もんむすッ！めたもるふぉ～ぜ☆～世界に♂はボク一人！？～

第一章 転生そして成長

第97話 意外なコンプレックス

　クロロの頭の中から声が消えた瞬間、彼女はまるで鎖から解き放たれたかのような解放感と、それと同時に体の奥底から無限に湧き上がってくるような力を感じた。

　そして変化はそれだけにとどまらず彼女の体にまで変化が現れ始めた。

「うっ……あぁぁぁぁッ！！」

　彼女の体からビキビキと骨が軋むような音が聞こえ始めた。それは彼女の骨格が、新たな力に対応するために急速に変化を遂げている音だった。
　もちろん骨がとてつもない速度で変化をしているということは、体に痛みが走るのは必然のこと。クロロは今体の急速な変化に伴う激痛に必死に耐えていた。

　そんな彼女の姿を見て真琴はクスリと笑った。

「始まったねぇ……んふふ。」

「やはりお前に任せて正解だったようだな。」

「あんれ？その声は……。」

　真琴が声のした方を振り向くとそこには東雲の姿があった。

「東雲はん……。」

「あやつのような身体能力に特化しているやつは、覚醒が起こるとその力に合わせて体が変化する。その際に発生する痛みは出産の痛みにも近いと言われているが……どうやら本当にそのようだな。」

　苦しむクロロの姿を東雲は興味深そうに眺めながら言った。

　クロロの体の急速な変化が収まると、彼女はゆっくりと立ち上がり改めて自分の体を眺めた。そしてポツリと呟く。

「すごい……力が漲ってくる。」

「くくく、ひとまずは殻を破ったか。」

　クロロの姿を見て満足そうに東雲が笑うと、彼女のとなりにいた真琴の姿が消えた。
　そして次の瞬間にはクロロへと向かって殺気を込めた上段蹴りを放っていた。

「…………！！」

　しかし、クロロを本当に殺すつもりで放った真琴の蹴りは空を切ることとなった。そして音もなくクロロは真琴の後ろに現れた。

「へへへ……今度は見えました。」

　真琴の後ろでそう笑いながら口にしたクロロ。そんな彼女に見えないところで真琴はクスリと笑うと、クロロの前で真琴は一枚の木の葉へと変貌を遂げた。

「えぇっ！？」

「んふふふ、何を見とったんかは知らんけど～あてはず～っとここにおったよ？」

　クロロが後ろを振り返ると、東雲の隣にあたかも当然のように真琴が立っていた。

「くくくくく、まだまだ覚醒したてのお前では真琴には及ばん。」

「はぁぁぁ～……せっかく見切ったと思ったのに。」

　クロロはがっくりと肩を落とす。

「んふふふ、まだまだ精進あるのみ……やね。」

「がんばります～……。」

　城の中庭にて、そんなやり取りが行われていると彼女たちの傍らに魔法陣が現れた。

「くくくくく、どうやらあちらの方も無事終わったようだな。」

「えっ？あっちの方……って…………。」

　クロロが魔法陣の方に目を向けると、光の中からミリアともう一人……小さな女の子が姿を現した。

「ただいま～、無事終わったよ～ん。」

　ヒラヒラと手を振るミリアの横で、一緒に現れた小さな少女がクロロへと向かって一気に走り出した。

「クロロちゃ～ん！！」

「へぶぅっ！？」

　その少女はクロロの腹部に勢いよく突っ込んだ。その勢いでクロロは中庭の芝生に倒れこんでしまう。そして少女の顔を改めて見たとき、ハッとした表情を浮かべた。

「も、もしかしてエナちゃん！？」

「はい～っ私ですよ～。」

「な、なんでこんなにちっちゃくなって……。」

　クロロへと向かって突っ込んできた少女は、なんとエナだった。大柄だった身長は、今ではルアより少し大きいか位まで縮んでしまっていた。
　なにがなんだかさっぱりという表情を浮かべるクロロ。

「それも覚醒のせいだ。」

　倒れこんでいるクロロのもとに東雲が歩み寄って説明を始めた。

「本来大きな体を持つミノタウロスは魔力消費が普通の者と比べて桁違いに悪い。大柄な分使う魔力も多いからな。だから覚醒によって魔力消費の良い体に進化したということだ。」

「ふぇ～……でもこんなに身長はちっちゃくなったのに………………胸は私よりおっきいんだね。」

　クロロの視線はエナの体に不釣り合いなほど豊満な胸に注がれていた。
　以前はミノタウロスということもあって大きいのは当たり前……と割りきっていたようだが、自分よりも小さな体になってしまったエナに胸の大きさが負けていることが少しショックなようだ。

「あ、あれ？な、なんでクロロちゃんそんなに落ち込んでるんですか～？」

　落ち込むクロロを心配するエナ。しかし意外な人物がクロロを慰めるべく歩み寄った。

「そんなに落ち込むでない。妾とて胸の大きさには恵まれんかったからな。」

「し、東雲さん……。」

　ポンポンと東雲はクロロの頭を前足で叩いた。どうやら彼女も少々胸にコンプレックスを抱えているようで……真琴とミリア、そしてエナのことを見て深い溜め息を吐いていた。