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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第3-3節:本質の見極め
しおりを挟むまぁ、リカルドや私の身に何かが起きたり、彼自身が敵に捕まったりして追求を受けることになった場合、言い逃れをするための『屁理屈』ぐらいは用意しておきたいもんね。
「なるほど、参考になりました。ありがとうございます、クレストさん」
「ちなみにラグナ様の管轄地はヴァーランドの西部――つまりフィルザードと接しています。そこを通らなければ港はもちろん、スティール伯爵が居住するヴァーランド城へ行くことが出来ないわけです。その意味、ご理解いただけますね?」
「っ! だからクレストさんは私たちの身を案じて、護衛の冒険者たちを手配してくれたんですね? もし相手が強硬手段に出るなら、その道中は色々と都合がいい状況ですもんね?」
「今回の地方会議は黒幕にとって諸刃の剣。邪魔者を排除する絶好の機会であると同時に、それに失敗すれば妨害が明るみになって自らの破滅に繋がります。それゆえにシャロン様もリカルド様も充分にご注意を」
そこまで聞いて、私は今回の件に関する彼の様々な言動に納得がいった。
確かに現状を踏まえれば、黒幕が地方会議の際に何もしてこないとは考えにくい。クレストさんが私たちを警護する冒険者を手配してくれるのも理解できる。
――そして自分の利害のことがあるにせよ、それを差し引いたとしても彼は思った以上にいい人なのかもしれない。
私の中において、彼に対する評価を少しは良い方向へ改めないといけないな……。
人は初めて出会った瞬間の印象が大事だと言われるけど、やり取りを続けてようやく見えてくるものもある。大切なのはその本質を見極めること。第一印象や見た目に縛られず、常にアップデートしていかなければ。
……頭では分かってても出来てないな、私。
だってそれが出来ていれば、あの人について結論を先延ばしにしたままにしていないはずだもん。
私は自分の未熟さを痛感し、心の中で自嘲する。
「それにしても、黒幕はなぜ私たちの妨害をするのでしょう?」
「何かの利権や野望、あるいは信念か……。詳細は分かりかねますが、我々の計画が実現してしまうと都合の悪いことでもあるのでしょう。シャロン様から見れば『欲にまみれたお前が言えた口か?』という感じかもしれませんが」
「いえ、クレストさんは心に『義』があります。理性もある。紙一重かもしれませんが、越えてはならない一線を弁えている。それは誇るべきことですよ。そもそも煩悩は多かれ少なかれ誰にでもあるものです」
「……フッ、買い被りですよ。ですがシャロン様にそうおっしゃっていただけて嬉しく思います」
クレストさんはいつになく穏やかな笑みを浮かべた。商人としてはビジネスに過度な情を持ち込むのは良くないんだろうけど、だからこそそれが垣間見られたところに彼の本当の人柄のようなものが表れていると私は思う。
今回の会談で私と彼の心の距離感は思った以上に縮まったような気がする。もはや心強いビジネスパートナーだ!
「ご要望は承りました。それで会議の際に私たちに同行する冒険者とはどのような方なのですか? ご紹介をお願いしたいのですが」
「現在、彼らは資材を運ぶ一行を警護する任務に当たっております。先ほども話に出ましたが、関所の通過に時間がかかって到着が遅れているのです」
「なるほど、そうでしたか」
「それでもおそらく今日の夕方には到着すると思いますので、彼らが戻り次第、フィルザード家のお屋敷へご挨拶に向かわせます」
「承知しました。では、お待ちしております」
そう私が返事をした直後のことだった。
今まで静かに話を聞いていたナイルさんが何か思うところがあるような顔をして、不意に口を開く。
「クレスト殿、私からひとつお願いがあるのですが」
「ほぉ? 何でしょうか?」
「その冒険者たちが本物であるか、証明する措置を取っていただきたい。ギルドに到着するまでの間、あるいは屋敷へ移動する間に偽物とすり替わっている可能性もありますので。こういう状況だと分かった以上、警護の責任者である私としては念には念を入れたい」
「なるほど、でしたら彼らが到着したらまずは使いの者を出しましょう。そしてナイル殿が商人ギルドへ赴き、一緒にお屋敷へ移動するというのはいかがか? その際には変身魔法などを無効化する『真実の鏡』で彼らを映し出します」
クレストさんが口にした『真実の鏡』というのは、偽りの姿を見破ることが出来る魔法道具のこと。すでに失われた古代魔法技術で作られたもので、世界に現存するのは数百枚ほどだと書物で読んだことがある。
もっとも、クレストさんくらいに裕福な大商人なら、何枚か持っていたとしても不思議はないけどね……。
また、『真実の鏡』の効果とその存在だけは大抵の人が知っている。というのも、有名なおとぎ話の中にも登場する魔法道具だから。故郷にいた時、近所に住んでいた子どもたちもその物語が好きで、会話の中によくその名称が出てきていたし。
事実、クレストさんの提案を聞いたナイルさんはすんなりと状況を理解して大きく頷いている。
「その対応でお願いします、クレスト殿。お手数をおかけします」
「いえ、それくらい慎重な方が良いと私も思います。それで完全に懸念を払拭するということにはならないかもしれませんが、何もしないよりはずっといい」
「それにしても『真実の鏡』とは、随分と貴重な品をお持ちで」
「商売をしていると色々とありますからな。例えば交渉相手に対してだけでなく、美術品の贋作を見破る際などにも重宝しております」
「なるほど……ね……」
ナイルさんは含みを持たせるような言い方で呟いた。
彼はどういう意図で何を思ったのだろうか? ちょっと気になるけど、私の思い過ごしかもしれないから今は気にしないでおこう……。
(つづく……)
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