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Chapter10*おしゃべりスズメのつづらにご用心?
おしゃべりスズメのつづらにご用心?[1]―②
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弾かれたように晶人さんから距離を取り勢いよく振り向くと、開け放たれた入り口に人影が。
「失礼しまぁす。お飲み物をお持ちいたしましたぁ」
「森ちゃん……」
立っていたのは森だった。彼女はコーヒーカップを乗せたトレーを持っている。
ミーティングの時によくお茶やコーヒーを準備することがあるから、今回もそのつもりだったのだろう。(森ちゃんにしては気が利くじゃない)と、なぜか少しホッとしながら口を開いた。
「ありがとう。でも今ちょうど終わったところなのよ」
「そうなんですかぁ。すみませぇん、ひと足遅かったんですねぇ」
「ううん、ありがとう。折角だから頂くわ」
「俺も頂くよ。ありがとう、森」
「どういたしましてですぅ」
定時までまだ時間はある。就業中ではあるけれど、このあとはコンペの企画を見直すため残業するつもりでいるから、今コーヒーを一杯頂くくらい許されるだろう。定時まではアテンドや諸々の雑事で何だかんだと忙しく、じっくりと企画を考えることは出来ないのだ。
「ところでぇ、静さんってコンペの関西予選、通らはったんですかぁ」
ちゃっかり自分の分まで用意していた森が、両手持ったカップをふぅふぅしながら訊いてきた。さてはこの子、聞いていたな。
チラリと晶人さんの方を見ると、彼も同じことを思ったようで苦笑いしている。
「ええ。今それを聞いたところなの」
「わぁ、ほんまですかぁ!おめでとうございますぅ」
「ありがとう。でもまだ本選があるから」
「静さんならいけますってぇ。あの企画ぅ、すんごいよう出来てはりましたもぉん」
「ありがとう」
森が珍しくストレートに褒めてくれたわたしの企画のタイトルは、
【作ってよし飲んでよし!そうでなくても、推してよし!!】
文字通り、ツアー見学者にオリジナルカクテルを作って貰おうというものだ。
例年なら我が社と【トーマビール】だけで行っているこの社内コンペは、今回は大々的にグループ全体で行うことになった。五輪企画の販売促進的な側面もあるらしい。
【Tohma】全体で企画が作れるというのなら――と、わたしはグループ内で取り扱うありとあらゆる商品――ビールをはじめとした酒類、ノンアルコール、飲料、乳製品、食品など――を使い、お客様に自分の好きなカクテルを作って貰おうと考えたのだ。
通常のツアーは試飲時間も含めて一回九十分。けれど、この企画ツアーではカクテルを作る時間も加えて百二十分と少し長め。
参加者が作ったオリジナルカクテルのレシピを、ご本人の許可のもとHPやSNSに載せて、『いいね』を押すだけで誰でも気軽に投票出来るようにする。文字通り『推し』を『押して』もらおう、というもの。
これを機に、普段ビールを飲まない人にも楽しんでもらえたらいいなと思い企画案を作った。
実は、関西工場内の選考で選ばれて関西支部の予選に行くまでの期間、ブラッシュアップをする時にアキのことが頭に浮かんだのだ。
彼みたいにビールが苦手な人でも、楽しく工場見学に参加出来たらいいな、そう思ったのだ。
あの時はまさか、自分が彼と付き合うことになるなんて、微塵も思っていなかったのに。
「静さん?」
「え、あ、」
「どないしはったんですかぁ、ぼんやりしはってぇ」
「え、いや……
「もう、静さんったらぁ。ボケるにはぁちょっと早すぎますよぉ」
こら森。相変わらず要らぬことを言う。今すぐそのお口に、ガムテープを貼ってやろうか。
ジロリと横目で睨んでみたら、「冗談ですよぉ」と笑って誤魔化される。
「でもお疲れなんじゃないですかぁ?最近あくびしてはるとこぉ、よく見かけますけどぉ」
ドキッとした。最近寝不足なのは事実だからだ。
あれからアキがうちに来るのは夜遅い時間が多く、うちで夕飯を取ることはないけれど、なんだかんだで『ビール克服協力』は続いていて――。
関西支部でのプレゼンがあった日。アキが『ご褒美』と言ってくれた“麹ビール”は、その次にアキが来た時に一緒に飲んだ。
ハッキリ言って、ものすごく美味しかった。
苦みが少なくあっさりとしているのに、フルーティ。
ビールだけどビールじゃない。白ワインのような香りを感じつつも、麹を使っているから日本酒スパークリングのようでもあり。
あと口には、ほのかに感じる麹の甘みと香りが口の中に余韻を残す。
これなら、ビールが苦手な人でも飲みやすいと思うし、料理の邪魔をしないから、和食やフレンチなど合わせてもいいだろう。
『美味しいな、これ……』
アキが思わずそう呟いたのも肯けた。
(『ビール克服』の日も近いかもね……)
克服までもうひと息、というところまで来ている気がする。
だけど肝心な『トーマビール』が美味しく飲めるようにならないと意味がない。
(『ビール克服』は大事なのだけど……、あれが結構曲者なのよね……。大人しくビールを飲むだけにしておいてくれたら、もうちょっと早く寝られると思うのに……)
睡眠不足の原因は明らか――詳しくは訊かないで!
我が家でのアキとの甘い時間が脳裏に映りかけて、慌てて意識を隣に戻す。
「心配ありがとね。森ちゃんの企画も面白かったなぁって思ってただけよ」
「やだぁ、静さんったら。のんの企画なんて全然やったのにぃ。そないに褒めてもろうても、今は飴ちゃん持っとらんのですわぁ」
『飴ちゃん』て。大阪のおばちゃんかいな!
いや、未来の大阪のおばちゃんか。
とか言ったらきっとピーピーとうるさくなることは間違いない。ここはお口をチャックだわ。
「でも、二年目にして工場の最終候補には残るなんてすごいと思うわよ?」
「そうですかねぇ」
実は森も、この工場の代表選考の最終候補者だったのだ。
彼女が考えたのは、【家でも外でもみんなで乾杯】という企画。
HPやSNSで“乾杯”をする動画を募集し、応募のあった動画から採用されたものを編集して工場見学の試飲の時にスクリーンに映し出しながら、その場の全員で一緒に“乾杯”をするというもの。
最後の最後で落選はしたものの、わたしには思い浮かばないような斬新なアイディアで、さすが若者は違うと感心したのだった。
「失礼しまぁす。お飲み物をお持ちいたしましたぁ」
「森ちゃん……」
立っていたのは森だった。彼女はコーヒーカップを乗せたトレーを持っている。
ミーティングの時によくお茶やコーヒーを準備することがあるから、今回もそのつもりだったのだろう。(森ちゃんにしては気が利くじゃない)と、なぜか少しホッとしながら口を開いた。
「ありがとう。でも今ちょうど終わったところなのよ」
「そうなんですかぁ。すみませぇん、ひと足遅かったんですねぇ」
「ううん、ありがとう。折角だから頂くわ」
「俺も頂くよ。ありがとう、森」
「どういたしましてですぅ」
定時までまだ時間はある。就業中ではあるけれど、このあとはコンペの企画を見直すため残業するつもりでいるから、今コーヒーを一杯頂くくらい許されるだろう。定時まではアテンドや諸々の雑事で何だかんだと忙しく、じっくりと企画を考えることは出来ないのだ。
「ところでぇ、静さんってコンペの関西予選、通らはったんですかぁ」
ちゃっかり自分の分まで用意していた森が、両手持ったカップをふぅふぅしながら訊いてきた。さてはこの子、聞いていたな。
チラリと晶人さんの方を見ると、彼も同じことを思ったようで苦笑いしている。
「ええ。今それを聞いたところなの」
「わぁ、ほんまですかぁ!おめでとうございますぅ」
「ありがとう。でもまだ本選があるから」
「静さんならいけますってぇ。あの企画ぅ、すんごいよう出来てはりましたもぉん」
「ありがとう」
森が珍しくストレートに褒めてくれたわたしの企画のタイトルは、
【作ってよし飲んでよし!そうでなくても、推してよし!!】
文字通り、ツアー見学者にオリジナルカクテルを作って貰おうというものだ。
例年なら我が社と【トーマビール】だけで行っているこの社内コンペは、今回は大々的にグループ全体で行うことになった。五輪企画の販売促進的な側面もあるらしい。
【Tohma】全体で企画が作れるというのなら――と、わたしはグループ内で取り扱うありとあらゆる商品――ビールをはじめとした酒類、ノンアルコール、飲料、乳製品、食品など――を使い、お客様に自分の好きなカクテルを作って貰おうと考えたのだ。
通常のツアーは試飲時間も含めて一回九十分。けれど、この企画ツアーではカクテルを作る時間も加えて百二十分と少し長め。
参加者が作ったオリジナルカクテルのレシピを、ご本人の許可のもとHPやSNSに載せて、『いいね』を押すだけで誰でも気軽に投票出来るようにする。文字通り『推し』を『押して』もらおう、というもの。
これを機に、普段ビールを飲まない人にも楽しんでもらえたらいいなと思い企画案を作った。
実は、関西工場内の選考で選ばれて関西支部の予選に行くまでの期間、ブラッシュアップをする時にアキのことが頭に浮かんだのだ。
彼みたいにビールが苦手な人でも、楽しく工場見学に参加出来たらいいな、そう思ったのだ。
あの時はまさか、自分が彼と付き合うことになるなんて、微塵も思っていなかったのに。
「静さん?」
「え、あ、」
「どないしはったんですかぁ、ぼんやりしはってぇ」
「え、いや……
「もう、静さんったらぁ。ボケるにはぁちょっと早すぎますよぉ」
こら森。相変わらず要らぬことを言う。今すぐそのお口に、ガムテープを貼ってやろうか。
ジロリと横目で睨んでみたら、「冗談ですよぉ」と笑って誤魔化される。
「でもお疲れなんじゃないですかぁ?最近あくびしてはるとこぉ、よく見かけますけどぉ」
ドキッとした。最近寝不足なのは事実だからだ。
あれからアキがうちに来るのは夜遅い時間が多く、うちで夕飯を取ることはないけれど、なんだかんだで『ビール克服協力』は続いていて――。
関西支部でのプレゼンがあった日。アキが『ご褒美』と言ってくれた“麹ビール”は、その次にアキが来た時に一緒に飲んだ。
ハッキリ言って、ものすごく美味しかった。
苦みが少なくあっさりとしているのに、フルーティ。
ビールだけどビールじゃない。白ワインのような香りを感じつつも、麹を使っているから日本酒スパークリングのようでもあり。
あと口には、ほのかに感じる麹の甘みと香りが口の中に余韻を残す。
これなら、ビールが苦手な人でも飲みやすいと思うし、料理の邪魔をしないから、和食やフレンチなど合わせてもいいだろう。
『美味しいな、これ……』
アキが思わずそう呟いたのも肯けた。
(『ビール克服』の日も近いかもね……)
克服までもうひと息、というところまで来ている気がする。
だけど肝心な『トーマビール』が美味しく飲めるようにならないと意味がない。
(『ビール克服』は大事なのだけど……、あれが結構曲者なのよね……。大人しくビールを飲むだけにしておいてくれたら、もうちょっと早く寝られると思うのに……)
睡眠不足の原因は明らか――詳しくは訊かないで!
我が家でのアキとの甘い時間が脳裏に映りかけて、慌てて意識を隣に戻す。
「心配ありがとね。森ちゃんの企画も面白かったなぁって思ってただけよ」
「やだぁ、静さんったら。のんの企画なんて全然やったのにぃ。そないに褒めてもろうても、今は飴ちゃん持っとらんのですわぁ」
『飴ちゃん』て。大阪のおばちゃんかいな!
いや、未来の大阪のおばちゃんか。
とか言ったらきっとピーピーとうるさくなることは間違いない。ここはお口をチャックだわ。
「でも、二年目にして工場の最終候補には残るなんてすごいと思うわよ?」
「そうですかねぇ」
実は森も、この工場の代表選考の最終候補者だったのだ。
彼女が考えたのは、【家でも外でもみんなで乾杯】という企画。
HPやSNSで“乾杯”をする動画を募集し、応募のあった動画から採用されたものを編集して工場見学の試飲の時にスクリーンに映し出しながら、その場の全員で一緒に“乾杯”をするというもの。
最後の最後で落選はしたものの、わたしには思い浮かばないような斬新なアイディアで、さすが若者は違うと感心したのだった。
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