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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第192話 ルアの容態は……

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 一人だけさっさとロレットの城へと帰って来た由良は、ルアがいつも寝ている寝室の扉をゆっくりと開けた。
 すると、ベッドの上には安らかに眠るルアと、悪夢にうなされているのか苦しそうな顔で眠っている東雲の姿があった。
 そろそろと足音をたてないように由良はベッドに近付くと、ルアの顔を覗きこんだ。

「ホッ……ルシファーは熱があるとか言っておったが、顔色は悪くなさそうじゃ。肝心の熱は……どれどれ。」

 由良は自身の金色の尻尾をルアの顔の上に乗せた。普通ならばおでこに手を当てたり、自分の額をくっつけたりするものだが、この行為にはしっかりとした理由がある。
 由良の尻尾は振動や熱、さらには空気中の静電気おも感じとるほど敏感な器官なのだ。故に尻尾をルアの顔に当てることで熱を精確に計ることができる………らしい(本人談)

「熱もないようじゃな。安心安心……。」

 熱がないことを確認した由良はルアの顔から尻尾を離そうとした。その時……。

「もふもふ……だめっ。」

「んのぉっ!?」

 自分の顔から離れていこうとした由良の尻尾を、おもむろにルアが両手で抱き締めたのだ。
 敏感な部分を鷲掴みにされ、思わず由良の背筋がピン!!と伸びる。

「お……ぉぉぉっ?る、ルア?し、尻尾はそんなに強く掴んでは……。」

「んっ!!」

 ルアの手から逃れようと、由良が尻尾を動かそうとすると逃がすまいとルアが更に強く尻尾を抱き締めた。

「んにぃっ!!こ、これは……抵抗するだけ危ういかもしれん。し、仕方ないルアが起きるまでこうしておくかの。」

 大人しくルアに尻尾を掴ませているという判断を下した由良だったが、次の瞬間ルアの体がフワリと宙に浮いた。すると、浮遊感で不安になったのか由良の尻尾にルアは足まで絡め始めた。

「おぉぉぉほっ!?い、いったい何が起こって……。」

 尻尾をルアの全身で揉みしだかれ、情けない声が漏れる由良。そんな時、ルアの下にルシファーが姿を現し、彼のことをそっと受け止めた。

「おや?由良さん……何をしていられるのです?」

「お、おぉ……ルシファーか。いやルアの熱を計っておったら、ルアが尻尾に抱きついてきてしまったのじゃ。」

「なるほど。」

 今の状況に納得したルシファーはルアの顔と由良の姿を交互に眺めると、由良に向かって微笑みながらあることを口にした。

「フフフ、ルア様とっても心地良さそうにしていらっしゃいますので、由良さんには申し訳ないのですが……しばらくそのままでいてくれませんか?」

「なんとな!?」

「由良さんはルア様の寝顔を見ながら、尻尾をマッサージされることができて、ルア様は気持ち良く眠ることができる。まさにこの世界の言葉にある……ではありませんか?」

「うむむむ……確かにその通りと言えばその通りなのじゃが。わしの負担がのぉ……尻尾は敏感なのじゃ。」

 少し渋る様子を見せた由良。そんな彼女の反応を見てルシファーがある行動に出た。

「そうですか……由良さんが乗り気でないのなら仕方ありませんね。」

 おもむろにルシファーは片手を上げると、その手の中に由良の尻尾を模したようなものが現れた。

「な、なんじゃそれは!!」

「これは由良さんの尻尾を模倣して作った玩具です。今私が作りました。これならば由良さんの尻尾の代わりになるかと……。」

「そ、そんな紛い物に負けられるはずがないのじゃ!!」 

 腹をくくった由良はベッドの横に腰を下ろすと大人しくルアに尻尾を預けた。

「よろしいのですか?」

「構わん!!紛い物にルアが抱きつくのならば、わしに抱きついてきてもらったほうが良いに決まっておる!!」

「フフフ、そうですか。ではルア様が起きるまでゆるりと二人で見守りましょうか。」

 そんなやり取りが行われていたなどと、ついぞ知らずルアは由良のもふもふの尻尾の感触と、ルシファーの柔らかく暖かい体に包まれて安らかな寝息を立てるのだった。
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