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Encore*玉手箱はお受けいたしかねま…す?
玉手箱はお受けいたしかねま…す?[1]ー②
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大将や奥さんはひとりで呑みに来るわたしに気を遣って、あれこれと話しかけてくれることが多い。そういうのもこの店の醍醐味のひとつではあるけれど、今はこれ以上ボロが出る方がまずい。
そう思ったわたしは、ビールをちびちび飲みながらスマホで撮った写真を眺めることにした。何かをしていると気を遣ってそっとしておいてくれる。大将と奥さんの細やかな気遣いが、この店の居心地の良さの源なのだと思う。
『橋』とタイトルのついたアルバムを開こうかと思ったけれど、一瞬迷ってその隣を開いた。
画面に映し出されたそれに、一瞬で自分の顔がゆるむのが分かった。
『桜と同じお名前なんですね! すごく素敵ですっ!』
そう言った本人の方が満開の桜のようだった。
わたしは写真を眺めながら、彼女と会った時のことを思い出した。
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
「え、今から?」
「そう。せっかくだから静さんも一緒に、ね?」
「ね?って……そんないきなり言われても……」
急な申し出に戸惑うわたしに、アキはいつもの調子でもっともらしい持論を持ちだし始める。
「大丈夫。父さんとはもう顔を合わせてるんだし、妹夫婦とも是非会ってやって欲しいんだ」
「いやいや…! 二日前にちょっと顔を合わせたくらいで家にお邪魔するなんて……厚かましすぎるでしょうよっ!?」
「そんなこと誰も気にしないから。それに婚約者が家に来るのに遠慮する方がおかしいだろ?」
「婚約者って……、別に今日じゃなくても……。またちゃんと日を改めて、」
「そうは言っても、静さんにも仕事があるだろ? 僕もすぐにまた関西に行くことになってる。お互いにまとまった休みもなかなか取れないし、東京に来るのもひと手間だと思うけど」
「…………」
アキの言うことも一理ある。
だけど今回はプレゼン大会のために上京したのだ。
彼ともう一度やり直したくて、なんとか話を聞いてもらうチャンスを作ろうと思ってはいたけれど、ご家族と顔を合わせるつもりなんて皆無。
そりゃ、結果として当麻CEOとはお会いしたけれど、それはただのなりゆき。“将来を約束した恋人”として彼のご家族全員とご挨拶するには、色々と準備が足りないというもの。
確かに今日から三月で、年度末や春休みで業務が忙しくなることは目に見えている。
今回はプレゼン大会の慰労で土日休みを貰っていたけれど、普段は二日連続で休みを取ること自体稀。それはサービス業だから仕方がない。
だけど、正式なご挨拶のために休みをもぎ取るくらいの気概はあるつもり。
やっぱり日を改めて――そう言おうと口を開きかけた時。
「今日はちょうど妹夫婦が来ることになっているんだ。父さんは夕方まで留守だから会わなくてもいいけど、せめて妹たちとだけでも会って欲しい」
「………」
確かに彼の妹さんには、わたしも興味がある。彼が溺愛して止まない子って、どんな子なのだろう。
黙考したわたしに、アキが「それに、もう妹には婚約者を連れていくことは連絡してある」と追い打ちをかける。
「ええっ…! 連れていくって言っちゃったの!?」
「そうだけど? ……ダメだった?」
「ダメだったって……」
「妹も『お会いするのが楽しみ』だって言っていたよ。だから……ね?」
「ね? って…………」
しばらく絶句したあと、わたしは盛大な溜め息を吐き出した。
「もうっ…! 言っちゃった後なら仕方ないじゃない。約束破るわけにはいかないでしょ」
「さすが静さん! ありがとう」
「もう……」
わたしはアキのもっともらしい持論に論破されて、渋々アキの妹さんご夫婦とお会いすることを承諾した。
この時のわたしは、彼が妹さんに『婚約者の彼女を連れていくかも』と伝えたことを知らなかった。
そう思ったわたしは、ビールをちびちび飲みながらスマホで撮った写真を眺めることにした。何かをしていると気を遣ってそっとしておいてくれる。大将と奥さんの細やかな気遣いが、この店の居心地の良さの源なのだと思う。
『橋』とタイトルのついたアルバムを開こうかと思ったけれど、一瞬迷ってその隣を開いた。
画面に映し出されたそれに、一瞬で自分の顔がゆるむのが分かった。
『桜と同じお名前なんですね! すごく素敵ですっ!』
そう言った本人の方が満開の桜のようだった。
わたしは写真を眺めながら、彼女と会った時のことを思い出した。
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「え、今から?」
「そう。せっかくだから静さんも一緒に、ね?」
「ね?って……そんないきなり言われても……」
急な申し出に戸惑うわたしに、アキはいつもの調子でもっともらしい持論を持ちだし始める。
「大丈夫。父さんとはもう顔を合わせてるんだし、妹夫婦とも是非会ってやって欲しいんだ」
「いやいや…! 二日前にちょっと顔を合わせたくらいで家にお邪魔するなんて……厚かましすぎるでしょうよっ!?」
「そんなこと誰も気にしないから。それに婚約者が家に来るのに遠慮する方がおかしいだろ?」
「婚約者って……、別に今日じゃなくても……。またちゃんと日を改めて、」
「そうは言っても、静さんにも仕事があるだろ? 僕もすぐにまた関西に行くことになってる。お互いにまとまった休みもなかなか取れないし、東京に来るのもひと手間だと思うけど」
「…………」
アキの言うことも一理ある。
だけど今回はプレゼン大会のために上京したのだ。
彼ともう一度やり直したくて、なんとか話を聞いてもらうチャンスを作ろうと思ってはいたけれど、ご家族と顔を合わせるつもりなんて皆無。
そりゃ、結果として当麻CEOとはお会いしたけれど、それはただのなりゆき。“将来を約束した恋人”として彼のご家族全員とご挨拶するには、色々と準備が足りないというもの。
確かに今日から三月で、年度末や春休みで業務が忙しくなることは目に見えている。
今回はプレゼン大会の慰労で土日休みを貰っていたけれど、普段は二日連続で休みを取ること自体稀。それはサービス業だから仕方がない。
だけど、正式なご挨拶のために休みをもぎ取るくらいの気概はあるつもり。
やっぱり日を改めて――そう言おうと口を開きかけた時。
「今日はちょうど妹夫婦が来ることになっているんだ。父さんは夕方まで留守だから会わなくてもいいけど、せめて妹たちとだけでも会って欲しい」
「………」
確かに彼の妹さんには、わたしも興味がある。彼が溺愛して止まない子って、どんな子なのだろう。
黙考したわたしに、アキが「それに、もう妹には婚約者を連れていくことは連絡してある」と追い打ちをかける。
「ええっ…! 連れていくって言っちゃったの!?」
「そうだけど? ……ダメだった?」
「ダメだったって……」
「妹も『お会いするのが楽しみ』だって言っていたよ。だから……ね?」
「ね? って…………」
しばらく絶句したあと、わたしは盛大な溜め息を吐き出した。
「もうっ…! 言っちゃった後なら仕方ないじゃない。約束破るわけにはいかないでしょ」
「さすが静さん! ありがとう」
「もう……」
わたしはアキのもっともらしい持論に論破されて、渋々アキの妹さんご夫婦とお会いすることを承諾した。
この時のわたしは、彼が妹さんに『婚約者の彼女を連れていくかも』と伝えたことを知らなかった。
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