15 / 15
ドミノ倒し王配候補とオヤツ大好き女王
しおりを挟む
不採用の知らせにがっくりと肩を落としていたイーディス・スペンサーのところに採用通知が来たのは一ヶ月後のことだった。
「……何があったのかしら……」
確かに試験はきちんとできていた実感があった。だから、やはり女だから採用されなかったのだな、と哀しく思っていたのだ。
「蓋を開けたら4人も女性が採用されていたなんて、やはり女王様のおかげかしら……」
歴史典礼部長は新しく任命されたばかりの男性で、これまでは歴史課のみの担当だったのだという。
「イーディス君、頼りにしているよ」
ニコリともしない人だったが、誠実そうな人だった。
図書室にも一人、女性が配属された。王立学院ではいつもボランティアで図書室の手伝いをしていた子だ。見知った顔がいるだけで、新しい仕事を始める不安もずいぶん減った。
驚いたことに、資材部と魔道具課にもインターンで女性が一時的に入るのだという。
今までは女性文官が一人もいなかったことを考えると、大きな変化だった。
「すごいなあ……信じられない……」
イーディスは採用通知を大切に額に入れてしまうことにした。
「王国最初の女性文官採用通知……歴史的資料としていつか大切になるはず!」
マリラは困惑していた。
オヤツ係のレジナルドが毎週ニコニコ美味しいおやつを持って来るのだ。
しかも、来るたびに何かしら報告が上がってくる。
「イーディスだけでなく、合格レベルにあった女性文官候補を全員採用させただと……?どうやったんだ?」
「全員じゃあないですよ。インターンにねじ込むまでしかできなかった人材もいますし……」
まあ、性格的にインターンで入ったらまず廃除されることはないと思いますけどね。
レジナルドはそう言いながら、コーヒーゼリーのスプーンをマリラの口元に運ぶ。
「……自分で食べられるから、いい」
「いやいや、そんな事言わないで。陛下忙しいじゃないですか。今も書類持ってますし」
書類に目を通さなくてはならないから、とやんわりと断ったら、「それならこれで解決です!」と隣に座って餌付けを始めた男にそう言われると複雑な気分だ。
「あのさ……知ってるか。お前最近ドミノ倒し王配候補って呼ばれてるそうだぞ」
「……」
コーヒーゼリーを運ぶ手が止まった。
「……どうした?」
「……いやですか?」
「え?」
「陛下、それ、いやですか?」
「……いや……そんなことは……ない……と思う……」
マリラが真っ赤になって呟くと、レジナルドは真面目な顔で、「それじゃあ、そのあだ名、そのままにしておいても良いですか……?」と尋ねた。
「昔、すごーく昔ですよ?貴女、俺の婚約者候補だったじゃないですか。最終的にマシューの婚約者になっちゃいましたけど」
「あ……そういえば、そうだったわね……そうだったな……」
「あれ、俺すごいショックだったんですよね」
「え……?」
思いもよらぬことを耳にしてマリラは慌てた。
「ななななにそれ聞いてない!」
「言ってませんもん」
レジナルドは真面目な顔のまま言った。
「言えるわけないじゃないですか、弟の婚約者が好きだとか。だから身分がなくなった時、あれ、もしかしてこれで口説ける?って思ったんですよね」
まあ、秒でふられましたが。
そういうわけで、いいですかね、こっそり王配候補になっても?
微笑みかけるレジナルドに、「こ……候補なら……考えないこともない……」と答えたマリラは、数年後ドミノ倒し的にレジナルドと婚約することになる。
それはそれは見事な手腕で、外堀を埋めたものだと、王国の歴史家として名を馳せたイーディス・スペンサーは、後に書き残すことになる。
でも、それはまだまだ、先の話。
ゆっくりと二人三脚で新しい王宮のあり方を作り上げてから、のお話。
今の二人は真っ赤になったり、ちょっと言葉に詰まったりなどしながら、食堂のおばちゃんのコーヒーゼリーを食べているのであった。
~完~
「……何があったのかしら……」
確かに試験はきちんとできていた実感があった。だから、やはり女だから採用されなかったのだな、と哀しく思っていたのだ。
「蓋を開けたら4人も女性が採用されていたなんて、やはり女王様のおかげかしら……」
歴史典礼部長は新しく任命されたばかりの男性で、これまでは歴史課のみの担当だったのだという。
「イーディス君、頼りにしているよ」
ニコリともしない人だったが、誠実そうな人だった。
図書室にも一人、女性が配属された。王立学院ではいつもボランティアで図書室の手伝いをしていた子だ。見知った顔がいるだけで、新しい仕事を始める不安もずいぶん減った。
驚いたことに、資材部と魔道具課にもインターンで女性が一時的に入るのだという。
今までは女性文官が一人もいなかったことを考えると、大きな変化だった。
「すごいなあ……信じられない……」
イーディスは採用通知を大切に額に入れてしまうことにした。
「王国最初の女性文官採用通知……歴史的資料としていつか大切になるはず!」
マリラは困惑していた。
オヤツ係のレジナルドが毎週ニコニコ美味しいおやつを持って来るのだ。
しかも、来るたびに何かしら報告が上がってくる。
「イーディスだけでなく、合格レベルにあった女性文官候補を全員採用させただと……?どうやったんだ?」
「全員じゃあないですよ。インターンにねじ込むまでしかできなかった人材もいますし……」
まあ、性格的にインターンで入ったらまず廃除されることはないと思いますけどね。
レジナルドはそう言いながら、コーヒーゼリーのスプーンをマリラの口元に運ぶ。
「……自分で食べられるから、いい」
「いやいや、そんな事言わないで。陛下忙しいじゃないですか。今も書類持ってますし」
書類に目を通さなくてはならないから、とやんわりと断ったら、「それならこれで解決です!」と隣に座って餌付けを始めた男にそう言われると複雑な気分だ。
「あのさ……知ってるか。お前最近ドミノ倒し王配候補って呼ばれてるそうだぞ」
「……」
コーヒーゼリーを運ぶ手が止まった。
「……どうした?」
「……いやですか?」
「え?」
「陛下、それ、いやですか?」
「……いや……そんなことは……ない……と思う……」
マリラが真っ赤になって呟くと、レジナルドは真面目な顔で、「それじゃあ、そのあだ名、そのままにしておいても良いですか……?」と尋ねた。
「昔、すごーく昔ですよ?貴女、俺の婚約者候補だったじゃないですか。最終的にマシューの婚約者になっちゃいましたけど」
「あ……そういえば、そうだったわね……そうだったな……」
「あれ、俺すごいショックだったんですよね」
「え……?」
思いもよらぬことを耳にしてマリラは慌てた。
「ななななにそれ聞いてない!」
「言ってませんもん」
レジナルドは真面目な顔のまま言った。
「言えるわけないじゃないですか、弟の婚約者が好きだとか。だから身分がなくなった時、あれ、もしかしてこれで口説ける?って思ったんですよね」
まあ、秒でふられましたが。
そういうわけで、いいですかね、こっそり王配候補になっても?
微笑みかけるレジナルドに、「こ……候補なら……考えないこともない……」と答えたマリラは、数年後ドミノ倒し的にレジナルドと婚約することになる。
それはそれは見事な手腕で、外堀を埋めたものだと、王国の歴史家として名を馳せたイーディス・スペンサーは、後に書き残すことになる。
でも、それはまだまだ、先の話。
ゆっくりと二人三脚で新しい王宮のあり方を作り上げてから、のお話。
今の二人は真っ赤になったり、ちょっと言葉に詰まったりなどしながら、食堂のおばちゃんのコーヒーゼリーを食べているのであった。
~完~
45
お気に入りに追加
66
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい
えながゆうき
ファンタジー
停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。
どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。
だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。
もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。
後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
逆ざまぁされた王子のその後
蒼穹月
恋愛
異世界恋愛小説で婚約者他から逆ざまぁされる王子にも救いがあって良いじゃないという思いから作りました。
序盤は俺様。徐々に世間を知って大人になっていけば良い。
◇目次的な何か◇
・プロローグ
・第一話~第十三話
・最終話
・後日談
追加
・その頃テルロは 第一話~第六話
・その頃テルロは 最終話
※なろうとカクヨムにも投稿しています。
追記:番外編的にテルロ視点の「その頃テルロは」を追加しました。モノローグ多めです。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。
TGI:yuzu
ファンタジー
Fランク冒険者の主人公はある日、道端で魔族の娘に出会う。彼女は空腹で弱っており、主人公はコロッケをあげる。魔族と人族の文化の違いに感銘を受け、なんと同棲を始めてしまった。彼女は「家出」して来たというが、本当の理由は何なのか? 主人公と魔族の娘の不思議な同居生活が始まる。
2023/4/3完結しました。
悪役令息の三下取り巻きに転生したけれど、チートがすごすぎて三下になりきれませんでした
あいま
ファンタジー
悪役令息の取り巻き三下モブに転生した俺、ドコニ・デモイル。10歳。
貴族という序列に厳しい世界で公爵家の令息であるモラハ・ラスゴイの側近選別と噂される公爵家主催のパーティーへ強制的に行く羽目になった。
そこでモラハ・ラスゴイに殴られ、前世の記憶と女神さまから言われた言葉を思い出す。
この世界は前世で知ったくそ小説「貴族学園らぶみーどぅー」という学園を舞台にした剣と魔法の世界であることがわかった。
しかも、モラハ・ラスゴイが成長し学園に入学した暁には、もれなく主人公へ行った悪事がばれて死ぬ運命にある。
さらには、モラハ・ラスゴイと俺は一心同体で、命が繋がる呪いがオプションとしてついている。なぜなら女神様は貴腐人らしく女同士、男同士の恋の発展を望んでいるらしい。女神様は神なのにこの世界を崩壊させるつもりなのだろうか?
とにかく、モラハが死ぬということは、命が繋がる呪いにかかっている俺も当然死ぬということだ。
学園には並々ならぬ執着を見せるモラハが危険に満ち溢れた学園に通わないという選択肢はない。
仕方がなく俺は、モラハ・ラスゴイの根性を叩きなおしながら、時には、殺気を向けてくるメイドを懐柔し、時には、命を狙ってくる自称美少女暗殺者を撃退し、時には、魔物を一掃して魔王を返り討ちにしたりと、女神さまかもらった微妙な恩恵ジョブ変更チート無限を使い、なんとかモラハ・ラスゴイを更生させて生き残ろうとする物語である。
ーーーーー
お読みくださりありがとうございます<(_ _)>
わらしべ悪役令嬢──婚約破棄されそうだということで勘当されましたが、なんだかどんどんのしあがっている気がします
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
侯爵令嬢マリラ・ウルワースは、困っていた。両親から勘当を宣告されたのである。原因は学院での悪行の数々。途方に暮れていたマリラは、通行人に突き飛ばされ、ころんだ拍子に小さなボタンを拾う。
ボタンから始まる怒涛の地位上昇劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる