上 下
553 / 1,906
リラリオの故郷編

541.打ち明ける事柄と忠告

しおりを挟む
 ソフィ達は先程の職員の男に案内された裏口から階段を昇り、冒険者ギルドの二階へと上がった。

「一番手前の部屋だと言っていたな?」

「ええ。昔は一階の窓口の奥が『ディラック』の居るギルド長の部屋だったのにね」

 小さな辺境の町にある弱小ギルドだった頃の冒険者ギルドからは、もう全く想像できない程に大きく改装された『グラン』のギルドであった。

 ソフィはディラックの居ると教えられた一番手前の部屋をノックする。

「ああ、どうぞ」

 すぐに中から懐かしい『ディラック』の声で返事が返ってきた。

「うむ。失礼するぞ?」

 ソフィはディラックの声に応えるように口を開きながら、そっと部屋の扉をあける。

「久しぶりだな、ソフィ君!」

「『レイズ』の冒険者ギルドの設立の一件以来だな。ディラックよ、元気をしていたか?」

 ディラックは椅子から立ち上がり、ソフィの前まで出向いて手を伸ばして握手を求めてきた。ソフィはそのディラックの手を握り握手を交わすのだった。やがて座るように促されたソフィ達は、ディラックと向い合せに座るのだった。

「それにしても驚いたぞ? このギルドも前に来た時とはだいぶ変わったな」

 ソフィがこのギルドに所属した頃は、ギルド対抗戦でも常に予選で敗北する程の弱小ぶりだった。勲章ランクAや少なくともBのランクが多く参加する『ギルド対抗戦』であっても、この『グラン』は勲章ランクAどころか、Bすらもあまり居なかったのだから、昔を知る者であれば今のグランの盛況ぶりは信じられないものだろう。

「ふふ。全て君のお陰だよ。君があの時このグランのギルドに所属してくれなければ、今も変わらずに弱小ギルドのままだっただろう。君にギルドに所属してもらって本当に感謝しているよ!」

「クックック。我が冒険者ギルドに入ろうかと思ったのは、レグランの実の代金を稼ごうと思ったからだ。礼を言うのであれば『レグランの実』を売っていたに感謝するのだな」

「ははは! その露店の店主を教えておいてくれ。今度謝礼を送らねばならないからな」

「クックック!」

 ――冗談を交えてつつ、談笑を続けるソフィ達であった。

 そして話は近況のギルドの事や、ヴェルマー支部の冒険者ギルドの今後の展望等に移っていった。

「という事で今後は『ヴェルマー』大陸の冒険者ギルド支部も数を増やしていきたいと思っているのだが、ソフィ君にも『三大魔国』以外の近隣諸国に冒険者ギルドを設立出来るように、君に力添えを頼めないだろうか?」

「それなんだがな。すまぬが断らせてもらう。当分は我も力になれそうにないのだ」

「そ、そうなのか。理由を聞かせてもらっても?」

 二つ返事で首を縦に振ってくれるとまでは言わないが、こうしてあっさりと断られるとは『ディラック』も思ってはいなかったようだった。

 ちらりとソフィは隣に居るリーネの顔を見る。リーネはソフィが真実を語りたがっている事を察して、コクリと頷くのだった。

「ディラックにはまだ伝えてなかったかもしれぬが、我は元々この世界の存在ではないのだ」

「は?」

 ソフィは自分がこの『リラリオ』の世界の存在ではなく『アレルバレル』という世界からきた大魔王だという事を説明するのだった。

 最初は何の冗談だと言う顔をしていたディラックだったが、ソフィの話す内容は納得するだけの真実味があった。

「ち、違う世界からきた大魔王……? な、なるほど……! ど、道理でソフィ君がこれだけ強いわけだ。むしろ信じるなという方が、無理があるかもしれないな。だ、大魔王か……。だ、大魔王!?」

 ソフィの強さを考えれば確かに魔族だという話は理解出来たディラックだが、別世界の大魔王という言葉だけはどうもしっくりとはこなかったようで、何度も大魔王と呟いては驚いていた。

「元の世界へ戻る方法がなかった頃はもう、この世界で骨をうずめる覚悟だったのだがな。帰る方法が見つかった今はやるべき事を先にしなくてはならぬ」

「君が別世界でも『王』の立場であったのであれば、確かに統治を放っておくわけにもいかぬのだろうな……。いやはやスケールが大きすぎて、少し想像が追い付かないのだが、確かにこういった事情を聞かされては、流石に仕方がない事なのだろう、という事は理解が出来たよ。ソフィ君」

 全ての事情を聞かされたディラックは、神妙な顔をしながら、ゆっくりと頷くのだった。

「すまぬな。こちらの世界のヴェルマー大陸の『ラルグ』魔国の王の一件は、前回の後任を決める会議で『レイズ』魔国のギルド長を務めていた『レルバノン』が国王として就く事になる。冒険者ギルド長であった奴の事だ。何か冒険者ギルドで大事なことを決めるというのであれば、お主にも都合がいいだろう。我も今回の件はレルバノンに話を通しておく」

「す、すまないなソフィ君。君の事情をよくも知らないというのに、勝手に話を進めてしまって……」

「何を言うか。我はお主にも世話になった。今もとても感謝しておるのだ」

「ありがとう」

 ソフィの言葉にディラックは申し訳なさそうな表情から一転して、嬉しそうな表情へと変わっていった。

 そしてそれからはソフィがこの大陸を離れてからの話で盛り上がるのだった。

 …………

「さて、ではそろそろ我らは行かせてもらうとしようか」

 ソフィがそう言って立ち上がると隣に居たリーネも立ち上がる。

「久々に会えて嬉しかったよソフィ君。またいつでも顔を見せに来てくれよ?」

「我も久しぶりに話せて楽しかった。おっと忘れるところだった」

「ん?」

「このギルドの前で整理券を配っていた優秀そうな職員と、さっき話をする機会があったのだがな。ここをやめて田舎へ帰ろうとしていたぞ。目先の事に囚われすぎてを失う事のないようにな?」

 ソフィは先程の職員の事もそうだが、謙虚さを損なえば大事なものも失う事になると暗にディラックへと伝えるのだった。

「そ、それは……。心配かけてすまない。肝に銘じよう」

 ソフィの言葉の意味を理解したディラックは、気を引き締め直す。

 そのディラックの顔を数秒程眺めていたソフィは、ようやく笑顔になるのだった。

「うむ。そうしてくれ。それではな?」

「私も失礼しますね」

 ソフィとリーネはその言葉を最後に部屋を出ていくのだった。

「ありがとうソフィ君。どうやら私は少し天狗になっていたようだった。どれだけギルドが大きくなっても初心の気持ちを忘れては意味がない……!」

 ギルドが大きくなり人が集まった事でディラックは、気が大きくなっていた事を反省して、今後は『自重の心』を心掛けようと固く決心をするのであった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...