上 下
195 / 1,915
停滞からの脱却編

189.前を向く、新たな目標

しおりを挟む
「その辺になると現役の冒険者である者達を交えて、話を進めた方が良さそうですね。スイレン君、リーネ君、ラルフ君も、遠慮無く意見等がありましたらお願いします」

 その場に居る者達がレルバノンの言葉にコクリと頷いた。

 ミールガルド大陸でスイレンやリーネのように最高ランクに近しくなっていても『ヴェルマー』大陸のギルド討伐『Bランク指定』以上の依頼を無事にこなせるかが分からない。

 そう言った者達の事を考えるという意味でも、あくまで今回決める事はギルド指定の討伐は、参加点に加えて討伐加点を増やすという事を優先した方が良さそうであった。

「ミールガルドの基準で『ギルド指定Aランク』の魔物で戦力値が30万程だと決められている」

 スイレンがそう言うとレルバノンは思案する。

「ふーむ……。そうなってくると大幅に修正が必要ですね。私がラルグに所属してからの数千年間で突如暴れる魔族等もそれなりに多く見てきましたが、中位魔族でも戦力値は当たり前のように

 差に開きがありすぎてスイレンとリーネは何も言えなかった。

 スイレンもリーネも冒険者としての生活は長い。しかし冒険者の本来の目的は、強さのみを追求するものではない。

 こつこつと薬草集めや瓦礫の撤去の手伝い等、インフラ整備などを手助けしたりして戦闘面以外で勲章ランクを上げてきたものも多いのである。

 だからこそ退

 そういった考えを持つ冒険者も居るだろうが、実はそれは大きな間違いであり、決してこれは他人事ではないのであった。

 一例を挙げるとするならば、薬草集めや素材集めのクエスト中にこういった魔物が突然現れて、巻き込まれて戦闘になる場合もあるのだ。

 その時に自分は戦いをするつもりはないと考えていても、相手が襲う気であるならば戦いは避けられない。

 冒険者である以上は冒険をする上で、どんな簡単なクエスト中であっても気を抜いてはいけない。

 今までの『ミールガルド』大陸での生活であれば『ギルド指定C』や『ギルド指定B階級クラス』であれば、リーネでも討伐は可能であり、Aランクの魔物がいるという情報が入ればその場には近づかないといった防衛策をとる事も出来た。

 しかし、ここではGランク相当の『ギルド指定魔物』であっても、数十万から数百万の戦力値である可能性があるのである。

 そうなればリーネは冒険者として活動する事は到底出来ない。

 これでは冒険者として安心して活動が出来ないのである。

「あくまでこれはヴェルマー大陸の規則となるので、リーネさんやスイレン君たちが、これまでと同じように、グランの町の所属の冒険者という登録を残しておくのであれば、勲章ランクをそのままにしていただいても良いと思うのですが、新たにこちらの『レイズ』魔国の冒険者として登録し直すというのであれば、もう一度勲章ランクを下げて頂く事から、始めて頂かなければなりません」

 当然リーネもスイレンもこの大陸に来た時から、最低ランクの勲章ランクから始めても良いと考えていた。

 スイレンはソフィと戦う前であれば、決して取らない選択肢であったが今の彼は冒険者として道を歩み始めたのである。

 そして最初の気持ちを思い出しており、一から経験を積み直したいと考えていたのである。

 そしてそんな彼の妹であるリーネもまた、ソフィの隣に居られる程の強さを手に入れたいと考えていて、ひそかに自主練を再開していた。

「しかしだ、せっかく上げた勲章ランクを下げるのは、もったいない気もするな。その件はもう少し保留にしてもらってもよいか?」

「え?」

 二人は勲章ランクを最低ランクに戻しても良いという考えであった為に、突然のソフィの提案にリーネとスイレンは、互いに疑問の表情を浮かべるのであった。

「リーネにスイレンよ。お主達さえよければ、少し我の修行に付き合わぬか?」

 その言葉に二人は、再度顔を見合わせる。

 ソフィは影忍としての二人の稀有な技を本格的に、戦闘で活かせるようにしたいと常々考えていた。

 その思いはシチョウが見せたあの暗殺術を見て尚深まり、今回がいいタイミングだと思ったのである。

 スイレンとリーネはそのソフィの提案に直ぐに頷いた。

「是非頼む!」

「わ、私もやるわ!」

 こうして冒険者ギルドの規則修正から新たに二人の修行が始まるのであった。

 ……
 ……
 ……

 その頃、レイズ魔国の首都『シティアス』の町の建物を魔法で修復していたシスとユファは、休憩をとる事にして、近場の木の陰で腰を下ろしていた。

「だいぶ元通りにはなってきたわね……」

 ユファは自分達で直した建物を見ながらそう言った。

 シスは頷くが、あまり顔色は良くない。

 建物が元通りになっても民達が昔のように元通りになるわけではない。

 ユファはそのシスの横顔を見ながら、自分がかかった梗桎梏病こうしっこくびょうを思い出して恨んだ。

(もしもあの時私が魔族の魔力を枯渇させる病などに罹らなければ、ラネア達を死なせる事はなかったかもしれない)

 レルバノンが率いていた数千年前のラルグ魔国軍に比べれば、この時代のラルグ魔国第一軍など『ユファ』の十分の一程度の戦力値しかない『代替身体だいたいしんたい』の『ヴェルトマー』の身体であっても追い返す事など造作もなかった筈だ。

 それにピナやラネアは、とても優秀で魔力増幅を使わずとも『最上位魔族』として十分な戦力を持っていた。そんな優秀な者達を死なせてしまった。

 ――だからこそと、ユファは顔を上げる。

 『レイズ』魔国を本拠地とする冒険者ギルド。これを利用して『レイズ』魔国の再興を成し遂げて見せる。

 今のユファはもうは何も心配していなかった。何故ならば、

 自分は何も心配しなくていいし、その心配をする必要がない。

 自分のやるべき仕事はこの隣にいる優しき女王を再びレイズ魔国の希望へと押し上げる事である。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...