100 / 106
Encore*玉手箱はお受けいたしかねま…す?
玉手箱はお受けいたしかねま…す?[2]ー①
しおりを挟む「アキっ…ん、」
口にした名前が、持ち主の咥内に呑み込まれていく。
待ちきれないとばかりに侵入してきた舌に口腔をかき回され、彼に馴らされた躰はあっという間に極上のキスに身を委ねようとし始める。
スーツの背中を握りしめた手はひんやりと冷たいままなのに、体の内側は一瞬で熱くなった。
「ふっ……ンん、ア、キっ……」
ここは玄関の三和土で、まだ靴も脱いでいない。
「だからちょっと待って」――そう言いたいのに、分かっていて邪魔するみたいに熱い舌がわたしを追いかけてくる。
あの後、【串富】の大将が『婚約祝いだ』と言って振舞ってくれた料理の数々と、“生トーマラガー”を堪能したわたしたちは、揃ってわたしの家に帰ってきた。
玄関を開けて入るなりアキに抱きしめられて、今はこの状態。
これで何度目だろう――ここでこんなふうにされるのは。
出張で数日会えなかった時は、『我慢できない』とばかりにすぐに抱きしめられる。この後、暴走し始めたドラネコを制せるかどうかは、今のところ50 / 50。
会えない時間が長かった時ほど、負けることが多い。
それでいうと今回は――。
「きゃっ、」
突然抱え上げられて小さな悲鳴が漏れる。「アキっ」と叫ぶと、彼は不敵な笑みでわたしを見上げてくる。
「ここでこのまま抱いてもいいなら下ろすけど?」
「なっ、」
――いいわけあるかっ!
「だよね? 前の時はずいぶん怒られたしな」
「なっ、」
それは言わない約束でしょっ!
本社でのプレゼン大会のあと、まだあちらでの仕事が残っているというアキと翌日から通常業務のわたしは別々に関西に戻ることになった。
それから五日後、こちらに戻って来たアキがわたしのところにやってきて―――。
ダメ、思い出させないでっ…!
こんなところで……静川一生の不覚っ!!
口を開けたまま絶句しているわたしに、アキが「先に謝っておくよ、今日はごめんね?」と小首を傾げながらわたしの顔を覗き込んでくる。
これ。この『先に謝っておく』が曲者なんだって!
可愛く謝っておけば許されると思って……くぅ~、このドラネコめ!
アキはわたしを抱えたまま、器用にわたしの靴を脱がし、スタスタと廊下を進んでいく。
「ここも久しぶりだなぁ」
なんか懐かしい感出していらっしゃいますけど、ここに来るのが久しぶりなだけで、全然会ってないわけじゃありませんから!
関西に戻って来たアキは、なんとこっちにマンションを買った。
それも大阪のど真ん中。関西支部がある梅田の“キタ”はもちろん、わたしが勤める工場にも近く、更に新幹線の駅へのアクセスも良い場所。関西と東京の本社と行ったり来たりすることが多いからだろう。
わたしの部屋の1LDKがすっぽり収まりそうなほど広いリビングダイニングからは、橋が見下ろせる。
3LDKあって寝室もベッドも広いので、近頃はわたしがそちらに行くことの方が多かった。
――なんて思っているうちに、ベッドに背中からボスンと落とされ、すぐさま圧し掛かられる。
「ちょっ、…待って、待とう待ちましょう」
待てば待つとき待ちなはれっ!
押し返そうと出した手を取られる。アキはわたしの首筋に顔を埋めて「すんすん」と鼻を動かした。
「うん。シャワー不要」
「なっ、」
だから!それはきみの都合であって、わたしの都合ではないの!
仕事上がりで汗もかいたし、居酒屋臭だって落としたい。
「大丈夫、美味しそうな匂いしかしない」
「なっ…!――んっ、」
わたしが抗議の声を上げる前に、アキがわたしの首筋をペロリと舐めた。身を竦ませると今度は耳朶を齧られる。
「うん、大丈夫。今日も甘い」
満足そうに言ってくれてますけど、全然意味が分りませんから!
「あまっくな、い……し、おいしくもっ、やっ、ないっから……先、っん、に…シャワーを…やんっ、」
口が自由な今のうちに要望を伝えたいのに、いたずらな唇のせいで途切れ途切れになってしまう。
アキは「ちゅうっ」と音を立ててわたしの首筋をきつく吸うと、顔を上げてにっこりと微笑んだ。
「それにどうせすぐに汗だくになるんだ。責任をもってあとでちゃんと洗ってあげる」
その「ちゃんと」も曲者なんですーーーっ!!
わたしはやっぱり今日の夜も長いことを、早々に悟った。
10
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。