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第2章 獄鳥ノーザンイーグル
第066話 氷魔人vsラピス
しおりを挟む俺たちに視線を向けてきたそれは、何とも奇妙で猟奇的な姿をしていた。
返り血で真っ赤に染まった半透明の鎧に、獣のような獰猛で鋭い牙の生えた口元が剝き出しになった兜……。そして片手に持っているのは槍のような長い得物だった。
一見見れば中世の騎士のような格好だが、それとは遠くかけ離れた不気味なものを感じる。
「人型の……魔物なのか?」
「明らかに人間が放つ気配ではない。獣のそれと同じだ。魔物と断定して間違いないだろうな。」
「となれば、こいつが氷魔人ってことで間違いなさそうだな。」
「うむ。」
俺は収納袋からカーラ特製の魔物用拘束具を取り出した。
「カオルよ、おぬしは少しそこで休んでおれ。こいつは我が相手をしよう。」
「良いのか?」
「任せよ。ちょうど体を動かしたかったところだ。」
「じゃあ俺は隙を見てこいつを使う。わかってるとは思うが、くれぐれも倒してしまわないようにな?」
「わかっておる、死なぬ程度に遊んでやるのだ。」
そしてラピスは瑠璃色の鱗を纏わせた両手をガンガンとぶつけ合わせながら前に出た。
「先程の濃い血の匂い……原因は貴様だな?」
「…………………………。」
「言葉は話せぬか、まぁ所詮は魔物、会話を期待する方が間違っているな。」
やれやれと首を横に降ると、彼女は片手を前に出してちょいちょいと氷魔人のことを挑発する。
「ほれ、とっととかかってこい。遊んでやる。」
「…………………。」
アッサリと彼女の挑発に乗った氷魔人は手にしている槍を巧みに扱い、ラピスに襲いかかっていく。
「穂先は見えんが……手の動きを見ればかわすのは容易い。」
高速で振るわれる槍をいとも簡単にかわすラピス。そして易々と槍の間合いを抜け、氷魔人に近寄った彼女は拳をぐっと握った。
「さて、何発耐えられるかの?」
「…………!!」
「まずは一発……ほれっ!!」
氷魔人の鎧にラピスの拳がめり込む。すると、ビキビキと音を立てて鎧にヒビが入った。
「硬い鎧を纏っておるかと思えば、そんなに硬くはないようだの。」
「…………………。」
殴られた場所に氷魔人は手を当てると、ひび割れていた鎧がシュゥゥゥ……と音を立ててあっという間にもとに戻る。
「ほぅ?耐久力はないが、修復可能ということか。」
冷静にラピスが分析していると、氷魔人は足元の雪を槍で巻き上げ、吹雪の中に姿を眩ました。
「ほぅ……なかなか小癪な手を使うではないか。」
吹雪に囲まれるラピスは感心したようにそうポツリと呟くと、ニヤリと笑う。
「だが……相手が悪かったようだ。」
ラピスは手のひらに魔力の球を作り出すと、それを握りつぶした。
すると、ピタリと辺りの風が止み吹雪が収まった。そして吹雪に紛れていた氷魔人が姿を現す。
「貴様はそうやって吹雪の中に身を隠しての襲撃が得意なようだが……生憎我は風を操ることには長けていてな。風を失くすことなんぞ児戯も同然。」
圧倒的な力の差を見せつけるように戦いを運ぶラピス。そして、立ち尽くす氷魔人に向かって人指し指を向けた。
「バン!!」
「…………っ!!」
まるで銃でも撃つかのような仕草と同時に、氷魔人の鎧の胸部分に大きなへこみができ、大きく吹き飛んだ。
「むっふっふ、風を操る術を身につければ……こんなこともできるのだ。」
吹き飛び、壁に叩き付けられた氷魔人のもとに歩み寄ると、今度は額に向けてラピスは人指し指を向けた。
「さて、少し眠ってもらおうか。」
そして再びラピスが同じ仕草を繰り返すと、今度は氷魔人の兜の部分にへこみができ、壁に背を預けたまま氷魔人は動かなくなった。
「一丁あがりな~のだっ。」
上機嫌にそう口にした彼女に俺は問いかける。
「ラピス、これ……死んでないだろうな?」
「安心せい、しっかりと手加減したわ。まぁ今は脳が揺れたせいで意識は無いだろうがな。」
「なら良いんだが……。」
俺は魔物用拘束具をやつにむけると、ポツリとあの言葉を呟いた。
「拘束。」
すると、あっという間に氷魔人はぐるぐる巻きに拘束され、身動きが取れないようになってしまった。
「これでよしと。ノーザンイーグルも倒したし、氷魔人も捕獲した。後は帰るだけだ。」
「帰れば無論、先の鳥の飯を作るのだろう?」
ラピスは目をキラキラと輝かせながら、期待の視線を送ってくる。
「あぁ、もちろんだ。」
「では早く帰るのだ!!我はもう待ちきれん!!行くぞカオル!!」
「はいはいっと……。」
気絶した氷魔人を収納袋のなかに押し入れ、走って下山を始めている彼女の後に続くのだった。
カオルとラピスが居なくなった後……ノーザンマウントの山頂に一人の男が姿を現した。
「……1号では相手にならなかったか。まさかあの人間が古の龍と行動を共にしているとは……五老龍もずいぶん格が落ちたみたいだな。」
そう男が呟いたとき、男の頭上に影が落ちる。
「あんなのを五老龍とは思わないでほしいものね。人間に懐柔されたアイツはもう五老龍を名乗る資格もないわ。」
「くくく……ではお前は違うということか?」
「当たり前でしょ。私はアンタ達に従ってる訳じゃない。あくまでも目的が同じだから協力してるだけ。変な勘違いしてると、灰にするわよ。」
「それは恐ろしい。」
くつくつと笑いながら、男はノーザンイーグルの巣に向かうと、そこに大切に保管されていた大きな卵を手に取った。
「これで我々の目的は達成……。邪魔者を消すことは叶わなかったが、まぁ良いだろう。」
そして男はその場から姿を消した。
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