだったとしたら……季節から察するに、今は8話辺りだろうか。多分11話位になると風見くんの本命になる別ヒロインが現れるはずなのだ。
それまで夢主とくっつかずに持ちこたえる事ができれば、しっかり風見くんがその別ヒロインに惚れて夢主√から外れることができるだろう……できるといいなぁ……。
駄作者が書いてる夢小説だから、いくら私がそうなるように仕向けたとしてもその先の展開の確証が得られなくてつらい。
……とにかく、やるしかないだろう。ここでもし夢主と風見が勢いでヤっちゃったのを最後まで聞き届けてしまったなら、私はもう二度とこの保健室を利用したく無くなるだろう。
覚悟を決めた私は、保健室の扉の方へともう一度歩いていった。
がちゃ。
何故保健室だけはほかの教室と違ってスライドドアじゃなく開き戸なんだろう。御都合主義的な何かを感じずには居られない。
「う~……いったい……突き指つらすぎ……」
私はわざとらしくそんなことを言いながら、開けた保健室の扉をもう一度閉めた。今入ってきた振りをしてる。
すると、案の定……白いカーテンの向こうからは慌てたような物音が聞こえてきた。
「あ、風見くん……如月さん大丈夫だった?」
「は、はい。今は眠っているみたいです」
そう言いながらカーテンの中から出てきた風見の頬はほんのり赤く染っている。風見はそのまま慌てて保健室を出ていった。ミッションコンプリートだ。流石ね私。
もう突き指が治ってしまっている私も本当なら保健室から出ていくべきだが……ここで夢主とコンタクトを取っておくべきだろうか?主要キャラ達に告げ口されたりしたら警戒されそうで怖いからここは慎重に行かなくちゃ……
私は保健室の冷蔵庫を勝手に漁って冷えピタを持ってくると、勢いよくベッドのカーテンを開けた。
『ひゃっ!?』
「ごめんなさい、如月さん……驚かせちゃった?」
『い、いえ……そんなことは……ないです』
花も恥じらう可憐な仕草で目の下位まで布団を引き上げる夢主。うーんクソ可愛い。嫉妬。
「冷えピタあったから持ってきたんだけど……いる?」
『いいんですか?』
「うん。貼ったげる」
ぺり、と着いていたセロハンを剥がすと、夢主の額に冷えピタを貼ってやる。直前にぎゅっと目を瞑った夢主の仕草にかなり萌えを感じた。
『あ、ありがとう……悪子さん……』
「……その名前で呼ばないで。アタシ、自分の名前キライなの。ダサいし」
『そ、そんなことないよ、私は可愛いと思うよ』
それってあなたの感想ですよね?……というかメアリー・スーみたいな本名してる奴にそんなこと言われてもこんなんじゃ慰めになんないよ。
まあ、私自身の本名じゃないけど
『それより、わ……多田野さんはどうしたの?怪我でもしたの?』
「ちょっと突き指しちゃって。でも先生いないから……ね、ちょっとアタシとお話しよ?」
『うん、いいよ』
多分普通の夢小説なら、あんたサトーくんに色目使ってんでしょ!ちっちがうよ!気に入らないのよアンタ!タヒね!みたいな流れになるんだろうけど。
……夢主、今はこんなだけど戦闘シーンになれば役に立ってくれるだろうか。
大抵の痛い系夢小説には、後書きとか作中に高確率で……作者と夢主、原作キャラの謎の邂逅ページがある。
そのページに私も到達することができれば、憎き駄作者を直接ぶちのめすことができるかもしれない。そのための右手、そのための拳。
ここで夢主と仲間になっておけば、私が邂逅ページにまで辿り着ける確率が上がるかもしれない。
………………………………………………………………
「……ねぇ、如月、さん」
『なに?』
「…………この夢小説の作者について、どう思ってる?」
……………………こんな風に聞いてみるか?
もし失敗したら取り返しつかんだろ。次の章くらいから私の存在が作者の手によって消されたりしてそう。
そもそも作中キャラたちは謎会話ページ以外では作者の存在を認識したりできないのかもしれない。
これを夢小説だと『思い込んでいる』私ですら、駄作者駄作者と呼びかけているが向こう側からの返事を受け取ったことは未だにない。
……駄作者の癖して、私の思っていた以上の強敵らしかった。
中にいるであろう夢主と風見にバレないようにゆっくりと扉を開けた。案の定女医は居なかったし、ベッドは一つだけ使用中の札がかけてあって白いカーテンが閉まっていた。
「萌亜璃さん……僕は貴女のことが好きなんです……!」
『ふぇっ!?』
うわ、めちゃくちゃ都合のいいところから聞こえてきたな。これからどうなるんだろう?
単純に興味が湧いた私は白いカーテンの傍に足音を頃して駆け寄る。
『か、和樹くんやめて……っ』
「萌亜璃さんっ……」
カーテン越しに2人の声と怪しげな物音が聞こえてくる中、私は胸の内に沸き上がる怒りを抑えきれなくなりそうだった。
先述のとおり、風見は相当な女たらしである。……とはいえ、女たらしだからといって変態というわけではないし、寧ろ紳士で女性の扱いも上手い上に優しい。
その風見くんがヤリチソみたいな改悪を受けているのだから風見最推しではない私でもブチ切れそうだ。原作への侮辱以外の何物でもないだろう。
そうこうしているうちに何故かリップ音なんかが聞こえ始めた。駄作者今すぐこれを書く手を止めろもし今度会えたらタダじゃ置かねぇからな。
……そういえば、もし本当にこの夢小説が占ツクで連載されているものだとしたら……これ以上過激な表現が入ってきた場合、成人向けフラグを立てなければいけないはず。
でもこういう夢小説って大抵小中学生が書いてるから、多分実際の行為に入る寸前で誰かが乱入してくるとかで有耶無耶になる……はず、と思うんだけど……
……もしかしてそれやるの私の仕事だとか言わないよね。やめてくれよ……(畏怖)
いやでもいくら私が風見推しではないとはいえ、駄作者のせいで風見があのキラキラぽっと出神寵愛受夢主で童貞を失うのは可哀想だろう。
もしこの夢小説が原作沿いだったとしたら……季節から察するに、今は8話辺りだろうか。多分11話位になると風見くんの本命になる別ヒロインが現れるはずなのだ。
それまで夢主とくっつかずに持ちこたえる事ができれば、しっかり風見くんがその別ヒロインに惚れて夢主√から外れることができるだろう……できるといいなぁ……。
駄作者が書いてる夢小説だから、いくら私がそうなるように仕向けたとしてもその先の展開の確証が得られなくてつらい。
……とにかく、やるしかないだろう。ここでもし夢主と風見が勢いでヤっちゃったのを最後まで聞き届けてしまったなら、私はもう二度とこの保健室を利用したく無くなるだろう。
覚悟を決めた私は、保健室の扉の方へともう一度歩いていった。
がちゃ。
何故保健室だけはほかの教室と違ってスライドドアじゃなく開き戸なんだろう。御都合主義的な何かを感じずには居られない。
「う~……いったい……突き指つらすぎ……」
私はわざとらしくそんなことを言いながら、開けた保健室の扉をもう一度閉めた。今入ってきた振りをしてる。
すると、案の定……白いカーテンの向こうからは慌てたような物音が聞こえてきた。
「あ、風見くん……如月さん大丈夫だった?」
「は、はい。今は眠っているみたいです」
そう言いながらカーテンの中から出てきた風見の頬はほんのり赤く染っている。風見はそのまま慌てて保健室を出ていった。ミッションコンプリートだ。流石ね私。
もう突き指が治ってしまっている私も本当なら保健室から出ていくべきだが……ここで夢主とコンタクトを取っておくべきだろうか?主要キャラ達に告げ口されたりしたら警戒されそうで怖いからここは慎重に行かなくちゃ……
私は保健室の冷蔵庫を勝手に漁って冷えピタを持ってくると、勢いよくベッドのカーテンを開けた。
『ひゃっ!?』
「ごめんなさい、如月さん……驚かせちゃった?」
『い、いえ……そんなことは……ないです』
花も恥じらう可憐な仕草で目の下位まで布団を引き上げる夢主。うーんクソ可愛い。嫉妬。
「冷えピタあったから持ってきたんだけど……いる?」
『いいんですか?』
「うん。貼ったげる」
ぺり、と着いていたセロハンを剥がすと、夢主の額に冷えピタを貼ってやる。直前にぎゅっと目を瞑った夢主の仕草にかなり萌えを感じた。
『あ、ありがとう……悪子さん……』
「……その名前で呼ばないで。アタシ、自分の名前キライなの。ダサいし」
『そ、そんなことないよ、私は可愛いと思うよ』
それってあなたの感想ですよね?……というかメアリー・スーみたいな本名してる奴にそんなこと言われてもこんなんじゃ慰めになんないよ。
まあ、私自身の本名じゃないけど
『それより、わ……多田野さんはどうしたの?怪我でもしたの?』
「ちょっと突き指しちゃって。でも先生いないから……ね、ちょっとアタシとお話しよ?」
『うん、いいよ』
多分普通の夢小説なら、あんたサトーくんに色目使ってんでしょ!ちっちがうよ!気に入らないのよアンタ!タヒね!みたいな流れになるんだろうけど。
……夢主、今はこんなだけど戦闘シーンになれば役に立ってくれるだろうか。
大抵の痛い系夢小説には、後書きとか作中に高確率で……作者と夢主、原作キャラの謎の邂逅ページがある。
そのページに私も到達することができれば、憎き駄作者を直接ぶちのめすことができるかもしれない。そのための右手、そのための拳。
ここで夢主と仲間になっておけば、私が邂逅ページにまで辿り着ける確率が上がるかもしれない。
………………………………………………………………
「……ねぇ、如月、さん」
『なに?』
「…………この夢小説の作者について、どう思ってる?」
……………………こんな風に聞いてみるか?
もし失敗したら取り返しつかんだろ。次の章くらいから私の存在が作者の手によって消されたりしてそう。
そもそも作中キャラたちは謎会話ページ以外では作者の存在を認識したりできないのかもしれない。
これを夢小説だと『思い込んでいる』私ですら、駄作者駄作者と呼びかけているが向こう側からの返事を受け取ったことは未だにない。
……駄作者の癖して、私の思っていた以上の強敵らしかった。
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