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『特別な人』103

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 目の前の女は俺の問い掛けには答えず、涙をためた目を見開いて
穴の開くほどじっと俺を見ている。

 ここで俺は大人げないことをしている自分の所業に気が付き、
恥ずかしくなった。


 そうだ、なんでこんなに彼女のことを構うんだ。
 相馬の彼女だというのに。


 自分の愚行にどっと疲れを覚えた。
 ボタンから俺の指が離れ扉が開いた途端、スルリと彼女は俺の前から
すり抜けて行った。


相原清史郎あいはらせいしろうは周りから見られているイメージとは
180℃違っていてウブで自分に自信のない人間だった。


 そんな彼は女性に対しては中身重視。

 好きになった相手とは絶対遊びで付き合えない。



 相原は当初、相馬付のサポーターとして担当に着任した若くて
そこそこ可愛い女子社員を見るにつけ、ご多分に洩れず多少の羨ましさを
感じていた。


 しかし、来る派遣社員、派遣社員、二人共長続きせずあれよあれよと
辞めてしまい、女子社員と一緒に仕事をするというのは予想以上に
難しいものなのだという認識を強くした。


 彼女たちが辞めていった理由として周囲から漏れ伝わってきたのは
モテ男相馬に恋心を抱いて玉砕したから、というものだった。


 それ故、おばさんおじさん気質で周囲と同じようについ3番目に
着任した掛居花の言動、つまり様子をそれとなく気にするようになっていた。

 そんな風に野次馬根性で気にかけていた女性ひとが娘の保育所に
現れたものだからつい、興味を覚えたのだ。


 全く繋がりのなかった立場から細い糸で繋がれたのだ。



 これは日常会話くらい話せるようにならなくてはと声を掛けるも、
滑ってばかりのようで掛居から余り良い反応を得られず、普通に話せる
間柄になるのには万里の長城(北海道から沖縄まで日本列島をぐるりと囲む距離)
ほどもの距離があるのを感じ、寂しく思った。


 そしてスマートに成り切れない自分に対してほぞを嚙む思いだった。



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