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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第4-5節:生と死の狭間で
しおりを挟む――そう、ゴーレムはキールさんの強烈な一撃を受けたにもかかわらず、無力化をしていなかった。
なんと崩れ落ちた部分が音もなく浮かび上がって下半身と合体し、あっという間に何事もなかったかのように復元していたのだ。そして無防備状態のキールさんに向かってアッパーパンチを繰り出したというわけだ。
天国から地獄へ一気に突き落とされるかのような悲劇に、歓声を上げていた兵士さんたちの表情が絶望に染まる。腰が抜けて動けないところへゴーレムが歩み寄り、躊躇なく彼らを蹴散らす。
兎にも角にも、私はうつ伏せのまま動かないキールさんに駆け寄った。
もちろん、全身の骨が折れていたり、内臓が破裂したりしている可能性もあるので下手に動かすのは危険だ。触れるのさえ避けた方が良い。
「……っ……っ……っ……!」
私は彼の傍らに両膝を付き、即座に自分の両手を彼の体の上にかざして回復魔法の呪文を唱えた。容態や意識の確認なんてしない。事態は一刻を争うから。治療が必要なのは明らかだから。
程なく私の両手から白く眩い光が放たれ、キールさんの全身を包み込む。魔法力の消費なんて考えず、ひたすらに全力で回復魔法を行使し続ける。私が使えるのは低位の回復魔法だけだから、とにかく質より量の手段しかない。
魔法力がどんどん私の体から抜けていく。精霊の力を行使する際でさえ経験したことのない、猛烈な脱力感と目眩に襲われる。
でもそれだけ回復魔法も効果を発揮しているということだ。気を抜いて私の意識が失なわれないよう、奥歯を噛んでお腹に力を入れる。
「く……う……。どうか回復が間に合ってっ!」
命の灯火が消えてしまう前になんとしてでも彼の肉体と体力を回復させ、この世に魂を留まらせなければならない。事切れてしまったら全てが水の泡。復活なんて奇跡が起こせるのは神様くらいだ。
幸いにもゴーレムはなぜか水路を破壊するのに夢中になっている。こちらに近寄ってくる気配はなく、おかげで私はキールさんの治療に専念できる。
…………。
……そうか、もしかしたらゴーレムを使役している者の目的は水路の破壊なのかもしれない。だとすればこちらから手を出さない限り、ある程度は安全だ。もちろん、油断は出来ないけど。
そして私が祈るような気持ちで回復魔法をかけ続けていると、ついにキールさんの指がピクリと動き、さらに小さく息を漏らす。
「う……あ……」
「っ!? 良かった、反応が戻ってきた!」
「シ……シャ……ロン……様……」
やがてキールさんはわずかに目を開き、意識を取り戻した。おそらくなんとか一命は取り留められたのだと思う。
ただ、依然として動ける状態ではないので回復魔法を続ける。
「キールさん、もう少しだけジッとしててください。とりあえず体を起き上がらせることが出来るくらいまでは、回復魔法での治療を続けますので」
「すみません……私が油断したばかりに……」
「過ぎたことを言っても仕方ありません。大切なのはこれからです。このピンチをどう乗り切るかですよ」
「は、はい……ですが……」
キールさんは遠慮がちに重苦しい声を漏らす。彼自身もこの厳しい状況に接して、私たちに残されている選択肢が少ないということを理解しているのだ。
怪我人だらけだし、眠ったままの人も多いこの状況では、すでに逃げるという選択肢は取れない。私とノエルくんだけが逃げるということならその限りじゃないけど。
――でもっ、私はみんなを見捨てるなんてこと、絶対にしたくないッ!
だとすると、残された選択肢はひとつ。
意を決した私は回復魔法を止め、ゴーレムをキッと睨み付けたまま立ち上がる。そして傍らで様子を見ていたポプラに話しかける。
「ポプラ、キールさんのことをお願い。とりあえずはもう回復魔法を掛けなくても、命に別状はない状態だとは思うけど」
「は、はいなのですっ! シャロン様はどうするつもりなのですか?」
「ゴーレムを倒すよ!」
「えぇっ!? む、無理なのですっ! シャロン様にキールさんのような攻撃は出来ないでしょうし、出来たとしてもさっきのようにすぐに復元してしまうのですっ!」
狼狽しながら夢中になって叫び、大きく首を左右に振っているポプラ。
私はそんな彼女の両肩を優しく掴み、視線を合わせて微笑みながら不安を取り除いてあげる。
(つづく……)
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