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残された九大魔王編

459.誇りある魔族として

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『精霊の大陸』に襲撃に来た組織の者達は、ディアトロス達によって葬られた。余りの戦力差に『レア』は、救出を考えなくてもよかったのではないかと考える程であったのだが、そこで当人であるディアトロスが口を開くのだった。

「さて、問題はここからじゃぞ」

「え?」

 レアがきょとんとした表情を浮かべて声を出すと、レアを抱き抱えているリーシャが今度は口を開いた。

「今ので多分、あいつらは本腰入れて攻めてくるよ」

 レアの疑問に答えるようにそう呟いたリーシャに、ディアトロスが頷きを見せる。

「まず『分隊』と呼ばれる力量の者達を送り込んでこちらの戦力を測った後に『本隊』で襲撃を掛ける。いつもの『組織』の奴らの常套手段じゃな」

 その昔『ディアトロス』達も『魔王軍』を使って、ソフィにあだなす組織の者達を葬ってきたため、敵のやり口には理解を示すディアトロス達であった。

 そして分隊であろうが本隊であろうが、今のレアにとっては何も変わらず脅威なために、それを聞いて嫌そうな表情を浮かべるのであった。

「すでにこちらに近づいてくる者達を察知しました。どうやら数は先程と同じ程度のようだけど『漏出サーチ』を使うのを阻まれる程の魔力を感知しているわ」

 精霊女王『ミューテリア』はそう言うと、こちらに攻めてきていると思われる方角の上空を見据える。

「面倒な連中ねぇ! リーシャちょっと降ろして」

 レアが真剣な表情を浮かべながらそう言うと、リーシャは頷いて抱っこしているレアを降ろした。地面に降り立ったレアはディアトロス達に近づいていく。

「ん? どうしたのじゃ?」

「少し話したいことがあってねぇ?」

 …………

 レアはディアトロス達に『マジックアイテム』の事を伝え始める。

「ほう? ブラストが使って姿この不思議な玉の事か」

 ディアトロスとイリーガルは懐から、預かっていた『根源の玉』を取り出す。

「ええ。元々ソフィ様は貴方達にこの世界から離れるように伝えるために、今も『リラリオ』の世界で『世界間移動アルム・ノーティア』の魔法習得の為の『ことわり』を学んでいる途中よぉ」

 現在のソフィの状況を伝えながら、レアは『マジックアイテム』を使うように促すのだった。

「そうか、ソフィの奴がな……」

 ディアトロスはそう呟くと、イリーガルと顔を見合わせる。

 あの優しきであれば、自分達の為に『アレルバレル』の世界へと戻る方法を模索するだろうということは薄々感じてはいたが、こうして目の前でそれを告げられるとやはり嬉しさがこみ上げてくる『イリーガル』達であった。

「しかし上手くソフィ様の居る世界へ辿り着けたとして、このアイテムはワシとイリーガルしか持っては居らぬ。数は減ったとは言ってもまだまだこの『魔界』には、少なからず『魔王軍』の者達もいるじゃろう。彼らはワシらが反撃に出る時や、ソフィがこの世界に戻って来るのを信じてタイミングを見計らって潜伏しておるじゃろうからな……」

 そう言ってディアトロスは持っていた『根源の玉』をレアに渡した後に続ける。

「ワシらはそう言った者達を捨ておくことは出来ぬのだ。気持ちだけ受け取っておくと、伝えてくれるか?」

 ディアトロスがそう言うと、イリーガルもまた嬉しそうな笑みを浮かべた後に頷き、同じようにシスに『根源の玉』を渡すのだった。

「使うつもりはない、という事なのね?」

 レアがそう告げると、ディアトロス達はその通りだとばかりに頷く。

「うむ。ワシらは最後までこの『アレルバレル』で戦い続けよう」

「ソフィ様がこちらに戻る『魔法』とやらを練習してくれているのだろう? それならば俺達はそれを大人しく待っていればいい」

 今度はディアトロスとイリーガルが、顔を見合わせて笑みを浮かべ合うのだった。レアはその姿に驚きを隠し切れなかった。

 ソフィが『概念跳躍アルム・ノーティア』を習得して戻ってくるまでこの『アレルバレル』で戦い続けると、彼らは告げているのである。

 しかし当然それは数日や、数か月で達成出来るものではない。下手をすれば数百年、いや数千年規模にかかる程に『概念跳躍アルム・ノーティア』の習得は難しいのだ。

 更にいえばソフィは『アレルバレル』の世界出身の魔族なのである。

『レパート』の『ことわり』から覚えないといけないために、いくら『九大魔王』である彼らと残された『魔王軍』の者達が強いとはいってもそれだけの長い間、組織の者達と戦い続けて生き残るというのは、余りにも現実的ではなかった。

 レアの故郷の『レパート』の世界にもフルーフを『主』とする『魔王軍』は存在するが『魔王軍』のために命を捨ててフルーフの帰りを待つまで戦い続けられる者達は、この何人いるだろうか?

「そうだね。別世界に跳ばされたエイネさんや、他の先輩達はこの場に立つことすら出来なくなっちゃったんだ! 私達はに、戦える事を喜ばないとね!!」

 ――『ディアトロス』『イリーガル』『リーシャ』。

 三者共に生き残る手立てが残されていると理解した上で、その手立てを破棄してでもこの世界の為に死ぬ事を選択した。

 ――何という凄い魔族達であろうか?

 レアは同じ魔族として、彼らの誇り高き『大魔王』としての矜持プライドをその目にして、胸が熱くなっていくのを感じた。そしてぎゅっと両手を強く握った。

 ――これが『』か!

「わ、分かったわぁ! 貴方達の気持ちは確かに受け取ったわよぉ! 帰ったらソフィ様に伝えて、早く『概念跳躍アルム・ノーティア』を覚えてくださいって急かしてここに早く戻させるわね!」

 レアがリーシャの顔を見ながら、薄っすらと涙を目に浮かべながらそう告げる。

「へへ! 『』レアに会えて嬉しかったよぉ! さ、もうここに奴らが来る前に、もうレアは元の世界へ戻った方がいいよ?」

「うむ。あの人間の魔力は感じぬが、どうやらここに向かってきている者達の中には、ワシの隙をついてワシに成りすました若造が向かってきておるようじゃ。お主達は早く戻った方がよいな」

 レア達には大賢者『ミラ』や、大魔王にして大賢者である『ルビリス』を知らない為に、ディアトロスの言葉が誰の事を指しているかは分からなかったが、どうやら今のレア達ではどう足掻いても勝てない存在が迫ってきているという事なのだろうと解釈して頷いて見せる。

 そしてついにレアが『漏出サーチ』を使わずとも分かる程の濃密で、膨大な魔力を持った者達がこの大陸に迫ってきているのを感知して空を見上げる。
 まだ肉眼では見えないが、奴らはもうすぐ傍まで来ているようだった。

「レア達は早く戻って!! これ以上この場に居るのは危険よぉ!」

 リーシャが焦り始めたところを見ると、どうやらこの場に向かってきている者達はレアの想像以上の奴が居ると言う事だろう。

 それを理解したレアはリーシャに頷いて『概念跳躍アルム・ノーティア』の『詠唱』を始めるために魔力回路に膨大な『魔力』を供給し始める。

「シス! 急いで戻りましょう!」

「ええ」

 レアに促された『シス』も魔力回路に供給し始める。

「それじゃあ、先に行くわぁ……! リーシャ! 絶対死んだら許さないからねぇ?」

「もちろんよぉ! レア、ゆっくりお話しようね?」

 レアは満面の笑みを浮かべて、大好きなリーシャに頷きを返すのだった。

「それじゃあね!」

 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。

 レアが魔力回路に魔力を注ぎ切った後、詠唱を終えた『時魔法タイム・マジック』である『概念跳躍アルム・ノーティア』が発動されるのだった。

 鮮やかな『レパート』の世界の刻印が刻まれた魔法陣が、高速回転を始めたかと思うと、次の瞬間には『レア』の姿は『アレルバレル』の世界から忽然と消え去っていくのであった。

 ……
 ……
 ……
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