上 下
183 / 1,906
冒険者ギルド支部編

177.首都シティアス

しおりを挟む
 ソフィはシティアスに入る前に、配下の『ロード』や魔物の軍勢を街の外で待機させるのだった。

 ソフィが何か情報を得る事が出来ればここに一度戻ると説明すると、ソフィの軍勢の直轄司令であるベアは大きく頷くのだった。

 …………

 首都シティアスもやはり戦争の爪痕つめあとが残り廃墟と化していた。しかし町の外れの方に最近建てられたのだろう簡素な墓がいくつもたっていた。

「ソフィ様……」

 同じように立てられている墓を見たであろうラルフが、ソフィに声を掛けてきた。

「うむ。どうやら思った通り生存者がいるようだ」

 そう言ってソフィが一歩墓の方へと近づくと、その周囲から魔力の余波を感じた。

「それ以上近寄るんじゃねぇっ!」

 バチバチと音を立てながら雷の魔法が、連続してソフィに向けて放たれた。

 ――最上位魔法、『雷撃閃光フードル・フラッシュ』。

 ――最上位魔法、『雷撃閃光フードル・フラッシュ』。

 ――最上位魔法、『雷撃閃光フードル・フラッシュ』。

「『絶対防御アブソリ・デファンス』」

 本来発動に必要な筈の魔法詠唱を省いて、ソフィが使用する『魔法』の名だけを告げると、ソフィに向けられていた雷の『魔法』が雲散霧消していく。

「な、何で! ボク達の魔法が……」

「っく、こいつらは!」

 突如、周囲の物陰から隠れていたであろう子供の声が飛び交った。

 そして更に追い打ちをかけようと子供達の方から『魔力』の奔流を感じたソフィは声を出す。

「待て……。我らは敵ではない」

 ソフィがそう告げると、この場に数秒程の沈黙が流れた。

「お主達は『レイズ』魔国とやらの生き残りであろう? 我に姿を見せてくれぬか?」

 同じくらいの年齢のソフィの優し気な言葉に、物陰からガサガサと音を立てて、数人の子供達が出てきた。

「……ほ、本当に敵じゃない?」

 子供の一人がそう言うとソフィは頷いた。

「うむ。我はシスやユファ、いやヴェルトマーとも知り合いだ」

 その言葉に子供達の目が驚愕の色に染まった。

「それで、お主達以外にはもう誰もおらんのか?」

「皆、隠れて暮らしてるよ」

 子供の一人が素直にそう答えると、他の子供達が声をあげた。

「おい! 本当に女王様達の知り合いかも分からないのに言うなよ!」

「そうだ!! お前の所為で皆が危ない目にあったらどうするつもりだよ!」

 素直に答えた子供は近くに居た子供達にまくし立てるように咎められた。

「ご、ごめん……」

 子供が素直に謝ると溜息を吐いて他の子達がソフィに視線を移した。

「我々は嘘はついてはいませんよ」

 横にいたラルフが責められている子供を庇うように口を挟むと、責めていた子供の一人が声をあげた。

「え? お兄さんもしかして人間?」

 漏出サーチか魔力感知か分からないが、子供の一人が目ざとくラルフが人間だと気づいた。

「う、うそ! 本当? は、初めて見た……!」

「俺も俺も!」

「後ろにいる女の人も人間だよ!」

 リーネを指さしてまたも子供達は驚いている。

「これで分かっただろう? 我らは『ミールガルド』大陸から来たばかりなのだ。お主らの考えている『ラルグ』魔族の者でもないし、当然お主らの敵でもないぞ」

 ソフィがそう言うと子供達は、再度ラルフやリーネを見た後に納得するように頷いた。

 余程ソフィ達の中に人間が居るという事が、子供達にとっては信用に値するような事だったのだろう。

「お主達の仲間とやらの所に案内してくれぬか? 出来れば大人が居ればいいのだが」

 ソフィがそう言うと、先程まで敵対心を持っていた子供の一人が大きく頷いた。

 どうやら根は素直でいい子ばかりのようだった。

 子供達の案内で『シティアス』の入り組んだ道を進んでいくと、立てかけられている看板から読み取るに酒場であっただろう建物があった。

 そこに子供達が入っていくのでソフィ達も入っていく事にした。

 …………

 建物の中は薄暗く至る所の窓が割れていて、ビュウビュウと風の音が聞こえる。そして室内のテーブルやら椅子が乱雑に並んでいた。

「こっちだよ!」

 最初に素直に応えてくれた子供が指を差す方向に、小さな物置部屋みたいなのがあった。

 何もないように見えるが、ソフィには微かな魔力の残滓を感じる。

 そして子供の一人が魔法を唱えると、何も無かった部屋に地下へと通じる階段が現れた。

「ほう……。隠蔽魔法か」

 ソフィでも意識して見なければ、パッと見て気づかない程の精密性な隠し階段だった。

「凄いでしょ? の魔法なんだよ!」

 どうやら『レイズ』魔国の魔族の名前らしい。ソフィは子供達に向けて感心するように頷いて見せた。

 ソフィ達は地下へと通じる階段を下りていく。余程深く掘ってあったのか、時間をかけて階段を下りていくと空洞が広がっていた。

 地盤沈下を不安するような規模の大きさだったが、魔力の残滓を感じるので最初からある程度計算されて作られていたのだろう。防空壕のような役割を担ったのかもしれない。

 ソフィ達が地下空洞を歩いていくと、やがて明かりが見え始めた。

「貴方達、そこで止まりなさい!」

 ローブに身を包んだ小柄な女性が、空洞を歩いてくるソフィ達を呼び止めた。

「お姉ちゃん!」

 その女性に子供達が嬉しそうに駆け寄っていく。

「ルキ……? お前たちも!」

 一番最初にソフィの前に姿を見せてくれた、あの素直だった子供はルキという名前らしい。

「唐突に入ってきてすまぬな。お主がここの責任者か?」

 ソフィがそう言うと『ラルグ』魔国の者達ではないと悟ったのだろう。

 ローブに身を包んだ小柄な女性は、を消して頷いて見せた。

「私は『』という者だ。お前達は何者だ?」

 そこに居たのは数千年前、この国のNo.2として『フィクス』を務めた魔法部隊長。

 ――『リーゼ・フィクス』であった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...