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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第213話 思い出の料理

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 次の日の朝ルアが由良に作った食事を運んでいると、ロレットと鉢合わせた。

「おはようございますロレットさん。」

「うん、おはよう。それで……どうだ?由良の調子は。」

「ちゃんと昨日のご飯も食べてくれたので……少しは回復してると思います。」

「そうか……。なら良いのだが、もし目を覚ましたら教えてくれ。」

「わかりました。」

 そう言葉を交わした後ロレットは少し不安そうな表情を浮かべながらも、また一人修行へと向かって行ってしまう。

 ロレットと別れたルアは、由良のいる部屋に食事を運びに行った。彼女の部屋に前に着いたルアは周りに誰もいないことを確かめると、静かに部屋をノックした。

「お母さん入るよ?」

 そしてそう声をかけてからルアは由良の部屋の扉を開ける。すると、入ってきたルアを出迎えるように由良がゆっくりとベッドから体を起こした。

「お、おはようなのじゃルア。」

 重々しい動きで体を起こした由良にルアが駆け寄った。

「お母さんダメだよ、まだ無理しちゃ……。」

「じゃが、せっかくルアが朝ごはんを作ってきてくれたのじゃ……。出迎えたかったのじゃぁ。」

「嬉しいけどダメ。無理して悪化しちゃったらどうするのさ。」

「うむ、すまんかったのじゃ。」

 ルアの言葉を聞き入れ、素直に由良はベッドに横になる。そんな彼女の横にルアは座ると作った朝ごはんをスプーンにとって由良の口に近づけた。

「一応食べやすいおかゆ作って来たからね。はい、口開けて?」

「あ~……。」

 ルアは湯気の立つおかゆをふ~ふ~して少し冷ますと、由良に食べさせる。

「んっ……。」

「大丈夫?熱くない?」

「うむ、美味しいのじゃ。にしてもこれは……。」

 由良はおかゆを食べて少し不思議そうな表情を浮かべた。

「あ、気が付いた?」

「うむ、これは確かあの時ルアが作ってくれたおかゆと同じものじゃな?」

「うん!!ほぐし鮭と卵のお粥。覚えててよかった。」

「無論覚えているのじゃ!!あれはルアがわしに作ってくれた初めての料理じゃからな。」

「ちょうど冷蔵庫の中におんなじ材料があったから作ってみたんだよ。」

 そう、今日の朝ごはんとしてルアが作ったのは以前由良が倒れたときに作った料理と同じ、ほぐし鮭と卵のお粥だったのだ。
 由良が覚えていたことにルアは嬉しくなったようで、ほっこりと笑った。

 そしてじっくりとお粥を嚙みしめるように食べ終わった由良はポツリと呟く。

「体の底から……心の奥まで温まる料理じゃった。」

「お腹いっぱい?足りなかったらもっと作ってくるけど……。」

「うむ、十分じゃ。ご馳走様なのじゃ。」

 ルアが彼女の食べ終わった食器を片付けていると、彼女はあることを問いかけてきた。

「そういえばロレットはどうしておるのじゃ?」

「まだお母さんのこと心配してたよ。今日もここに来る前すれ違ったけど、やっぱりお母さんのこと聞いてきたから。」

「そうか。」

「みんなお母さんが元気になるの待ってるから、今はとにかくゆっくり休んで元気になってよ。」

「うむ。そうじゃな。」

 由良が少しでも前向きになれるように、ルアは声をかけた。

「それじゃあ、ちょっとボク今日は出かけてこないといけないからそろそろ行くね?」

「む?どこへ行くのじゃ?」

「お母さんが早く良くなるようにお薬買ってこようと思って。」

 そう由良に言うと彼女は目頭を押さえて涙を流し始めた。

「えぇ!?お、お母さん?」

「なんと、何と良い子に育ったのじゃ……こんなに母の心配をしてくれるとは。もう死んでも良い。」

「ダメだよ!?と、とにかく安静にしててねっ!?行ってきます!!」

「うむ、気を付けての。」

 感動で涙を流す由良に少し焦りながらもルアは彼女の部屋を後にした。そして支度を整えるとあの言葉を口にした。

「メタモルフォーゼ。」

 ルアがそう口にすると、彼の体が光に包まれ狐のような尻尾と耳が生えてきた。今回ルアがメタモルフォーゼで変身したのは由良の種族と同じ妖狐。詳しく言えば、今の由良は天狐という種族に進化したためになるのだが、それを込みにしてもあえてルアは妖狐へと姿を変えていた。
 
「えっと、移動魔法展開っ!!」

 そうルアが口にするとルアの足元に魔法陣が現れ彼の体が光に包まれた。

 
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