TS病

松本豊弘

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赤ちゃん

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 すると、素子の顔が一層赤く染まる。ピアノ教室では優しくて頼りになる先生も、家に帰ればおむつだけを身に着けて、大人の言葉は一切使わない。もちろん秘所の毛も必要ない。

「おっきいんだね~」

 佐知は手元で大人用の紙おむつを開く。子供用のおむつは小さくてかわいいが、大人用ともなると大きさの方に目が行く。一度おむつを置いてあるカラーボックスの方へ行って、パッケージの説明を見ながらおむつの当て方を確認した。慣れない手つきでパッドを重ねておむつのセッティングをする。初めての佐知のために、素子は自分でお尻をくっと上げてサポートした。

「もとちゃんね、じゃあおむつするよ。さっきみたいにおもらししたらこまるもんね」

 1時間ほど前の痴態を思い出してまた素子は顔を赤らめる。何か言い返そうとしたが、心まで幼児に退行した素子には、まともな言葉が出てこなかった。

「いあうもん!」

 違うもん!と言ったつもりだったが、舌足らずの幼児のような言葉になる。

「もとちゃん、いいんだよ。あかちゃんはおむつよごすのもしごとなんだよ~」

 ふたたび佐知が素子の頭をなでると、ふっと眠気が来るのを感じた。佐知はすっと立ち上がると、部屋のピアノの前に立ち、アナログのメトロノームにそっと触れた。カチッカチッと小気味良い音を立てて時間を刻みだした。佐知は素子のところへ戻り、メトロノームの音に合わせて、おなかをトントンと軽く叩き出した。何十年も聞きなれたメトロノームの音は、素子にとってのお母さんの心臓の音のようだった。

「もとちゃん… もとちゃん…」

 佐知が歌うように素子の名前を呼んだが、素子の意識はすでに深い眠りの中に陥っていた。




 翌朝目を覚ますと、すでに佐知は起きていた。

「朝になっても、先輩じゃなくてもとちゃんでいいよね?」

「うん!」

 素子は昨日とは打って変わって、素直な表情で頷く。

「もとちゃん、ちーでたかなぁ?」

 昨日なら赤面して俯いていただろう。

「もとちゃんね、ちーでたの!」

 素子はニコニコと笑って昨日当ててもらったおむつを指さす。

「もとちゃん、ちーいえたね!えらいね~」

 佐知は何度も素子をぎゅっと抱きしめて、長い髪を梳かすようにして頭を撫でた。

「きょうからずーっと、わたしがもとちゃんのねえねでいい?」

 6年生のあの日、お母さんは「今日だけね」と言った。その言葉の通り、あれからおむつを履かせてもらうことも、トントンしてもらうことも一度もなかった。佐知は、「きょうからずーっと…」たしかにそう言った。


「うん!これからずーっと!」

 りを吸う素子の横に座った。ベッドの横にはカラーボックスが並んでおり、そこに置かれた紙おむつのパッケージからテープタイプのおむつを一枚引き抜いた。同時にその横のパッドをとっておいた。

 脱衣所で見繕ったハーフパンツとパンツは佐知の手でさっさと脱がされてしまった。

「もとちゃん、ここもきちんとあかちゃんなんだね!えらいね~」

 
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