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第2章 獄鳥ノーザンイーグル

第067話 地獄の空の便

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 ノーザンイーグルも倒し、氷魔人も無事捕獲した俺達は急いで下山していたのだが、俺は前を走るラピスになかなか追い付けずにいた。

 というのも、彼女は背中に翼を生やし、雪の上をピョンピョンと跳び跳ねながら進んでいるからだ。
 一方の俺は、一歩進むごとに足が雪に埋もれる。追い付けるはずがないのだ。

 そうわかっていても、必死になって走っていると、ふと前にいたラピスが足を止めた。

「のぉ、カオルよ。」

「はぁ……な、なんだ?どうした?」

「帰りもあの馬車で帰るのか?」

「そうするしかないだろ?帰る手段がそれしかないんだから。」

「…………ならば決めたぞ。」

「は?」

 おもむろにラピスは防寒着を脱いで此方に渡してくると徐々にもとのドラゴンの姿へと姿を変えていった。

 そこで俺はようやく彼女の思惑を察した。

「まさか、飛んで帰るつもりか?」

「むっふっふ、その通りだ。あんなに時間を食う乗り物なんぞに乗っていられるか!!我は早くあの鳥の肉が喰いたいのだ!!」

 完全にもとの姿に戻ったラピスは俺の服の襟に軽く噛みつくと、俺のことを空中に放り投げた。

「おわっ!?」

 そして落下した先にはラピスのゴツゴツとした背中が。

「振り落とされぬよう、死ぬ気で掴まっておるのだぞ。」

「わかったよ。」

 俺はラピスの首に抱き付くように掴まった。すると、ラピスは大きな翼を羽ばたかせ、雪を巻き上げながら勢いよく空へと飛び上がった。

「おぉぉぁぁぁぁっ!?」

 もちろんのことながら、俺の体にはとんでもない風圧と冷気がのし掛かる。

「むはははははっ!!本番はここからだぞカオルよ。全力で飛ぶぞ~っ!!」

「少しは俺のことも考えてくれーーーーーっ!!」

 そんな俺の叫びも虚しく、ラピスは再び空中で大きく翼を羽ばたかせると、急加速しまるでジェット機のような速度で飛行を始めた。
 顔を上げれば風圧で首から上が持っていかれそうなほどのスピード……。そして全身が凍りつくように寒い。もはや防寒着が防寒着として機能していない。

 果たして俺はアルマ様のもとに辿り着くまでに生きていられるだろうか……。

 そんなことを思いながら、俺は振り落とされないように必死にラピスにしがみつくのだった。









 ラピスの背中にしがみついてからどれぐらいの時間が過ぎただろうか。ふと、陽射しの暖かさを感じた時、少しスピードを緩めてラピスが声を上げた。

「お~いカオルよ、もうすぐ着くぞ~。」

「や、やっと……着くのか。」

「む!?やっととはなんだ!?我のスピードに文句でもあるのか?」

「逆に文句しかないぞ。風圧で首はもげるかと思ったし、寒すぎて防寒着が凍ったよ!!」

 俺が纏っている防寒着は許容範囲を越えた寒さに当てられ、カチカチに凍ってしまっていた。

「それはすまんかったの~、だがおぬしが生きておれば問題なかろう?その服は立派に役目を果たしたではないか。」

「はぁ……次俺を乗せて飛ぶときはこのぐらいのスピードで飛んでくれ。このぐらいが一番ちょうど良い。」

 拷問のような時間から解放されぐったりとしていると、ラピスはゆっくりと地上へと向かって降り始めた。
 そして城下町近くの街道から少し離れたところに着陸する。

「と~ちゃ~く、ほれカオルよ降りるのだ。」

「あぁ。」

 ラピスの背中から降りて地面に足をつけると、心の底からホッとした気分になる。やはり人間ってのは地面に足をつけている時が一番安心するようだ。

 カチカチに凍ってしまっていた防寒着を脱いで普通の服に着替えていると、ラピスがドラゴンから人間の姿へと姿を変えていた。

「んーーーーーっ!!やはり空を思い切り飛ぶのは気持ちが良いものだ。近頃ずっとこの姿のままだったからな。窮屈で仕方がなかった。」

「リラックスできたんなら良かったよ。何はともあれ、俺もこうして無事だったし。さ、こっからは歩いて帰るぞ。」

 そして城下町へと帰って来た俺達は、まず最初にギルドへと足を運ぶことにした。流石に氷魔人を先に預けておきたい。多分まだ気絶してるだろうし、暴れないうちにな。

 ギルドの扉を開けて中に入ると、まだ夕暮れ前だと言うのにリルがカーラと酒盛りを始めていた。

「んぁ?あれ?キミ達……昨日リオーネスに向かったんじゃなかったっけ?帰りの馬車は今日の夜じゃなかった?」

「まぁ、ちょっと色々あって……早く帰ってこれました。」

 チラリとラピスの方に視線を向けると、リルは大方事情は察してくれたようだ。

「まっ、その辺は深く聞かないでおくよ。それよりも氷魔人はどうだったい?」

「ちゃんと捕まえてきましたよ。」

 俺は収納袋を逆さまにすると、そこからカーラが作った拘束具でガッチリと拘束された氷魔人が姿を現した。

「おっ、しっかりアタシの作ったヤツが機能してるみたいだねぇ。」

「はい、バッチリでした。」

 そう話す俺の横でラピスが得意気に胸を張って言った。

「まぁ我には効かなかったがな!!」

「今度のは改良版さ、どうだい?もう一本作ったら食らってみるかい?」

「むっふっふ、上等なのだ。。」

「こんの……の癖にやっぱり口だけはデカいじゃないかい?」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて……。」

 今にもヒートアップしそうになっている二人を抑えていると、横でリルが深刻な表情で氷魔人のことを見つめていることに気がついた。

「リルさん、どうかしましたか?」

「……これ、魔物じゃないね。」

「えっ?」

 すると、リルは受付の奥から一冊のファイルを持ってきてテーブルの上で開いた。

「ギルドに流れてきてた情報と同じだから、氷魔人……で間違いないけど。でもこの情報一つ間違ってるかもしれない。」

「それはいったい?」

「こいつは魔物じゃない……多分もとはだよ。」

 リルの言葉に一同がどよめく最中、拘束されていた氷魔人の瞳がゆっくりと開く。

 
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