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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第4-1節:冒険者たちの来訪
しおりを挟むその日の日没直前、クレストさんの部下だという人が当家の屋敷にいらっしゃった。
用件はもちろん、地方会議の時に私たちの警護を担当してくれる冒険者さん一行が到着したのを伝えに来たということで、商人ギルドまでナイルさんが彼らを迎えに出かけたのだった。
そして彼らがお屋敷にやってきた後は応接室で最初にジョセフとナイルさんが応対し、セキュリティ上の問題がないことをあらためて確認してからリカルドがその場に加わるという形を取っている。
一応、商人ギルドでもナイルさんとクレストさんが『真実の鏡』でチェックをしているはずだけど、万全を期すためにということらしい。
現在、何事もなくチェックが終わり、応接室にリカルドが入ってから十数分が経過している。一方、私は自室でリカルドたちに呼ばれるのを待っている状態。椅子に座り、窓から外の景色を眺めて過ごしている。
ちなみにポプラは夕食の支度を手伝いに行っているため、ここにはいない。
「黄昏時……か……」
昼と夜の境目。この世とあの世が混ざり合う曖昧な瞬間。それゆえに魔物たちが蠢き始める時間帯とも言われている。
雲ひとつない空は暗闇に染まり始めつつ、遠くに見える稜線にはまだわずかに陽光の欠片が輝いている。開いたままの窓から入り込んでくる微風は涼しくて心地良い。おそらく明日もまた快晴の一日になるだろう。
相変わらずフィルザードでは雨が降らない。そういえば、久しく雨の匂いを嗅いでいないような気がする。だからこそ一刻も早く風車や水路を完成させなければ……。
――と、物思いに耽っていた時のこと、部屋のドアがノックされて私は素早くその応対に出る。
そしてそこに立っていたのはいつもながら落ち着いた様子のスピーナさんだった。
「シャロン様、リカルド様がお呼びです。応接室にお越しください」
「はい、承知しました」
「では、私は食事の準備に戻らせていただきます」
「お疲れ様です、スピーナさん」
私が声をかけると、彼女は静かにお辞儀をして部屋の前から去っていった。
姿勢や所作には無駄がなくて、実に優雅。そういうところはまだまだ適わないから、私も見習わなくちゃ。やっぱり経験の差なんだろうなぁ……。
…………。
そういえばモーリスさんとスピーナさんの会話を聞いた限り、彼女は私とさほど年齢が変わらない頃からフィルザード家のメイドをしているみたいだ。
その過程で様々な所作が身に付いたと考えるのが自然だけど、一方で雰囲気の根本には天性の気品が漂っているような気もする。その私の勘が当たっているなら、彼女はもしかしたら貴族出身なのかもしれない。
実際、貴族に仕えるメイドや執事の中には、ほかの貴族の家で兄弟が多くて爵位や領地の継承権を持てなかった人や庶子という立場の人も結構いるらしいから。
私みたいに政略結婚の道具として利用されるケースもあるけど……。
「よしっ、ご挨拶をしに行こう!」
私は軽く身だしなみを整え、自室を出発した。あまり待たせては悪いので廊下や階段を早足で進み、緊張感を持ちつつも表情はあくまで柔らかなことを意識して応接室のドアをノックする。
直後、室内から入室を許可する旨のリカルドの声が聞こえてきて、私はドアを開けて中へと入る。
応接室では正面一番奥の椅子にリカルドが腰掛けている。その右隣に置いてある空席は、おそらく私が座る場所。そして向かって左側のソファーに冒険者たちと思しき三人組、テーブルを挟んでその正面――つまり右側のソファーにジョセフとナイルさんが座っている。
ちなみに冒険者たちだけど、まずリーダーだと思われるのは一番奥に座っている男性。年齢は四十歳くらいで、体格はガッシリとしている。また、腕や胸板は筋肉が隆々としていて、服がはち切れんばかりだ。日焼けした肌と深い茶色の短髪が強く印象に残る。
見た感じから察すると典型的な力押しの戦士だろう。ただ、メインで使用している武器は入室前にジョセフかナイルさんが預かったのか、腰にも背中にも傍らにも見られない。
まぁ、おそらくはジョセフと同様にロングソードの使い手。体格がそれっぽいというのもあるけど、服の背中や肩の部分に鞘を縛り付けていたような痕があるから。さらにサブウエポンとして、腰にはナイフか短剣も装備していたかもしれない。
いずれにしても、落ち着いた中に燃えるような闘志が感じられ、目つきや雰囲気からも熟練の冒険者であるのは間違いない。
――って、つい相手の戦力分析をしてしまうのは父の影響かな?
(つづく……)
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