91 / 178
第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第4-3節:仕組まれていた襲撃!
しおりを挟むそんな中、私たちの横で周囲の様子を窺っていたキールさんが険しい表情をして重苦しい声を漏らす。
「これはまさか……」
「キールさん? どうしたんですか?」
「シャロン様、何かおかしいです。夜でもないのに、こんなにも大勢の人間が同じタイミングで眠りに落ちるとは」
「あ……はい……。不自然さは私も感じていますが……」
「眠ってしまった者には共通点があります。それは樽の水を飲んだということ。もしかしたら水に睡眠薬が仕込まれていたのかもしれません」
それを聞き、思わず私は大きく息を呑んだ。思いも寄らない指摘に心臓はドクンと跳ね、全身から血の気が引いていく。だって睡眠薬だなんて……。
でも睡眠薬が盛られていたとしたら、確かに色々と合点がいく。
「そんなまさかっ!? も、もしかして私をお疑いですかっ? 違いますっ、私がそんなことをするはずが――」
「いえ、シャロン様を疑っているわけではありません。そもそもそんなことをしても、シャロン様に何もメリットがありませんから。つまり何者かが何かの目的で、水の中に睡眠薬を仕込んだと考える方が自然です」
「な、なるほど……」
――と、私たちが動揺しながら会話をしていた時のことだった。
不意に地面が大きく揺動し、その場に轟音が鳴り響いた。それと同時に、水路を掘削した時に出た土や岩、砂などが盛られた山が生き物のように動き始める。
それは次第に一点に集まり、巨人のような姿を形作っていく。
体高は平屋建ての家くらいあり、腕や足の一本一本の太さは私の胴体以上。人間の顔に当たる部分に目や鼻、口などはない。ただ、一瞬だけど額には小さな光がかすかに輝いていたのが見えたような気がする。
ちなみに全身は掘削工事で排出された残土で構成されているだけあって、周りの大地と同じ赤茶けた色をしている。
――っ!
あれはもしかしてゴーレム!? でもなぜこの場所にっ?
想像だにしなかったことが起こり、私の胸の中は大きくざわついていた。
ヤツは私たちの方へ体を向け、今にも襲いかかってきそうな雰囲気を醸し出している。
それを察した瞬間、私の中で一気に緊張感が高まり、全身の毛穴が開いたような気がした。直後、私はいつでも相手の動きに対応できるよう腰を軽く落として身構える。
いや、無意識のうちに体が動いたという方がより正確な表現か……。
そんな私の後ろにはポプラが怯えながら隠れ、キールさんは腰に差していた剣を抜いてゴーレムを睨み付けている。
一方、眠っていない警備の兵士さんたちはその大半が想定外の事態に混乱して、棒立ちになっている状態だった。彼らは手に槍や剣を持っているけど一様に腰が退けていて、とてもじゃないけど即応できる状態じゃない。
でも彼らにとって相手が得体の知れないモンスターじゃ、それも仕方ないのかもしれない。
というのも、ゴーレムは魔法や儀式によって無機物に仮初の命を吹き込まれた存在であり、術者に使役されない限りお目に掛かることのないレアなモンスターだからだ。その上、普通の兵士さんでは魔術書などで知識を得ているということも少ないと思うし。
ちなみに一般的によく知られているゴーレムは目の前に現れたヤツのような岩石などが集まって人間の形を模したタイプで、彼らは術者に命令されたことだけを忠実に実行する。思考が単純だから、複雑な命令や複数の命令は聞かせられないけど。
そして感情がないから死の恐怖といった概念がなく、さらに多少のダメージなら受けても容易に復元してしまうのも厄介なところ。
もっとも、ゴーレムの使役には大きな魔法力あるいは高度な魔法道具などが必要になるから、複数を同時に使役するのが難しい。つまりゴーレムと戦闘になる場合、相手が単独というケースが多いという点だけは幸いと言えるかもしれない。
こんな凶暴なモンスターが集団で襲ってきたら、脅威でしかないもんね……。
もちろん、手強いといっても手練れの冒険者などそれなりに戦闘の実力があれば、倒せない相手でもないけど。
「何者かは知らんが、目的はノエル様やシャロン様の命かッ! だが、この身に代えてでも守りきってみせる! ――動ける者はノエル様の周りに集え! 決して擦り傷ひとつすら負わせるな!」
キールさんが耳をつんざくような声で叫んだ。
その天にも届きそうな激しい咆哮に、今まで棒立ちになっていた兵士さんたちは我を取り戻したようにハッと大きく息を呑む。そして『おぉーっ!』と一斉に鬨の声を上げると、すかさず私たちとゴーレムの間で陣形を組んでいく。
身構えた彼らは、その手に持つ槍や剣の切っ先を整然とゴーレムに向けている。
指揮をするキールさんが要となり、彼らはすっかり統制を取り戻していてなんとも頼もしい。
…………。
……ただ、その一方でどうしても腑に落ちないことがあって、それが私の心の中で引っかかり続けていた。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー
高井繭来
恋愛
ルーシュ・サウザント・ドラゴニアは公爵家の第8子だった。
武で名をはせたドラゴニア家には上に7人の姉。
待望の男児が生まれなかったドラゴニア公爵はルーシュを男児として育てる。
男として育てられたルーシュは剣と魔法の才能を発揮し12歳にして国家聖騎士団の一員となり功績を積むが、父より届いた手紙で全てを失う。
『待望の男児が生まれたから明日から女として生きろ』
こうしてルーシュは神殿仕えの身となって聖女の侍女となった。
ウザい聖女に絡まれながらもルーシュは今日も侍女としても務めを果たす。
侍女として働く一方で魔獣の王都侵入を防いだり、曲者の親友が家出してきたせいで何故か大帝国の王子に見初められたりと第2の人生は波乱万丈だった。
※聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~とリンクしています。
※ちょっぴり題名変えました。
カテゴリ【恋愛】に変えました。
ファンタジーだけど恋愛が中心になってきてしまったので(;^ω^)
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる