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イダラマの同志編

1478.イダラマの策略

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「コウエン殿達は私達とは関係がなくなったんだ。その辺にしておけ」

 イダラマが窘めるように口喧嘩をしている『エヴィ』と『アコウ』にそう告げるのだった。

「は! すみません」

「さて、麒麟児よ。先程の私の合図通りに『魔瞳』を使ってくれたようだが、どういう内容にしてある?」

「ああ。後でイダラマが命令させられるように、この蔵屋敷を出たら直ぐに一人になるように指示してあるよ。多分他の連中には怪しまれないように彼も動いてくれるだろうけど、コウエンって奴は侮れないからね。気付かれてしまう可能性も少なからずあると思うよ?」

「そうか……。それならば急いだほうがよさそうだな」

 二人が突然に理解が出来ない事を言い始めた為に、アコウとウガマは何が何だか分からないといった様子で顔を見合わせるのであった。

 ……
 ……
 ……

 蔵屋敷の隠し部屋のある二階の部屋から収納梯子で降りたイダラマ達は、その蔵屋敷の中庭と玄関口の間で一人どこか虚ろな目を浮かべて立っている男を見つけるのだった。

「お主、そんな場所で一人でどうしたのかな?」

 イダラマは男がどういう状態になっているかを確かめるために、半ば分かっていながらもあえてそう言葉を掛けると、虚ろな目を浮かべた赤い狩衣を着た『妖魔召士』は、静かに口を開いた。

「すマない、少シカンガエごトをしテいたもノでな……」

 男の話す言葉にどこか訛りがあるように感じたイダラマは、言葉遣いを変えて再び話し始める。

「……この場にはお主だけが残ったのか? 他の連中はどうしたのだ」

「厠へイくとイッテ、抜けダしてキタ。私ひトりダ。スマナい、こノへんニ厠はアルだろうか?」

 イダラマは先程の『妖魔召士』である事を確認した上で、エヴィによって男が正常ではない状態である事をしっかりと確認をすると、視線をエヴィに向けて頷いた。

「まだ少しの間は催眠状態は続くだろうが、他の連中と会話を続けていくと元に戻るよイダラマ。それにこの状態でも一応の受け答えは可能だけど、目ざとく注意して見ていれば、気付ける者ならすぐに様子がおかしいと気付いてもおかしくないから、何か利用するつもりがあるならこのタイミングしかないよ」

 この状況を作り出したエヴィの言葉にイダラマは頷くと、どうするかとばかりに思案を始めるのだった。

 当初イダラマはこの男と揉めた際に『同志』達を見張る『間諜』の役割を担わせようと考えていた。

 久々に前時代の『妖魔召士』達と顔を合わせて感じた事は、やはり侮れない者達だと感じたからである。

 前時代の『妖魔召士』の中でその存在感を示していた『コウエン』は除くとしても、あの『サクジ』という男も上手く誤魔化していたようだが、戦闘態勢を取れば『上位』の枠組みを外れて『最上位』の『妖魔召士』と呼んでも差し支えない程の力量を有しているだろうと、身近にいた彼は肌で感じられたのであった。

 しかしそれでも正直に言ってイダラマは、彼ら前時代の『妖魔召士』達がいくら強い者達だと分かっていても、その上で尚『妖魔退魔師』組織の本部に乗り込めば全員やられるだろうと半ば確信していた。

 だが、彼らの強さが想像以上であった為に、彼らの間諜から知り得たであろう情報の通りに『組長格』のような幹部達に総長に副総長といった主だった者達が『ゲンロク』の里へとその身を寄せて『妖魔退魔師衆』や、予備群達しか居ないのというのであれば、彼らだけでも『同志』を助け出して本当にこの『コウヒョウ』に戻ってこれるかもしれないと考え始めていた。

 ――そこでイダラマは、確実に『同志』達を『妖魔山』へ向かわせないように、この目の前の男を利用しようと、とある策略を目論んだのであった。

 ……
 ……
 ……

「よし、このまま『サカダイ』近くの『旅籠』を目指すぞ。ワシ達が旅籠につく頃にはシゲン達も『サカダイ』から離れているだろう」

 『コウヒョウ』の関門の前でコウエンがそう告げると、慌てて一人の『妖魔召士』が血相を変えながら彼の前に立った。

「しばしお待ちを『コウエン』殿! 我らが『同志』が厠へ向かってからまだ戻ってきていないのです!」

「厠……?」

「『コウエン』殿! その『同志』も行き先は分かっている筈でしょうから、もう出発をしてしまいましょう。このような時に足並みを揃えられない者の為に貴重な時間を削がれるのは御免です」

 隣で話を聴いていた『サクジ』が『コウエン』が何かを告げる前にそう言い放ってしまうのだった。

 どうやら『サクジ』は相当に『イダラマ』達の一件で腹を立てている様子で、この町に一秒でも長く居たくないような様子であった。

「し、しかし……『サクジ』殿!」

「いや、ここは『サクジ』の言う通りにしよう。確かに『同志』を救出する事を優先したが、ワシらの最終目標はあくまで『妖魔山』なのだ。こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎておるのだからな」

「そ、そんな……」

(さ、さっきの屋敷の中では『サクジ』殿はあれ程までに『同志』を助けると口にしておったではないか!!)

 まだ納得のしていないその男だったが、この集団の主導者ともいえる『コウエン』と『サクジ』の両名が口を揃えて待たずに『サカダイ』へ向かうと言っている以上は、多くの者達もそれに従おうとするだろう。

 同調圧力に屈する形となったことで釈然としないようだったが、ここで取り残されてしまっては困るとばかりに、最期には素直に従うのであった。

「では改めて『旅籠町』へ向かう。皆、道中にも気を抜かずに向かうのだぞ!」

「「応!」」

 こうしてエヴィとイダラマによって意識が戻らぬ『妖魔召士』は『コウヒョウ』の町に捨て置かれて、そのまま『コウエン』達は『サカダイ』方面へと歩を進めて行ってしまうのであった――。
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