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Chapter13*泡はなるもの?帰するもの?
泡はなるもの?帰するもの?[1]ー③
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「そう言えば、森ちゃんが本命チョコを上げた相手って誰? わたしは全然知らない人?」
ずっと気になっていたけど、自分のことで精いっぱい過ぎてすっかり忘れていたのだ。
わたしが何気なく口にした言葉に、ロッカーを漁る音がピタリと止んだ。ロッカーの扉の向こうで、彼女が動きを止めているのが分かる。
「あ、もしかしてわたしの知っている人?」
わたしがそう言うと、森がゆっくりと上体を起こし、ロッカーをパタンと閉めた。
「のんのことは今はええんですぅ……静さんはひとのことを気にしている場合やないですよねぇ?」
「うっ……」
森よ、相変わらず痛いところを突いてくる。
「でもわたしばっかり……ずるいじゃない……」
森よりもずいぶん年上で先輩なのに、散々あんな醜態をさらしたのだ。少しくらい森のことを教えてもらっても、バチは当たらないはずでしょ。
年甲斐もなく頬を膨らませてじっとりと森を見ると、彼女は黒めがちな丸い目をにっこりと細めて言った。
「のんのことはぁ……静さんがぁバッチリ上手くいかはったらぁ、その時には教えますぅ」
「う、うん……」
釈然としないながらも頷くと、森が急にずいっと何かをこちらに突き出した。
「ぬぉっ……、なに!?」
「これどうぞぉ!」
「え、わたしに……?」
差し出されたのは小ぶりな紙袋。それと森の顔を目で往復すると、森が一度頷いてから口を開いた。
「明日頑張ってください! の差し入れですぅ!」
「ありがとう……」
「開けるのは絶対明日にしてくださいねぇ!」
森が口にしたセリフに既視感が湧く。
何が入っているのだろう……。もしかして今度こそゲテモノのつづら、なんてこと……。
「もうっ、静さんっ! のんの念と愛が詰まってるだけですぅ!」
「う、うん……?」
森の“念”って……怨念じゃないのか?
「もうっ! 静さんが上手くいくように、っていう気持ちですぅ! そんなん言うなら返してもらいますよぉっ!」
ぷんすかと頬を膨らませながら紙袋を引っ込めようとする森。
わたしは「ごめんごめん」と謝ってから彼女の手からその紙袋を受け取った。
「ありがとうね、森ちゃん」
「……開けるのは絶対明日ですよぉ?新幹線の中とかあっちで時間が余った時とかぁ!」
「うん、分かった」
今度は素直に頷いたわたしに、森は「絶対絶対ですよ?」と念を押しまくられたあと、「プレゼンも頑張ってくださいね」と言われた。
森よ、完全にそっちはおまけだろう。そう思っていたら、彼女は意外なことを口にした。
「来年は絶対のんが選ばれてみせますぅ!」
お、珍しい……森ちゃんが仕事に目覚めた?
そう思った矢先。
「──で、のんもただで東京に行くんですぅ」
おいっ!そっちが目的かよ!
遊びに行くのじゃないんですけど!?
「……ていうか、森。そもそも本社で最終プレゼンがあるのは今回が特別で、例年だと関西支部で終わりなのよ?」
オリンピックイヤーの今年は、特別な年だからということでグループ全社を挙げた大コンペ大会となったのだけれど、例年だと我が社と【トーマビール】だけの募集。関西支部で“優秀企画”として選ばれたあとは、社内報に載るところで終わりなのだ。
「えっ! そやったんですかぁ!?」
「知らなかったの?」
「はいぃ……」
それもそうか。森はまだ二年目で、去年は新入社員だったからコンペには参加しなかったんだ。
「いいなぁ静さん……課長と東京やなんて……」
ガックリと落ちた森の肩をポンポンと叩くと、ポツリとこぼした声が耳に届いた。
だから森よ……、遊びに行くんじゃないんだってばよっ!!
―――――――――――
ずっと気になっていたけど、自分のことで精いっぱい過ぎてすっかり忘れていたのだ。
わたしが何気なく口にした言葉に、ロッカーを漁る音がピタリと止んだ。ロッカーの扉の向こうで、彼女が動きを止めているのが分かる。
「あ、もしかしてわたしの知っている人?」
わたしがそう言うと、森がゆっくりと上体を起こし、ロッカーをパタンと閉めた。
「のんのことは今はええんですぅ……静さんはひとのことを気にしている場合やないですよねぇ?」
「うっ……」
森よ、相変わらず痛いところを突いてくる。
「でもわたしばっかり……ずるいじゃない……」
森よりもずいぶん年上で先輩なのに、散々あんな醜態をさらしたのだ。少しくらい森のことを教えてもらっても、バチは当たらないはずでしょ。
年甲斐もなく頬を膨らませてじっとりと森を見ると、彼女は黒めがちな丸い目をにっこりと細めて言った。
「のんのことはぁ……静さんがぁバッチリ上手くいかはったらぁ、その時には教えますぅ」
「う、うん……」
釈然としないながらも頷くと、森が急にずいっと何かをこちらに突き出した。
「ぬぉっ……、なに!?」
「これどうぞぉ!」
「え、わたしに……?」
差し出されたのは小ぶりな紙袋。それと森の顔を目で往復すると、森が一度頷いてから口を開いた。
「明日頑張ってください! の差し入れですぅ!」
「ありがとう……」
「開けるのは絶対明日にしてくださいねぇ!」
森が口にしたセリフに既視感が湧く。
何が入っているのだろう……。もしかして今度こそゲテモノのつづら、なんてこと……。
「もうっ、静さんっ! のんの念と愛が詰まってるだけですぅ!」
「う、うん……?」
森の“念”って……怨念じゃないのか?
「もうっ! 静さんが上手くいくように、っていう気持ちですぅ! そんなん言うなら返してもらいますよぉっ!」
ぷんすかと頬を膨らませながら紙袋を引っ込めようとする森。
わたしは「ごめんごめん」と謝ってから彼女の手からその紙袋を受け取った。
「ありがとうね、森ちゃん」
「……開けるのは絶対明日ですよぉ?新幹線の中とかあっちで時間が余った時とかぁ!」
「うん、分かった」
今度は素直に頷いたわたしに、森は「絶対絶対ですよ?」と念を押しまくられたあと、「プレゼンも頑張ってくださいね」と言われた。
森よ、完全にそっちはおまけだろう。そう思っていたら、彼女は意外なことを口にした。
「来年は絶対のんが選ばれてみせますぅ!」
お、珍しい……森ちゃんが仕事に目覚めた?
そう思った矢先。
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おいっ!そっちが目的かよ!
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「……ていうか、森。そもそも本社で最終プレゼンがあるのは今回が特別で、例年だと関西支部で終わりなのよ?」
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「えっ! そやったんですかぁ!?」
「知らなかったの?」
「はいぃ……」
それもそうか。森はまだ二年目で、去年は新入社員だったからコンペには参加しなかったんだ。
「いいなぁ静さん……課長と東京やなんて……」
ガックリと落ちた森の肩をポンポンと叩くと、ポツリとこぼした声が耳に届いた。
だから森よ……、遊びに行くんじゃないんだってばよっ!!
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