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第9章 新たな生活
第319話 トウカピンチ??
しおりを挟む手にしたアーティファクトでスライム状の魔物の体を切り裂くと、取り込まれかけていたトウカを抱きかかえ救出する。
「ぅぅぅ……。」
粘液でベトベトの彼女を後ろに匿い、収納袋からバスタオルを取り出し彼女へと手渡した。
「今はとりあえずそれで体を。服はこいつを倒したあとで。」
そして俺は再生している魔物へと再び立ち向かう。
「あ、ありが……と。」
ボソリと小声でトウカが何かを呟いたような気はしたが、既に魔物へと最接近していた俺はその言葉を聞き逃してしまう。
「ふっ!!」
魔力を込めたアーティファクトを横薙ぎに振るい、周りの枯れ木をも巻き込んで魔物の体を真っ二つにする。
しかし、いくら大きく切ってもすぐに再生してしまう。ダメージを与えられているとは思いにくい。
「面倒なタイプだな。」
再生した魔物は、こちらに身体の一部を飛ばしてくる。その攻撃をアーティファクトで切り裂くと、俺の横の地面に着弾した魔物の体は地面をもジュウジュウと音を立てて溶かしている。
「体は酸か。」
トウカの服が溶かされていたから、その可能性は考えていたが、これだけ強い酸だとは予想外。
こちらへと飛んでくる酸の肉体片を右に左に躱しつつ、再び最接近すると、今度は一閃ではなく、魔物の体をかなり細かくコマ切れにしてみた。
それでも尚、この魔物は一瞬にして体を再生してみせた。
「これもだめか。ならっ……。」
近くにいる俺を自慢の酸の本体で包み込もうと体を広げて覆いかぶさってくるその魔物へと、俺は左手を翳した。
「凍れよ。」
翳した瞬間に発せられた冷気に当てられたその魔物は一瞬にして体の芯まで凍りつく。
その氷像のある部分に俺はアーティファクトを突き刺した。
すると、途端に氷像が崩れ、魔物はバラバラになり、刺さっていた俺の剣先には小さな赤い球体が突き刺さっていた。
バラバラになったその魔物にその赤い球体を近づけると、氷の塊がカタカタとうごめき、赤い球体へと吸い寄せられるように近づいてきている。
「ふんっ。」
赤い球体をそのまま両断してやると、もうバラバラになった魔物の体は動かなくなった。
「やっぱりあの赤いのが核だったのか。」
ポツリとそう呟き、アーティファクトを腰に括り付けたナイフを納める鞘へとしまうと、ナナシがクツクツと笑いながら話しかけてくる。
『お見事だ主。ようやく魔法を使うようになってきたな。』
(流石にあれだけ物理攻撃が効かないって分からせられたらな。魔法に手を出すさ。)
あの魔物の再生のからくりはあの核だったのだが、それだけならばあの核を真っ二つにしてやれば済む話しだ。だが、簡単には核を壊されないように、ヤツは体内であの小さな核を高速で動かしていたのだ。
故にコマ切れにしても俺の攻撃を核が避け、生き延びていた。
(さて、トウカは大丈夫かな。俺の服で着れるやつがあればいいんだが……。)
くるりと後ろを振り返り、トウカヘと歩み寄ると声をかけた。
「大丈夫か?」
「あ……う、うん大丈夫。服はもう着れないみたいだけど、体は溶かされてない。」
「それならよかった。ちなみに着替えとかは?」
そう問いかけると彼女は首を横にふるふると振った。
「それならこの中からどれか着られるのを着た方がいい。あくまでも先に進むなら……だけど。今すぐエルフの集落に帰ってもいいぞ?」
「だ、大丈夫だ!!ちょっと借りる……。」
半ば強引に俺から服を受け取った彼女。流石に着替えを間近で眺めるわけにもいかず、彼女が服を着替えている間周囲の警戒に当たることにした。
その最中、俺はあることを疑問に思っていた。
(……にしても神獣狩りって二つ名があるのに、あの魔物になんで負けたんだ?トウカは間違いなく強かった……あの程度の魔物に負けるとは思えない。)
その疑問にはナナシが解答をくれた。
『恐らくは魔力を持たない魔物への対処がわからんのだ。』
(魔力を持たない魔物?それがさっきのやつってことか?)
『うむ。先の魔物からは魔力の欠片も感じられんかった。殺生木はあくまでも魔力を持つ者にしか効果を発揮しない。つい先程手を合わせたが……あのトウカという者はダークエルフの割に魔力も身体能力も我の知っているダークエルフには劣っている。体術には目を見張るものもあった故、単なる修行不足にはみえんが……。』
(……まぁ、深いことを考えるのはやめたほうが良さそうだな。)
そう割り切ると同時に後ろから声をかけられた。
「ま、待たせた。」
「ん。」
後ろを振り返ると、先程の少々野性的な服を身に纏っていたときとは雰囲気が打って変わり、可憐な雰囲気を放つトウカが立っていた。
「大きさは問題ないか?」
「少し胸がキツいが……問題ない。」
『……この小娘、間接的に我の胸が小さいと言いたいのか?ん?』
(まぁまぁまぁ、そういうわけじゃないだろ。)
なにやら女性として張り合う部分に火がついたナナシを抑えながら、トウカとともに再びカニバルのもとを目指すのだった。
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