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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第4-3節:仕組まれていた襲撃!

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 そんな中、私たちの横で周囲の様子をうかがっていたキールさんが険しい表情をして重苦しい声をらす。

「これはまさか……」

「キールさん? どうしたんですか?」

「シャロン様、何かおかしいです。夜でもないのに、こんなにも大勢の人間が同じタイミングで眠りに落ちるとは」

「あ……はい……。不自然さは私も感じていますが……」

「眠ってしまった者には共通点があります。それは樽の水を飲んだということ。もしかしたら水に睡眠薬が仕込まれていたのかもしれません」

 それを聞き、思わず私は大きく息を呑んだ。思いも寄らない指摘に心臓はドクンと跳ね、全身から血の気が引いていく。だって睡眠薬だなんて……。

 でも睡眠薬が盛られていたとしたら、確かに色々と合点がいく。

「そんなまさかっ!? も、もしかして私をお疑いですかっ? 違いますっ、私がそんなことをするはずが――」

「いえ、シャロン様を疑っているわけではありません。そもそもそんなことをしても、シャロン様に何もメリットがありませんから。つまり何者かが何かの目的で、水の中に睡眠薬を仕込んだと考える方が自然です」

「な、なるほど……」

 ――と、私たちが動揺どうようしながら会話をしていた時のことだった。

 不意に地面が大きく揺動し、その場に轟音ごうおんが鳴り響いた。それと同時に、水路を掘削した時に出た土や岩、砂などが盛られた山が生き物のように動き始める。

 それは次第に一点に集まり、巨人のような姿を形作っていく。

 体高は平屋建ての家くらいあり、腕や足の一本一本の太さは私の胴体以上。人間の顔に当たる部分に目や鼻、口などはない。ただ、一瞬だけど額には小さな光がかすかに輝いていたのが見えたような気がする。

 ちなみに全身は掘削工事で排出された残土で構成されているだけあって、周りの大地と同じ赤茶けた色をしている。



 ――っ!

 あれはもしかしてゴーレム!? でもなぜこの場所にっ?


 想像だにしなかったことが起こり、私の胸の中は大きくざわついていた。

 ヤツは私たちの方へ体を向け、今にも襲いかかってきそうな雰囲気をかもし出している。

 それを察した瞬間、私の中で一気に緊張感が高まり、全身の毛穴が開いたような気がした。直後、私はいつでも相手の動きに対応できるよう腰を軽く落として身構える。

 いや、無意識のうちに体が動いたという方がより正確な表現か……。


 そんな私の後ろにはポプラがおびえながら隠れ、キールさんは腰に差していた剣を抜いてゴーレムをにらみ付けている。

 一方、眠っていない警備の兵士さんたちはその大半が想定外の事態に混乱して、棒立ちになっている状態だった。彼らは手に槍や剣を持っているけど一様に腰が退けていて、とてもじゃないけど即応できる状態じゃない。



 でも彼らにとって相手が得体の知れないモンスターじゃ、それも仕方ないのかもしれない。

 というのも、ゴーレムは魔法や儀式によって無機物に仮初かりそめの命を吹き込まれた存在であり、術者に使役されない限りお目に掛かることのないレアなモンスターだからだ。その上、普通の兵士さんでは魔術書などで知識を得ているということも少ないと思うし。

 ちなみに一般的によく知られているゴーレムは目の前に現れたヤツのような岩石などが集まって人間の形を模したタイプで、彼らは術者に命令されたことだけを忠実に実行する。思考が単純だから、複雑な命令や複数の命令は聞かせられないけど。

 そして感情がないから死の恐怖といった概念がなく、さらに多少のダメージなら受けても容易に復元してしまうのも厄介やっかいなところ。

 もっとも、ゴーレムの使役には大きな魔法力あるいは高度な魔法マジック道具アイテムなどが必要になるから、複数を同時に使役するのが難しい。つまりゴーレムと戦闘になる場合、相手が単独というケースが多いという点だけは幸いと言えるかもしれない。

 こんな凶暴なモンスターが集団で襲ってきたら、脅威きょういでしかないもんね……。

 もちろん、手強いといっても手練れの冒険者などそれなりに戦闘の実力があれば、倒せない相手でもないけど。

「何者かは知らんが、目的はノエル様やシャロン様の命かッ! だが、この身に代えてでも守りきってみせる! ――動ける者はノエル様の周りに集え! 決して擦り傷ひとつすら負わせるな!」

 キールさんが耳をつんざくような声で叫んだ。

 その天にも届きそうな激しい咆哮ほうこうに、今まで棒立ちになっていた兵士さんたちは我を取り戻したようにハッと大きく息を呑む。そして『おぉーっ!』と一斉にときの声を上げると、すかさず私たちとゴーレムの間で陣形を組んでいく。

 身構えた彼らは、その手に持つ槍や剣の切っ先を整然とゴーレムに向けている。

 指揮をするキールさんが要となり、彼らはすっかり統制を取り戻していてなんとも頼もしい。



 …………。

 ……ただ、その一方でどうしてもに落ちないことがあって、それが私の心の中で引っかかり続けていた。


(つづく……)
 
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