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第1.5章 レベリング
第026話 釣り対決の行方は如何に
しおりを挟むスケイルフィッシュを釣り始めてから約一時間ほどが経過した。俺の背後には釣り上げられたスケイルフィッシュが山積みになっている。
一方、ラピスの方には先ほど釣り上げたあの一匹しかいない。そんな状況にラピスは紛糾した。
「なぜ我のエサには食いつかんのだ!!カオル、おぬしインチキしておるのではないか!?」
「そんなわけないだろ?釣りってのは運もあるんだ。釣れるときは釣れるし、釣れないときはとことん釣れない。」
「ではカオルに運が向いておるというのか?」
「まぁ、今日はそういうことらしいな。」
「ぐぬぬぬぬ……。」
すると、ラピスはおもむろに何も釣れていない釣竿を引き上げると、突然元のドラゴンの姿へと戻った。
「お、おい何するつもりだ?」
「我が直々に手を下してやるのだ!!」
そしてラピスは湖に飛び込むと、じっと水面を見つめながら前足を振るった。
「ふん!!」
すると大きな水しぶきとともに、岸へとスケイルフィッシュが打ち上げられる。
「むははははっ!!見ておれカオル、すぐに追い越してやるぞ!!ふんっ……ふんっ!!」
泳いでいるスケイルフィッシュをポンポンと陸地に打ち上げていくラピスのその姿は、やはり川で鮭をとる熊そのものだった。
なんだかんだあの姿を見ることができたな。大方想像通りだったが。それでも面白いものは面白い。
そんなラピスの姿を眺めていると、竿にまたアタリが来た。
「お、来た来た。」
水面を叩き、スケイルフィッシュを地面に打ち上げてとんでもない勢いで猛追してくるラピスだが、俺も彼女に負けず劣らずの負けず嫌いだ。今はこの運を頼りにひたすら釣っていくとしよう。
まさかラピスみたいにあぁやって魚をとることはできないからな。
そうしてひたすらにスケイルフィッシュを釣り上げていると、不意にピタリとアタリが来なくなった。それはラピスも同じで、彼女の周りにスケイルフィッシュが泳いでくることもなくなっていた。
ということは……この湖にいるスケイルフィッシュはほとんどとりつくしたかな。
チラリと後ろを見ると、俺とラピスが獲ったスケイルフィッシュが二つの巨大な山を作っていた。時間もそろそろいい感じだし。この辺で終わりにしよう。
「ラピス、そろそろ終わりにしよう。」
「む、そうだな。もう獲れなくなってきたからな。」
ぴょんとラピスは飛び上がると、空中で人の姿へと戻りながら俺のとなりに降り立った。
「むっふっふ、我の追い上げを見よ!!カオル、きっとおぬしを追い越しておるぞ?」
「さぁどうかな?数えてみよう。」
俺は自分のお金で買った収納の魔法が込められた袋を取り出した。その中にまずは自分で釣ったスケイルフィッシュを数えながら放り込んでいく。
「48……49……ジャスト50匹か。」
俺が釣り上げたスケイルフィッシュの総計は50匹ちょうどだった。案外入れ食いだったからかなりの量だな。
「じゃあラピスのも数えるぞ?」
「うむ!!念のため言っておくが、サバを読むでないぞ?我はここで見ておるからな。」
「そんな下らないことするわけないだろ?」
まったく俺はラピスのなかでどんなイメージを持たれているんだか……。
少しあきれながらも、ラピスの目の前で数え間違いのないようにポイポイと袋の中に放り込んでいく。
「46……47だな。」
「なんとな!?そんなはずないのだ!!」
間近で見ていたはずなのにいちゃもんをつけてくるラピス。
「おいおい、目の前で見てただろ?」
「そうだが……。」
「不満なのなら逆に聞くが、ラピスが思い切り数えた限りな何匹だったんだよ。」
「…………47だ。」
「じゃ、今日のところは俺の勝ちだな。」
袋を腰にくくりつけると、俺は釣竿を携えて立ち上がった。
「ほら、帰るぞ~。」
「ぐぐ………ぐぐぐぐっ……ふんっ!!つ、次は負けんのだ!!」
「楽しみにしとくよ。」
負けて悔しがるラピスと共に俺はギルドへと夜道を歩き出すのだった。
街へと帰ってくる頃にはすっかり夜も更けてしまい、街灯の灯りがなければ歩くことも難しくなったしまっていた。
街の景色は昼間とは違い、すっかり暗くなっているが、そんな暗いなかでもギルドだけは明るく光を灯していた。
灯りに吸い込まれるようにギルドの中へと入ると、受け付けには依頼を紹介してくれた女性ではなく、リルの姿があった。
「あ、キミ達お帰り~。意外と早かったね~。」
「もう酔いは覚めたんですか?」
「あぁバッチリさ。それよりも話しは聞いてるよ、スケイルフィッシュを駆除しに行ってくれたんだよね?」
どうやらしっかりと引き継ぎは行われているらしい。
「いや~、あいつらが湖で異常繁殖してるせいでね色々困ってたんだよ。……っと、それじゃあどのぐらい駆除してきたか見せてくれる?引きずってきてないことを見るに、収納袋とかにいれてきた?」
「えっと……ここで出してもいいんですか?」
「うんいいよ~、どうせ10匹ぐらいでしょ?」
「……あの、100匹近くいるんですけどホントに大丈夫ですか?」
そう高をくくっていたリルにそう告げると、彼女の表情が凍りついた。そして何秒かの沈黙のあと、リルの口から思わず溢れた。
「……………………はぇっ?」
「えっと、だから100匹近くいるんです。」
「ひゃ、100?0一個つけ間違えてない?」
「ならここで出してみましょうか?」
なかなか信じてくれないリルに証拠を見せるため、俺は腰に提げていた袋を逆さまにした。すると、まるで滝のようにスケイルフィッシュが放出され、あっという間に天井につくほどに山を作った。
「えぇ…………ホントに100匹ぐらいいるじゃん。どうやってこんな短時間でこんなに……。まさかと思うけど、湖を破壊したりしてないよね?」
「そんなことしてませんよ。たまたま食いつきが良かっただけです。それと、ラピスが頑張ってくれたので。」
「むっふっふ、我にかかればこの程度どうってことないのだ!!」
大きく胸をはるラピスとは対照的に、スケイルフィッシュの山を呆然と眺めるリル。少しの間フリーズしていた彼女はポツリと言った。
「これどうしよっかな……。」
「どうしようかなとは?」
「いやね、キミ達に報酬を払うのは問題ないんだけど、この数のスケイルフィッシュをどう処理しよっかな~って考えてたんだよね。」
そこで俺はふと疑問に思った。
「そういえば、このスケイルフィッシュはこの後どうなるんです?」
「ん?ほとんどの場合はポイだね。」
そう問いかけると、リルはゴミを投げ捨てるような仕草をして見せた。
「え……捨てるんですか!?」
「うん、まぁ……だって使い道ないし?レッドキャップとかは骨が薬になったりするけど、スケイルフィッシュは何にも使えないんだよね。」
「確かに硬くて美味くはなかったな。」
それは流石に勿体ない。こんなところで俺の料理人の心が大きく脈打った。
「……少し酒場の厨房を借りてもいいですか?」
「え?別にいいけど……まさかこれを料理するつもりじゃないよね!?硬くて食べられないよ!?」
「それは鱗だけですよね?流石に使い道を見出だせずに捨てるのは勿体ないので、食べられないかどうか試してみます。」
俺は再びスケイルフィッシュを袋の中にしまうと、リルに案内してもらって酒場の厨房へと向かった。
さぁ、腕の見せ所だ。
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