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旅籠編
920.渡りに船
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エイジの案内でゲンロクの居た里から、東へ南下して下ってきたソフィ達。
この旅籠のある場所はケイノトの北東部分であり、更に南下していけば『加護の森』へと辿り着くだろう。
ソフィは当初、ゲンロクに教えてもらったエヴィの手掛かりを信じて、空を飛びながら『サカダイ』へと向かおうと思ったのだが、ヒュウガの追手の事や『|妖魔退魔師《ようまたいまし』の話をエイジから聞いて、早くテアと直接話をしておきたいと考えるようになった。
そこでちょうどエイジから旅籠の話が出た為に、こうして宿が立ち並ぶ小さな町へと、案内してもらったのである。そしてソフィ達は、この町に来て数件の宿の中へと入ったのだが、何処も一杯らしく中々宿が決まらずに居た。
どうやら『妖魔団の乱』以降、物売りや旅人などが、旅籠のように護衛の居る宿に泊まりにくるようになったらしく、その所為で泊まる数日も前から、予約が殺到しているらしい。
予約をしている客のほとんどが物売りらしく、計画的に商売を進める為に町と町を移動する旅籠を事前に決めているらしかった。
その事を店の主人に聞かされたエイジは、流石に表情を暗くしていた。エイジは妖魔召士として、各所を周らなくなって久しく、ここ最近はずっとケイノトの裏路地で生活をしていた為に今の旅籠事情など全く詳しくはなかったようだ。
「すまないね、他をあたってくれ」
そしてまたこの宿でも部屋が埋まっているようで、ソフィ達は断られてしまった。渋々と一行は、今断られた宿の外に出て来るのだった。外はだいぶ暗くなってきており、もう夜が近づいてきていた。ここに来た時はまだ火が灯っていなかった裏道通りの提灯もぽつり、ぽつりと灯っていて、徐々に開店していっている様子だった。
「申し訳ない、完全に小生のミスだ。まさか泊まる所が無い程に旅籠が繁盛しているとは思わなかった」
店の外に出るなりエイジは、ソフィ達に頭を下げてくる。元々ソフィ達は空を飛んで行こうと提案していたのである。そこを自分が旅籠に寄っていこうと誘った挙句にこの始末では、ばつが悪いと、エイジは感じていたのだろう。開口一番に謝罪をするのだった。
「いや、エイジ殿は何も悪くは無いであろう。運が悪かっただけの事だ……ん?」
ソフィはエイジに助け船を出していると、二十歳前後くらいの若者がソフィ達に向かって歩いてくるのだった。
当然気づいているのはソフィだけでは無く、ヌーは警戒心を隠そうともせずに、ギロリと近づいてくる若者を睨みつけるのだった。
「うっ……」
ヌーに睨みつけられた青年は、二、三歩後ずさった後に、やがては意を決して口を開くのだった。
「に、兄さん達、宿が空いてなくて困っているんだろう? 料金はちと相場より高くはなるが、食事も人数分直ぐに出せる。泊まる所がないなら、うちに泊まらないか?」
どうやら宿を断られて外に出てきたソフィ達を見ていたのだろう。青年は泊まる所がないなら、うちにどうだと声を掛けてきたようだった。
エイジは渡りに船だとばかりに、宿の従業員であろう若者と喋り出した。しかしソフィとヌーはその後ろで『念話』で言葉を交わし合う。
(おいソフィ、コイツ怪しくねぇか?)
(うむ、我も少し疑っておった。周りの宿が埋まっておるというのに、この者の宿だけが空いておると言うのも気になるが、それ以前に何やらこやつの視線が、ずっとテアに向いておるのも怪しいな)
この町に来たばかりのソフィ達は、この町の治安などには詳しくは無いが、先程から宿の主人と名乗った男はチラチラと見た目が人間の若い女に見えるテアを値踏みをするように見ていた。
ヌーもその視線に当然気づいているのだろう。ソフィと念話をしながらも、テアの前に守るように立っていた。
ヌーが警戒をしているのを、宿の関係者らしき男も気づいたのだろう。軽く笑みを浮かべた後は、エイジと宿の交渉の話に真剣になっていった。やがて交渉事を終えたのかエイジは、ソフィ達の方を振り向いた。
「ソフィ殿。部屋を借りられる事にはなったのだが、裏通りの酒場を利用するならば、という条件付きらしい」
「ほう?」
「酒場で出せる食べ物を宿に持ち帰ってもいいし、今なら最初の一杯を人数分奢ってくれるそうだ」
「それは……、ありがたい事だとは思うが、あの者を信用しても大丈夫なのか?」
「む? 何も問題は無いだろう。この町は普通の町では無く、妖魔討伐を可能とする護衛が数多く居る旅籠だ。それに小生やお主達であれば、何も問題は無いと思うが」
「まぁ、確かにそうだがな」
ちらりと先程『念話』で会話をしていたヌーの顔を見るが、ヌーもソフィを見て頷いて見せた。
別に構わんだろうという意味が込められているようだ。というよりも酒場を案内してくれる上に、一杯奢ると言われたことに『ヌー』は気を許した様だった。
それにこの場所を案内したエイジは、宿が埋まっていた事で自責の念にかられていたようで野宿では無く、無事にソフィ達を宿に泊まらせる事が出来て、ほっとしているようであった。
そんなエイジにわざわざ、何やら怪しいから断ってくれとは言いづらい。そこまで考えたソフィはエイジに了承を伝えて、宿の従業員らしき若者の後をついて行くのだった。
……
……
……
この旅籠のある場所はケイノトの北東部分であり、更に南下していけば『加護の森』へと辿り着くだろう。
ソフィは当初、ゲンロクに教えてもらったエヴィの手掛かりを信じて、空を飛びながら『サカダイ』へと向かおうと思ったのだが、ヒュウガの追手の事や『|妖魔退魔師《ようまたいまし』の話をエイジから聞いて、早くテアと直接話をしておきたいと考えるようになった。
そこでちょうどエイジから旅籠の話が出た為に、こうして宿が立ち並ぶ小さな町へと、案内してもらったのである。そしてソフィ達は、この町に来て数件の宿の中へと入ったのだが、何処も一杯らしく中々宿が決まらずに居た。
どうやら『妖魔団の乱』以降、物売りや旅人などが、旅籠のように護衛の居る宿に泊まりにくるようになったらしく、その所為で泊まる数日も前から、予約が殺到しているらしい。
予約をしている客のほとんどが物売りらしく、計画的に商売を進める為に町と町を移動する旅籠を事前に決めているらしかった。
その事を店の主人に聞かされたエイジは、流石に表情を暗くしていた。エイジは妖魔召士として、各所を周らなくなって久しく、ここ最近はずっとケイノトの裏路地で生活をしていた為に今の旅籠事情など全く詳しくはなかったようだ。
「すまないね、他をあたってくれ」
そしてまたこの宿でも部屋が埋まっているようで、ソフィ達は断られてしまった。渋々と一行は、今断られた宿の外に出て来るのだった。外はだいぶ暗くなってきており、もう夜が近づいてきていた。ここに来た時はまだ火が灯っていなかった裏道通りの提灯もぽつり、ぽつりと灯っていて、徐々に開店していっている様子だった。
「申し訳ない、完全に小生のミスだ。まさか泊まる所が無い程に旅籠が繁盛しているとは思わなかった」
店の外に出るなりエイジは、ソフィ達に頭を下げてくる。元々ソフィ達は空を飛んで行こうと提案していたのである。そこを自分が旅籠に寄っていこうと誘った挙句にこの始末では、ばつが悪いと、エイジは感じていたのだろう。開口一番に謝罪をするのだった。
「いや、エイジ殿は何も悪くは無いであろう。運が悪かっただけの事だ……ん?」
ソフィはエイジに助け船を出していると、二十歳前後くらいの若者がソフィ達に向かって歩いてくるのだった。
当然気づいているのはソフィだけでは無く、ヌーは警戒心を隠そうともせずに、ギロリと近づいてくる若者を睨みつけるのだった。
「うっ……」
ヌーに睨みつけられた青年は、二、三歩後ずさった後に、やがては意を決して口を開くのだった。
「に、兄さん達、宿が空いてなくて困っているんだろう? 料金はちと相場より高くはなるが、食事も人数分直ぐに出せる。泊まる所がないなら、うちに泊まらないか?」
どうやら宿を断られて外に出てきたソフィ達を見ていたのだろう。青年は泊まる所がないなら、うちにどうだと声を掛けてきたようだった。
エイジは渡りに船だとばかりに、宿の従業員であろう若者と喋り出した。しかしソフィとヌーはその後ろで『念話』で言葉を交わし合う。
(おいソフィ、コイツ怪しくねぇか?)
(うむ、我も少し疑っておった。周りの宿が埋まっておるというのに、この者の宿だけが空いておると言うのも気になるが、それ以前に何やらこやつの視線が、ずっとテアに向いておるのも怪しいな)
この町に来たばかりのソフィ達は、この町の治安などには詳しくは無いが、先程から宿の主人と名乗った男はチラチラと見た目が人間の若い女に見えるテアを値踏みをするように見ていた。
ヌーもその視線に当然気づいているのだろう。ソフィと念話をしながらも、テアの前に守るように立っていた。
ヌーが警戒をしているのを、宿の関係者らしき男も気づいたのだろう。軽く笑みを浮かべた後は、エイジと宿の交渉の話に真剣になっていった。やがて交渉事を終えたのかエイジは、ソフィ達の方を振り向いた。
「ソフィ殿。部屋を借りられる事にはなったのだが、裏通りの酒場を利用するならば、という条件付きらしい」
「ほう?」
「酒場で出せる食べ物を宿に持ち帰ってもいいし、今なら最初の一杯を人数分奢ってくれるそうだ」
「それは……、ありがたい事だとは思うが、あの者を信用しても大丈夫なのか?」
「む? 何も問題は無いだろう。この町は普通の町では無く、妖魔討伐を可能とする護衛が数多く居る旅籠だ。それに小生やお主達であれば、何も問題は無いと思うが」
「まぁ、確かにそうだがな」
ちらりと先程『念話』で会話をしていたヌーの顔を見るが、ヌーもソフィを見て頷いて見せた。
別に構わんだろうという意味が込められているようだ。というよりも酒場を案内してくれる上に、一杯奢ると言われたことに『ヌー』は気を許した様だった。
それにこの場所を案内したエイジは、宿が埋まっていた事で自責の念にかられていたようで野宿では無く、無事にソフィ達を宿に泊まらせる事が出来て、ほっとしているようであった。
そんなエイジにわざわざ、何やら怪しいから断ってくれとは言いづらい。そこまで考えたソフィはエイジに了承を伝えて、宿の従業員らしき若者の後をついて行くのだった。
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