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第1.5章 レベリング

第025話 湖の厄介者

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 街灯に照らされた夜道を歩き、湖へとむかっていると何やら訝しげに釣竿を眺めながらラピスが話しかけてきた。

「おいカオルよ。その巨大な棒はなんだ?」

「これか?これは釣竿っていって、魚をとる道具だな。」

「ふむ、人間は変なものを作るのだな。魚なんぞ水に手を突っ込んで獲れば良いだろう?」

 お前は熊かっ!!……と突っ込みを入れたいところだが、ドラゴンというのは俗世とはかけ離れた生物であるらしいからな。それは野暮というものだ。
 それにしても、そんな風に言っているということは、もしかしてラピスは実際にそんな風に魚を獲ったことがあるのだろうか?

 ふと頭の中に、まるで鮭をとる熊のように川に手を突っ込んで魚を獲っているラピスの姿が思い浮かぶ。

 想像してみるとなかなかシュールなものだ。だが、容易に想像が出来てしまう光景だ。

「じゃあラピスは使わないのか?」

「いや、人の道具を使ってみるのも面白かろう。我もそれを使ってみよう。」

「そうか。」

 せっかくなら川に手を突っ込んで魚を獲っている姿を見てみたかったが……残念だ。

 そんなことを話しながら街道を歩いていると、目的の湖が見えてきた。

「あそこだな。」

「なんだ、意外と街から近いところにあるのだな。」

「俺もここには初めて来たが、この街の観光名所らしいぞ?」

「ほぅ。」

 それにしても観光名所にまで魔物が蔓延っているのかこの世界は……。観光地だからといってゆったりもできないらしい。

 湖の畔にたどり着くと、街灯に照らされて水面が揺れて幻想的な景色を生み出していた。本当ならこの景色を楽しみたいところだが、今日は別の目的だ。

 釣竿の針に切り身になった豚のレバーを刺して湖へと放り込む。そうしてスケイルフィッシュとやらが食いつくまで座って待つことにした。するとまたしてもラピスがそわそわした様子で話しかけてくる。

「カオル、これでどうするのだ?」

「後は待つんだよ。針につけた餌に食いつくまでな。」

「待つだけかの!?なんと非効率なのだ……。」

 それから待つこと数分……ゆったりと待っていたものの、一向にアタリが来る気配がない。そんな時、遂にラピスの我慢に限界が訪れた。

「ん~っ、やめだやめだっ!!こんな非効率なもの無駄だっ!!」

「お、おいラピス!!」

 ラピスは人の姿からもとのドラゴンの姿に戻ると、湖へと入ろうとした。しかし、その時……。

「お?おっ!?」

 突如として大きな竿が、の字に曲がり湖へと引きずり込まれようとしたのだ。反射的に竿を掴むと、糸の先で何かが暴れているのが伝わってきた。

「おっし!!かかったぞ!!」

「おぉぉっ!!ようやくか。」

 俺が格闘していると、目を輝かせたラピスがドラゴンの姿のまま近寄ってきた。

「んぎぎっ……おっもっ!!」

 全力で力を込めるが、針の先にいるヤツは深いところに逃げようと必死だ。少しずつしか引っ張ることしかできない。

「ほれ!!カオルよ、おぬしの馬鹿力はどこへいったのだ?早う釣り上げるのだ!!」

「ぐぐぐっ、簡単に……言うなよ!?とんでもなく重いんだぞ!?」

 しかし、スタミナ的にはこちらが上回っているらしく、徐々に徐々に湖の中にいる魚影は陸へと近づいてきていた。

「あ、あと……少しっ!!おぉぉぉぉっ!!」

 渾身の力を込めると、遂に水面からボン!!と巨大な魚が姿を現した。釣り上げられたそれが俺のもとに降ってくる。
 すると、隣にいたはずのラピスが大きな口を開けてその魚に向かって飛びかかっていった。

「いただきなのだ~っ!!」

「あっ!?おいラピス!!」 

 ラピスは勢いよくその魚に食い付くと、ボリボリと骨を砕くような音を立てて食べ始めてしまったのだ。

「ん~……ん~?」

 そしてゴクン……と喉を鳴らして飲み込むと、綺麗に針だけを吐き出して首をかしげる。

「おいカオルよ。この魚は硬くて美味しくないぞ?鱗が口に残ってかなわん。」

「食べてどうするんだよ!!馬鹿っ!!」

「あいだぁっ!?」

 せっかく釣り上げたスケイルフィッシュらしき魚を食べてしまったラピスの頭に拳骨を落とす。

「うぐぐぐ……痛いぞ。だって気になるではないか!!美味いものなのか美味くないのかっ!!」

「それはわかるけど、今回は討伐だって言っただろ!?討伐した証拠ごと食べてどうするんだよ!!」

「うぅ……では我が獲ってくれば良いのだろう!?」

 そしてラピスが涙目になって湖へと向かおうとしたその時だった……。

 もう一本の竿にアタリがきて、再び大きくしなったのだ。

「お、おおっ!!我の方にも来たではないか!!」

 ラピスはすぐに人の姿へと戻ると、湖へと引きずり込まれそうになっている竿を両手でしっかりと握った。

「ぎぎっぎっ……ただの魚風情が、我に力で敵うと思うでないわぁっ!!」

 どこから沸いた意地なのだろうか、ラピスが思い切り竿を引っ張ると再び巨大な魚が釣れ上がったのだ。

「むははははっ!!見よカオルっ!!我の方が早く釣り上げてやったぞ!!」

「あ、ラピス…………。」

「ん!?」

 高笑いするラピスだったが、釣り上げられたその魚は一直線にラピスに向かって飛びかかっていき、彼女の頭にがぶりと噛みついた。

「いだだだだだだだだだだっ!?な、なんなのだぁ~っ!!」

「あ~……やっぱり。」

 頭に噛みつかれたラピスは慌てふためいてその辺を走り回っている。その姿はどこか面白い。

「ぬぐぐぐぐぅ……貴様っ、まさか先に食われた仲間の仇討ちか!?我を喰らおうなどと千年はやいの……だぁっ!!」

 引っ張ってもとれないことに腹をたてたラピスは、まるでブリッジをするかのように背を仰け反らせると、勢いそのまま頭に噛みついていた魚を地面に叩きつける。

 すると、ゴキン……という生々しい音とともに気絶した魚がようやくラピスの頭から離れた。

「まったくひどい目にあったのだ。よもや魚に食われかけるとは……。」

「エサとしてみられてたんじゃないのか?」

「我を馬鹿にするでないっ!!」

 プンスカと怒るラピスを置いて、俺は気絶している様子の魚に近付き、ギルドで見たスケイルフィッシュと脳内で照らし合わせる。

「うん、コイツがスケイルフィッシュで間違いないな。」

 このとんでもなく硬い鱗、肉食魚特有の鋭く尖った牙……特徴は一致してる。

 にしてもこんなに鋭い牙で噛みつかれて、ラピスは傷一つ負ってないとは……やはりドラゴンの防御力は凄まじいらしい。
 そんなことを思っていると、ラピスはドヤ顔でこちらを見つめてきた。

「むっふっふ、どうだカオルよ!!我が獲ったのだ、褒めてもよいのだぞ?」

「俺よりもたくさん釣ったら褒めてやるよ。ほら、時間はないんだからどんどん釣るぞ。」

「むっ!?ではどちらが多く釣れるか勝負だな?負けぬぞっ!!」

 そうして唐突にラピスとの釣り勝負が幕を開けるのだった。
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