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第三章 終焉を呼ぶ七大天使
第290話 乾杯
しおりを挟む光に包まれたアルマ様が再び姿を現すと、特に体に目立った変化は見られなかった。だが、どこか大人びた雰囲気を醸し出している。
そして、アルマ様は何を思ったのか再びグラスにユピスパークを注ぐと今度は俺へと差し出してきた。
「え、えっと……アルマ様?」
「お酒って皆で飲んだほうが楽しいんでしょ?カオルも立って見てないで飲もうよ。ジャックもほら。」
「ありがたき幸せでございます。」
空いていたグラスにユピスパークを注ぐとアルマ様はジャックへと差し出す。彼はそれを両手で受けとると、深くアルマ様に御辞儀する。
そしてアルマ様は再び空いていたグラスを手に取ると、そこには自分用のユピスパークを注いで、俺の方へとグラスを近付けてきた。
「ほら乾杯。アルマのお酒が飲めない……なんて言わせないよ?」
「はは、弱ったな。いったいどこでその言葉を?」
「カナンに聞いたんだよ。ねっ?」
「うん!」
なるほどな。まぁ、そう言われちゃ……断れないな。
「それじゃ……いただきます。」
一つ御辞儀して、俺は差し出されたアルマ様のグラスに軽く自分のグラスを合わせた。
「はい、ジャックも。」
「失礼いたします。」
ジャックもアルマ様のグラスに軽く自分のグラスを当てる。
「それじゃあ乾杯!!」
そしてグラスに入っていたユピスパークを一気にアルマ様は飲み干した。それに続くように俺とジャックもグラスに注がれたユピスパークを飲み干す。
「えへへ、これ一回やってみたかった……んだ……。」
ユピスパークを飲み干したアルマ様は突然顔を真っ赤に染めると、フラフラと俺の胸へと倒れ込んできた。
「あ、アルマ様!?…………寝てる?」
俺の胸へと倒れ込んできたアルマ様は幸せそうな表情を浮かべながら眠りについていた。そんなアルマ様をジャックはそっと抱き上げると、此方を向いて言った。
「アルマ様にはまだ少々ユピスパークは強いお酒だったようですな。アルマ様はこのままお部屋へとお連れします。」
「あ、お願いします。」
「カオル様もカナン様達をお願いしても?」
「へ?カナン?」
チラリとカナン達の方へと視線を向けると、ユピスパークを飲んだカナンとメアの二人がすっかり酔ってしまったようで、べたーっとテーブルに俯せになりながら眠ってしまっていた。
その二人を必死に心配してアリスが声をかけていた。
「か、カオルおね……お兄さんカナンちゃん達が……。」
「大丈夫、ちょっと眠ってるだけだ。明日にはまた元気に遊べるよ。」
アリスの頭をぽんぽんと撫でながらそう告げた俺は、二人を抱え上げてある人物に声をかけた。
「シトリー?」
「ふぁ、ふぁい!!」
声をかけたのは新人メイドとしてここで働いているシトリーだ。俺に声をかけられると、彼女は口いっぱいに料理を詰め込みながら返事をしてきた。
「アリスが間違ってもユピスパークを飲まないように見張っててくれ。あと、口に物を入れてるときは無理に返事しなくても良いからな。ゆっくり食べててくれ。」
そうお願いするとシトリーはビシッと敬礼し、了解の意思を伝えてくる。リスみたいにパンパンに頬が張ってなかったら格好つきそうなものだが、まぁシトリーはこのぐらい抜けてたほうが彼女らしい。
「アリスのことはワタシ達も見張っとくからその子達寝かせて来ちゃいなさいよ。」
「ん、頼んだ。」
エンラにもそう声をかけられ、一安心した俺はひとまず二人を部屋へと運ぶことにした。
二人の部屋へとたどり着いた俺は、丁寧にメイキングされたベッドの上に二人を寝かせると風邪を引かないように厚い毛布をかけて部屋を後にした。
そして厨房へと戻る途中、アリスを連れたソニアと行き会った。
「ん、アリスはもう帰る時間か。」
「うん。また明日も来ていい?」
「もちろんだ。だから帰ったら早く寝るんだぞ?」
そういつもの約束を交わすと、アリスはソニアに連れられて行った。
「さてさて、ラピス達はどうなってることやら。」
いつもの厨房へと戻って来ると、そこにはしっぽりと飲みながら会話をしているラピスとエンラ、シトリーの姿があった。
「まだ飲んでたのか。」
「お、戻ってきたかカオルよ。ほれ、我が酒を注いでやるぞ。」
「ほどほどにな。」
席に着いた俺にエンラがじっと視線を送って来る。
「…………ホントにメスの体になっちゃったのねぇ。こうしてみるとやっぱり違和感しか無いわ。」
「まぁ、その違和感には慣れてもらうしかないな。」
今日はまだ外へとこの体で出ることはなかったが明日からはそうもいかなくなる。買い出しにも行かなければならないし、なんならそろそろあっちの世界から調味料とかも買ってこないと……。
本当の苦労は明日からだな……。
これから待ち構える苦難に頭を抱えながら、俺は残った面々とユピスパークを飲み交わすのだった。
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いつも楽しみにしてます!
頑張ってください!
ご感想、ならびに励ましのお言葉ありがとうございました。
未だ稚拙な文章ですが、これからも完結へと向かって書き続けていきます。
こちらのアルファポリス様では最新話の2話遅れで更新をしております。最新話を確認したい際には、小説家になろう様にて最新話を掲載しておりますので、良ければそちらもご覧下さい。
これからも何卒この作品をよろしくお願い致します。