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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第219話 薬師カリン

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 幸い、特に魔物に襲われることもなくルアとミミルの二人はエルフの集落へと帰ってきた。さっそく持ち帰った精霊花を薬師のカリンのもとへと預けに向かう。

「カリ~ン?帰ったわよ~。」

「ん、ミミル帰ってきた。……ん?んん?」

 出迎えたカリンはミミルの体を何やら訝しげな表情で眺め始めた。

「ミミル、怪我した?」

「げっ……なんでわかんのよ。」

 カリンはミミルが怪我をしたことをあっさりと見抜いてしまったのだ。

「私これでも薬師、体の異常には敏感。でも怪我は綺麗に治ってるみたい?ミミル回復魔法なんて使えたっけ?」

「うぅん、私じゃなくてこの子が治してくれたのよ。」

 ミミルは隣にいたルアの頭にポンと手を置いた。

 それにカリンは驚いた表情を浮かべる。

「獣人族なのに魔法使えるって珍しいね~。しかも扱いが難しい回復魔法使えるなんてすごい。」

「えへへ……。」

 素直に褒められ、嬉しくなった様子のルアは顔を赤くしながら微笑んだ。

「でも回復魔法で治せるのは外傷と内傷だけ、傷口から入った毒までは解毒はできない。」

「えっ、毒?」

 カリンの言葉にミミルの顔が青くなる。

「多分アシッドパイソンにやられたんでしょ~?あの蛇は牙だけじゃなくて体表にも酸性の毒があるのね。だからわずかな傷口からでも気づかないうちに毒が入ってる。」

「そ、そうなのっ!?」

「そうなのって……ミミル知らないで戦ったの?」

「逆になんで普段からここに籠ってるあんたが知ってんのよ!?」

「薬師は毒を持ってる魔物のことは網羅してないと務まらない。だからアシッドパイソンの毒のことを知ってるのは当たり前。」

 そう言ってカリンは立ち上がると、棚からいくつかの乾燥した植物などを取り出してすり鉢の中に放り込んだ。そしてゴリゴリとすりつぶし始めた。

「アシッドパイソンの毒は遅効性だけど強力な毒。血液に溶け込んで全身に回って、徐々に内側から内臓を腐らせる。」

「ヒェッ……とんでもない毒じゃないっ!?」

「だから早いうちに対処が必要。」

 粉末状にした薬草に青い色の液体を注ぐと、カリンはそれを小さな容器に入れてミミルに差し出した。

「はい、これ飲めば大丈夫。」

「コレ……もしかして苦い?」

「苦い。」

「うぇぇ、苦い薬苦手なんだけど。」

「良い薬ほど苦くなる。これ常識。飲まないと……死ぬよ?」

「うぅ……さすがに命の危機に好き嫌い言ってらんないか。」

 覚悟を決めてミミルは一気にカリンの作った薬を飲み込んだ。薬を口に含んだ瞬間にミミルに表情が一気に悪くなるが、涙目になりながらも彼女は何とかそれを飲み干した。

「にっっっっっが!!美味しくない!!み、水っ!!」

「はいはい。」

 悶絶するミミルにカリンは水を手渡すと、慣れた手つきでミミルが腰に提げていた袋から精霊花をさりげなく取り出した。

「うん、鮮度もばっちり。これならいい薬になる。キミ、ちょっと待っててね。」

「は、はい。お願いします。」

 そしてカリンはてきぱきといろいろな薬品と精霊花を調合し、あっという間に小瓶一杯分の薬を作り上げた。

「はいこれね、お母さんに飲ませてあげて。」

「あ、ありがとうございます!!あの、お金って……。」

「あぁ、代金はいらないよ~。キミにはミミルを治してもらったし、早く帰ってお母さんにそれを飲ませてあげて?」

「ありがとうございます!!今度また改めてお母さんと一緒にお礼に来ますっ!!」

「キミのお母さんが良くなることを祈ってるわ~。」

 ミミルとカリンの二人にお礼を告げると、ルアは移動魔法を展開した。そして二人の前から姿を消す。ルアが移動魔法でいなくなった後、カリンとミミルの二人は大きく目を見開いていた。

「ミミル、あの子移動魔法まで使えるの?」

「私だって初めて見たわよ。」

「もしかして、あの子とあの子のお母さんってすごい人なんじゃ?」

「かも?」

 二人がそんなことを思っているころ、ルアはロレットの城へと移動することに成功していた。

「よし、早くお母さんに飲ませてあげよう!!」

 ルアは作ってもらった薬を握りしめると、城の中へと走って入っていくのだった。
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