上 下
1,551 / 1,906
イダラマの同志編

1534.サクジの放つ二枚の式札

しおりを挟む
「さ、サクジ様の『土蜘蛛が』……!」

「土蜘蛛はランク『6』から『6.5』はあった筈だ、前時代の『妖魔退魔師』達であっても、たった一人で何とか出来る様子ではなかったというのに、こいつはまさか『幹部』クラスの『妖魔退魔師』なのではないか?」

 『土蜘蛛』をたった一人で屠ってみせた『タツミ』に『妖魔召士』達は、唖然とした表情を浮かべるのだった。

 (※ランク『6』は戦力値5600から6500億前後であり、ランク『6.5』は戦力値が7000億から7600億である)

「ちっ……! そういう事か。どうやら間諜達からの報告に挙がっていた情報に偽りが紛れ込んでいたようだ。よく考えてみれば『牢』に『同志』達を閉じ込めておいて、幹部以上の戦力を全員引き連れて離れるわけはないだろうな。少しばかり焦り過ぎてしまっていたようだ」

 サクジはタツミから目を離さずにそう口にすると、他の面々も確かにその通りだとばかりに頷き、やがては苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ始める。

「しかしこれだけ騒ぎを起こして『シゲン』殿達どころか『組長格』すら現れないところをみると、情報全てが眉唾モノであったというわけではあるまい。ならば結局のところ何も問題はないな」

 サクジはそう告げると、新たに懐から二枚の式札を取り出し始める。

「させないっ!」

 サクジが新たに『式』を使役しようとしていると察した『タツミ』が、先程のようにサクジの元に向けて刺突を行おうと飛び出した。

 だが、同志の『妖魔召士』達も対応は早く、一斉に『魔力波』を放ち始めるのだった。

 先程の単なる『魔力圧』とは違い、殺傷能力の高いランク『6』の者達の『魔力』が用いられた『魔力波』が『タツミ』に向かっていく。

「くっ……!!」

 恐ろしい程の勢いでサクジの元へと肉薄していたタツミであったが、数人掛かりの『上位妖魔召士』の『魔力波』をその身に浴びて、これ以上は体力の危険だと判断したタツミは強引に身体を捻って間合いから抜け出すと、一気に後方へと飛んで戻って行く。

 これだけの『上位妖魔召士』が、ダメージを期待しての攻撃ではなく、近づけさせないようにする事を前提とした攻撃に出た場合、それを突破する事は相当に至難となる。

 そして一定の距離が出来た時点で更に各々の『妖魔召士』達が手印を結ぶと、次々と『結界』と『魔力』を周囲に『スタック』させながら守りを固め始める。

 彼ら『妖魔召士』の各々が専守に出た以上、その先に相当の狙いがあるのは当然の事であり、タツミや『妖魔退魔師衆』は焦りながらも何とか隙を見つけ出そうと得の刀を握りしめる。

 しかし結局はその一撃を浴びせる隙を見つけられる事が出来ぬまま『結界』の内側で笑みを浮かべた『サクジ』が二枚の『妖魔』を出現させるのであった――。

 ぼんっ、ぼんっという音と共に出てきた三体の『式神』。

 一体目は人型で僧侶の恰好をしているが、顔に目が三つあり、更には背中には黒い羽根が生えていた。

 この『妖魔』の名は『江王門えおうもん』と呼ばれており、かつてこの『ノックス』の世界で人を恐れさせた凶悪な烏天狗であった。

 そして二体目もまた人型を取っているが、身長は8尺はあろうかという高さをしていて、盛り上がった腕の筋肉が服の上からでも分かる程の巨躯の『鬼人』で名は『瑠慈るじ』であった。

 『江王門』も『瑠慈』もランクが『7』に限りなく近い『妖魔』であり、当然のように人型を取っているのであった。

(※ランク『7』は戦力値が7700億から8200億相当)。

 この『江王門』はかつてあの『王連』の右腕を務めた天狗であり、最初に使役した『土蜘蛛』や『鬼人』の『瑠慈』と合わせてサクジが持ち得る『式』の中で最上位を誇る『妖魔』達であった。

 どうやら目の前に居る『タツミ』という若い女性妖魔退魔師を『幹部級』の存在と認めて、出し惜しみをせずにここで最大限の力でぶつかろうと考えた様子であった。

「く、くぅっ……!!」

 タツミは先程までとは違い、脂汗を流しながらランク『7』の『妖魔』と相対する。

 他の『妖魔退魔師衆』達は、タツミよりもさらに深刻な状況で脂汗を流すどころか、刀を持つ手に震えが走り、気を抜くとそのまま意識を失わされてしまう程の重圧に見舞われている状況である。

 本来、このランク『7』に到達する程の『妖魔』と真正面から戦えるのは『妖魔退魔師』組織の中でも『副組長格』以上の存在がギリギリであり、組に属する幹部達であっても、数人程度では荷が重いとされている。

 そんなランク『7』に限りなく近い相手では、流石の『特務』所属のタツミであっても分が悪すぎるといえるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...