上 下
121 / 1,906
ヴェルマー大陸VSミールガルド大陸編

116.囮

しおりを挟む
 シスは微睡んでいたがようやく意識が戻り、ゆっくりと目を開ける。

 ――そこは見た事のない天井だった。

 ここはどこだろう、何故ここで眠っているのかと考え始めた事で、だんだんと意識がしっかりしはじめて、頭の中に気を失う前の映像がフラッシュバックするように呼び起こされてくる。

 憎しみに捕らわれた私が『力』に取り込まれて自分と思えない行動をして、死んだ筈のヴェルが私の中に入ってきて、そして、そして……。

 少しずつ記憶が戻ってきて、魔王となった自分があのソフィと名乗った少年と戦った事を思い出した。

「そうだ……。私ソフィさんと戦ったんだ」

 そしてそこまで思い出したところでちょうど、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

「? どうぞ」

 それがノックだと気づくのに少々時間を要したが、シスは何とか声を出す事が出来た。

「起きた? 意識はちゃんとしてる?」

 シスを気遣う様に声を掛けてくれた少女は、心配そうにこちらの返事を待つ。

「ええ、大丈夫よ。貴方は、ソフィさんの横にいた……、えっと」

 シスがそこまで言うと、笑みを浮かべて少女は答えてくれた。

「私はリーネよ、シスさん」

 ……
 ……
 ……

 屋敷のリビングでは屋敷の主であるレルバノンが、今後について話をしていた。

「ソフィ君。先程は『ヴェルマー』大陸に乗り込む事に反対はしませんでしたが、シチョウ君がこちらに来た事で、また改めて事情は変わりました」

 ソフィもまた、レルバノンの言葉に頷きをみせる。

「もはや『ヴェルマー』大陸は『ラルグ』魔国がそのとみて間違いないでしょう。そして恐らくですが『ヴェルマー』大陸に憂いがなくなった事で、ゴルガー達は我々の始末に本格的に乗り出すかと思われます」

 ソフィは結局こうなってしまったかと、内心で毒づいた。

 『魔王』レアが予言めいた事を言った事を思い出した。

 彼女はヴェルマー大陸の魔族が、この『ミールガルド』大陸に続々と多く乗り込んでくるだろうと言っていた。

 つまり戦争を終わらせたラルグ魔国が、次の標的にこの大陸を選んだという事だろう。

 目的はラルグから逃亡したレルバノンの組織か、それともヴェルトマーの転移魔法でこちらの大陸に飛ばされたシス女王なのか。

 どちらにせよ魔族達が大量にこの大陸に入り込んでくるというのならば、ミールガルドに被害が出る事は避けられないだろう。

 ソフィはどうしたものかと考える。

「このまま『ケビン』王国や『ルードリヒ』王国に黙っていても、ヴェルマー大陸から魔族が入り込めばすぐに分かる事でしょうから、伝えなければならないでしょうね」

 レルバノンは、気が重いとばかりに溜息を吐いた。

 少数の魔族であればレルバノンやエルザたちだけでも何とかできただろうが、ラルグ魔国の本隊が動くとなれば、レルバノン達だけで相手どるには

 ラルグ魔国もヴェルマー大陸で戦争を終えたばかりであるため、メインとなる一軍を動かしてくるという事はないだろうが、二軍や三軍ならば十分に可能性がある。

 それでも少なく見積もっても、戦力値数百万を越える魔族が数千体は入ってくるだろう。

 ミールガルド大陸の平均戦力値は高くはない。

 大混乱になる事は避けようがないと考えられる。

 戦力値が数百万を誇る魔族が大多数居た『トウジン』魔国や『レイズ』魔国のような大国であっても、たった数時間で制圧させられたのだ。

 この大陸の国家の兵隊は戦力値が10万にも満たぬ者達が多数である。

 この大陸にレルバノン達が居続ければ、あっさりと『ケビン』王国も『ルードリヒ』王国も攻め滅ぼされてしまうだろう。

 しかしだからと言って『ヴェルマー』大陸全域が敵地である以上、すんなりとあちらの大陸に入る事も出来ないであろうし、レルバノン達はまさに八方塞がりであった。

 ――だがここでソフィが口を開いた。

「我に考えがあるのだがな。お主、囮になってもらえぬか?」

 それはレルバノン達にとっては、予想だにしない突然の言葉であった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...