転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
40 / 167
第1章 民間伝承研究部編

転生遺族のスタート8

しおりを挟む
 その日、縦軸はていりたちより少し遅れて部室にやってきた。

「……あの!」
「どうしたの?虚君」

「僕は覚悟を決めました。三角さん、先輩、姉さんを連れ戻したいです。力を貸してください」

 どこか軽くなったような様子の縦軸は彼女たちに頭を下げた。足下には校舎のフローリングの床が広がっていた。

 それが変わったのは一瞬の出来事であった。ワックスの塗られた木製の床はたちまち石畳に、顔を見上げると、広がっていたのは地球のそれでは無い景色だった。これを見せられるのは彼女しかいない。

「ねえ縦軸君」

 微は目を細め、歯を見せてあまりにも眩しい微笑みにおいて、縦軸に語りかけた。

「私ね、嬉しかったんだ。自分でも分かってた。私がスキルのこと話したって対たちは信じてくれてなかったって」
「先輩……」
「縦軸君はさ、私のこと信じてくれた上にスキルのレベル上げまで手伝ってくれた。それは全部〈転生師トラックメイカー〉があったからかもしれない。でもね、こんなに私のことを助けてくれたんだから、今度は助けたいって思うに決まってるよ」

 〈天文台〉で見る風景は当初は視覚でしか感じられなかった。しかし今は、レベルを上げたからか、音も香りも肌に当たる風すらも伝わってくる。なのに、それらが何故か縦軸には伝達されていないように感じた。微の言葉だけが頭の中に堂々と仁王立ちをしていて、彼の視界には微の姿だけが鮮明に見えていた。

 傾子が言っていた。もっと友達を頼れと。それは確かに縦軸を突き動かしてくれた。かけがえのない起爆剤だ。
 しかし一方で少し不安もあった。ここでていりたちに助けを求めても、傾子の言葉という虎の威を借りているだけなのではないか。傾子がそう言っていたから、ていりたちは自分を助ける。それではあまりにも彼の望みとかけ離れている。故にまだ欲しかったのだ。彼女たちから、もっと自分が前に出るための初速度が。そうやって縦軸が望んでいたそれを、微は惜しげもなく与えてくれた。そのことが縦軸にとって、この上なく嬉しくもあり、この上なく情けなくも思われた。

「虚君」

 そんな彼にていりは声をかける。

「私はね、人付き合いが苦手なの。だから人に頼るのも苦手だし自分の気持ちもうまく話せない。だけどね、そんな人間は私だけで十分なの。虚君はもっと人と繋がりなさい」
「三角さん……ありがとう」

「決まりだね」

 微がそう言うと再び彼らは部室にいた。起承転結が無く、それでいて全てが面白い。遊園地で遊んでいたら突然帰りの時間になってしまったようなこの感覚は、いつも少し寂しい。

「縦軸君、あのね、お願いがあるの」

 自分よりも背の高い縦軸の顔を覗き込みながら微は縦軸にお願いを始めた。

「私ね、またお母さんに会いたい」
「傾子さんに?」
「そうだよ。だって縦軸君言ってくれたでしょ?『私がお母さんとまた会えるように頑張る』って」
「はい、確かに言いましたね。」
「では部長として命令です!私とお母さんを感動の再会させなさいっ!」
「……はい」

 真面目なのか楽しませているのかよく分からない。そんな微を見ていて縦軸が笑顔になるのは、何故だかずっと前から同じだったようである。

「虚君」

 2人の間に割って入るていり。

「時々でいいから、私を頼ってもいいのよ?いい?私だって虚君の味方だからね?」
「三角さん、近い近い近い」


「おーい!ちょっとドア開けてー!」

 部室のドアの向こうからよく知った声が聴こえてきた。縦軸がドアを開ける。

「急にどうしt……うおっ!何だよその本⁉︎」

 そこにいたのは、大量の本を重そうに抱え、脚をプルプルさせている音だった。

「よっと!はあ、はあ、参考に、なるかもしれないから、持ってきたわよ」

『マンガでわかる!中世ヨーロッパ』
『カトリック世界のすべて』
『古代ローマから考える西洋の勢力図』

 その他にも似た系統の書籍が堆く積まれている。これらを全て読めば世界史のテストでは敵なしだろう(国や時代が違えば話は別である)。

「十二乗……これ、どうしたの?」
「家にあったやつで参考になりそうなのを片っ端から持ってきたのよ。先輩の見せた景色、大体こんな感じでしょ?あの両親の追及を全て躱しきった私に感謝しなさい!」
「でも……どうして?」
「あんたが言いだしたんでしょ。それに私は、反対するなんて一言も言ってないわよ。協力してあげるんだからお礼ぐらい言ったらどうなの?」
「……うん、そうだね。ありがとう」
「、、、、、!そ、そんな素直になれるなんて聞いてないわよ!そもそも笑顔見せるなんてらしくないわ!いつもみたいに人付き合いに怯えてびくびくしてなさいよ!」
「いや待て!何で素直にお礼言ったら叱られる羽目になるんだ⁉︎」
「うっさい!あんたのキャラに合わないのよ!全く、何でこんな奴が……」

 その後音がなんと言ったのか縦軸には聞き取れなかった。ただ、何故かその後音はしばらく目を合わせてくれなかった。


 その後、音は軽音部とも兼部していると言って部室を後にした。取り残された部屋で、縦軸は徐にていりと微へある疑問を吐き出した。

「ねえ、三角さん、先輩」
「何かしら?」
「なになに?」
「三角さんや先輩は……その……僕の、友達なのかな?」
「「え?」」
「この前、十二乗と作子に言われたんだ。2人は僕の友達だって。その……合ってるかな?」
「「……」」

 その沈黙が縦軸には苦しい。

「ああその、ええっと、ごめん!こんな質問急にして。変だよね?忘れてもらって……」
「虚君」
「縦軸君」

 ていりと微が縦軸に限りなく近づく。まるで彼の目の瞳孔が動くのを観察しようとしているのかと言わんばかりの距離だ。

「私たちは虚君の友達よ。」
「当たり前なのです!わざわざ訊かんでいのです!」

「え……ええっと?」

 いつもより語気が強い。彼女たちとの間に存在する僅かな大気の層が振り回されているようだ。そして2人はそれ以上何も言わず、椅子に座り直した。

 ていりは音の置いて行った本を読み始め、微は明後日の方角を見つめ始めた。きっと〈天文台〉を使っているのだろう。

 呆気にとられていた縦軸には、ていりの表情筋が何かを堪えるように固くなっていたことも、微がこれ以上無いほどニヤついていることも、気づくことはできなかった。

 勇者や英雄ヒーローと呼ばれる者たちの物語では、仲間を集めるところから始まるものも少なくない。
 仲間が集結し、やっと固い絆で結ばれた縦軸にとってここをスタートラインにしてもいいのかもしれない。止まっていた何か、時間ではないであろうもの、が動き出した地点と言う意味で。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

恋してしまった、それだけのこと

雄樹
恋愛
小学3年生の女の子が、母の妹に恋をした。 星野未来(ほしのみく)は、母の妹である水瀬沙織(みなせさおり)に恋をした。 出会ったとき、未来は8歳。 沙織は20歳の大学生だった。 優しくて、少し不器用で、どこか寂しそうなその人が好きな人は、私ではなく…私の「母」だった。 一生でたったひとつの初恋。 言葉にできない想いを抱えたまま、少女は季節を重ねていく。 あなたは私の叔母で。 あなたは私と同性で。 あなたは私と12歳も歳が離れていて。 あなたが好きな人は…私じゃなくて。 それでも、この初恋を諦めることは出来なかった。 これは、ひとりの少女の、恋のはじまりと記憶の物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...