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57.販売
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薄曇りの早朝、大翔と俺が今日市場で売るおむすびとサンドイッチの仕込みを終わらせたタイミングで、ドアがノックされた。
「はーい」
大翔がドアを開けると、大きなカバンを斜めにかけた、ポールとステラが立っていた。
「おはよう! 大翔! 健!」
「おはよう、ポール君、ステラちゃん」
ポールとステラは真剣な顔で大翔と俺に言った。
「改めて、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
大翔は笑顔で頷くと「僕たちも準備するから、ちょっと待ってて」と言った。
「さあ、行こうか」
「ああ」
俺たちは市場に着くとポールとステラ、俺と大翔の二組に分かれることにした。
「ポール君とステラちゃんは、市場の入り口の近くの場所で売ると良いと思う。最初は一緒に売ろうか?」
ポールが真剣な顔で頷いた。
「わかった。頼む」
ポールとステラは入り口付近の空いている場所にカバンを下ろすと、手にパンケーキの包みと、お茶を入れた筒を持って声を上げた。
「いらっしゃいませ! バターと蜂蜜をはさんだ美味しいパンケーキはこちらで買えます! いかがですか!?」
「おいしいパンケーキです! 飲み物もあります!」
人が集まってきた。
「パンケーキ? うまいのか?」
通りがかりのおじさんがポールに聞いた。
「はい! バターと蜂蜜の味がして、美味しいです」
ポールの言葉を聞き、おじさんは少し考えた後で言った。
「じゃあ、パンケーキを一つくれ」
「はい! 飲み物も一緒にいかがですか? お茶がありますよ」
「そうだな、一緒にもらおうかな? 合わせていくらだ?」
「パンケーキが銅貨20枚、お茶が銅貨10枚です」
ステラが言うと、ポールが言葉を続けた。
「合わせて、銅貨30枚です!」
おじさんはポールにお金を渡すとパンケーキとお茶を受け取った。
「ありがとうございました!」
おじさんが見えなくなると、ステラが嬉しそうに言った。
「お兄ちゃん! 売れたね!」
「ああ!」
嬉しそうに微笑む二人を見て、俺たちは少し安心した。
「大丈夫そうだね。それじゃ、僕たちもおむすびとサンドイッチを売りに行くよ。あんまり近くだとお客さんの取り合いになっちゃうかもしれないから、僕たちは、すこし向こう側に行くね」
大翔がポールに言った。
「分かった」
ポールは笑顔で頷く。
「頑張れよ」
俺が言うとポールは右手を握りしめて胸に当てた。
「ああ!」
「お兄ちゃん、またお客さんだよ!」
「あ、いらっしゃいませ」
大翔と俺はポールたちのパンケーキが売れ始めたのをほっとした気持ちで見つめた。
「さあ、俺たちはあっちに行って商売を始めるか」
「うん」
俺たちのおむすびとサンドイッチの残りが半分になった頃、ポールたちのいる方から騒ぐ声が聞こえてきた。
「なにかあったのかな?」
「行ってみよう」
俺たちが市場の入り口近づくと、男性の声が聞こえてきた。
「おい! お前らの売ったパンケーキに虫が入っていたぞ!? 金を帰せ! 慰謝料をよこせ!!」
「そんなはずありません!」
「これが証拠だよ! ほら、パンケーキに虫が挟まってるだろ?」
「そんな……!」
ポールの声も聞こえる。俺たちは人だかりの中心に向かって、人をかき分けて進んで行った。
「どうした? 何があった?」
「健……! この人が俺たちのパンケーキに虫が入っていたって……! 言いがかりなんだ!!」
「おい! お客様に向かってなんて言い方だ!? 虫を食わせたんだから、責任をとるのは当然だろうが!!」
俺たちは男の持っていたパンケーキと、そのなかに挟まれた虫を見て首をかしげた。
「なあ、この虫って、木の葉っぱについてるような虫だよな? 家の中で作ってるパンケーキに挟まるってるのって不自然じゃないか?」
「うん」
俺と大翔が疑惑の目を向けると、男がキッと俺を睨んだ。
「俺が嘘をついてると言うのかよ!?」
ポールが男に向かって言った。
「俺たちはちゃんと掃除した家の中で、手も洗って、パンケーキを作ったんだ! 虫が入るはずなんてない!」
俺たちが男をみると、男は大声で喚いた。
「いいから、金をよこせよ! 俺が虫を食べてたら、どうやって責任取るんだよ!?」
「本当に虫が最初から入っていたんですか?」
大翔が男の目を見て尋ねた。
男は大翔を見て、にやにや笑いながら言った。
「俺が嘘をついてるって証拠があるのか?」
俺たちが困り果てていると、聞いたことのある声がした。
「あれ? またなんかトラブル起こしてるの、お前」
「……ジーンさん!」
「あっ!?」
男は顔色を変え、「もういい、見逃してやる」と言ってその場を去ろうとした。
「はい、ちょっと待って。あんた、この前も市場でいちゃもんつけて金を巻き上げようとしてたよね。出禁、って言われたの忘れちゃった?」
ジーンさんは男の腕をつかんでひねり上げた。
「痛っ! 離せ!」
「もう、ここには来ないって約束できる?」
ジーンさんの目は笑っていなかった。男が渋い顔で吐き出すように言った。
「わかったよ、もうしねえよ」
「はい」
ジーンが手を離すと、男は反動でよろけた。
「今度騒ぎを起こしたら、こんな程度じゃすまないからね?」
「クソッ」
男が逃げ出すと、ジーンは俺たちに言葉をかけた。
「変なのに絡まれちゃったね? 大丈夫?」
「はい」
「助かりました」
俺と大翔がお礼を言うと、ポールとステラもジーンに頭を下げた。
「ありがとう」
「じゃあ、気を付けて商売頑張って」
ジーンは手を振ってその場を離れた。
「じゃあ、また販売はじめるか」
「うん。さっきのこともあるし……今日はもう、ポール君とステラちゃんと一緒に売ろう」
「迷惑かけて悪い」
ポールが眉を八の字にして俺たちに頭を下げた。
「気にしないで。さあ、気持ちを入れ替えて頑張ろう! 美味しいお弁当はいかがですか?」
大翔の明るい声を聞いて、俺も顔を上げた。
「おいしいおむすび、サンドイッチ、パンケーキです!」
俺も声を出した。
徐々にお客さんが戻ってきて、短い列ができた。
「パンケーキ一つ!」
「ありがとうございます!」
いつもより時間はかかったが、俺たちもポールたちも、もってきたものをすべて売り切ることができた。
「さあ、ジーンさんにお礼を言ったら、一度宿に帰ろう」
「そうだな」
俺たち四人は市場を後にした。
「はーい」
大翔がドアを開けると、大きなカバンを斜めにかけた、ポールとステラが立っていた。
「おはよう! 大翔! 健!」
「おはよう、ポール君、ステラちゃん」
ポールとステラは真剣な顔で大翔と俺に言った。
「改めて、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
大翔は笑顔で頷くと「僕たちも準備するから、ちょっと待ってて」と言った。
「さあ、行こうか」
「ああ」
俺たちは市場に着くとポールとステラ、俺と大翔の二組に分かれることにした。
「ポール君とステラちゃんは、市場の入り口の近くの場所で売ると良いと思う。最初は一緒に売ろうか?」
ポールが真剣な顔で頷いた。
「わかった。頼む」
ポールとステラは入り口付近の空いている場所にカバンを下ろすと、手にパンケーキの包みと、お茶を入れた筒を持って声を上げた。
「いらっしゃいませ! バターと蜂蜜をはさんだ美味しいパンケーキはこちらで買えます! いかがですか!?」
「おいしいパンケーキです! 飲み物もあります!」
人が集まってきた。
「パンケーキ? うまいのか?」
通りがかりのおじさんがポールに聞いた。
「はい! バターと蜂蜜の味がして、美味しいです」
ポールの言葉を聞き、おじさんは少し考えた後で言った。
「じゃあ、パンケーキを一つくれ」
「はい! 飲み物も一緒にいかがですか? お茶がありますよ」
「そうだな、一緒にもらおうかな? 合わせていくらだ?」
「パンケーキが銅貨20枚、お茶が銅貨10枚です」
ステラが言うと、ポールが言葉を続けた。
「合わせて、銅貨30枚です!」
おじさんはポールにお金を渡すとパンケーキとお茶を受け取った。
「ありがとうございました!」
おじさんが見えなくなると、ステラが嬉しそうに言った。
「お兄ちゃん! 売れたね!」
「ああ!」
嬉しそうに微笑む二人を見て、俺たちは少し安心した。
「大丈夫そうだね。それじゃ、僕たちもおむすびとサンドイッチを売りに行くよ。あんまり近くだとお客さんの取り合いになっちゃうかもしれないから、僕たちは、すこし向こう側に行くね」
大翔がポールに言った。
「分かった」
ポールは笑顔で頷く。
「頑張れよ」
俺が言うとポールは右手を握りしめて胸に当てた。
「ああ!」
「お兄ちゃん、またお客さんだよ!」
「あ、いらっしゃいませ」
大翔と俺はポールたちのパンケーキが売れ始めたのをほっとした気持ちで見つめた。
「さあ、俺たちはあっちに行って商売を始めるか」
「うん」
俺たちのおむすびとサンドイッチの残りが半分になった頃、ポールたちのいる方から騒ぐ声が聞こえてきた。
「なにかあったのかな?」
「行ってみよう」
俺たちが市場の入り口近づくと、男性の声が聞こえてきた。
「おい! お前らの売ったパンケーキに虫が入っていたぞ!? 金を帰せ! 慰謝料をよこせ!!」
「そんなはずありません!」
「これが証拠だよ! ほら、パンケーキに虫が挟まってるだろ?」
「そんな……!」
ポールの声も聞こえる。俺たちは人だかりの中心に向かって、人をかき分けて進んで行った。
「どうした? 何があった?」
「健……! この人が俺たちのパンケーキに虫が入っていたって……! 言いがかりなんだ!!」
「おい! お客様に向かってなんて言い方だ!? 虫を食わせたんだから、責任をとるのは当然だろうが!!」
俺たちは男の持っていたパンケーキと、そのなかに挟まれた虫を見て首をかしげた。
「なあ、この虫って、木の葉っぱについてるような虫だよな? 家の中で作ってるパンケーキに挟まるってるのって不自然じゃないか?」
「うん」
俺と大翔が疑惑の目を向けると、男がキッと俺を睨んだ。
「俺が嘘をついてると言うのかよ!?」
ポールが男に向かって言った。
「俺たちはちゃんと掃除した家の中で、手も洗って、パンケーキを作ったんだ! 虫が入るはずなんてない!」
俺たちが男をみると、男は大声で喚いた。
「いいから、金をよこせよ! 俺が虫を食べてたら、どうやって責任取るんだよ!?」
「本当に虫が最初から入っていたんですか?」
大翔が男の目を見て尋ねた。
男は大翔を見て、にやにや笑いながら言った。
「俺が嘘をついてるって証拠があるのか?」
俺たちが困り果てていると、聞いたことのある声がした。
「あれ? またなんかトラブル起こしてるの、お前」
「……ジーンさん!」
「あっ!?」
男は顔色を変え、「もういい、見逃してやる」と言ってその場を去ろうとした。
「はい、ちょっと待って。あんた、この前も市場でいちゃもんつけて金を巻き上げようとしてたよね。出禁、って言われたの忘れちゃった?」
ジーンさんは男の腕をつかんでひねり上げた。
「痛っ! 離せ!」
「もう、ここには来ないって約束できる?」
ジーンさんの目は笑っていなかった。男が渋い顔で吐き出すように言った。
「わかったよ、もうしねえよ」
「はい」
ジーンが手を離すと、男は反動でよろけた。
「今度騒ぎを起こしたら、こんな程度じゃすまないからね?」
「クソッ」
男が逃げ出すと、ジーンは俺たちに言葉をかけた。
「変なのに絡まれちゃったね? 大丈夫?」
「はい」
「助かりました」
俺と大翔がお礼を言うと、ポールとステラもジーンに頭を下げた。
「ありがとう」
「じゃあ、気を付けて商売頑張って」
ジーンは手を振ってその場を離れた。
「じゃあ、また販売はじめるか」
「うん。さっきのこともあるし……今日はもう、ポール君とステラちゃんと一緒に売ろう」
「迷惑かけて悪い」
ポールが眉を八の字にして俺たちに頭を下げた。
「気にしないで。さあ、気持ちを入れ替えて頑張ろう! 美味しいお弁当はいかがですか?」
大翔の明るい声を聞いて、俺も顔を上げた。
「おいしいおむすび、サンドイッチ、パンケーキです!」
俺も声を出した。
徐々にお客さんが戻ってきて、短い列ができた。
「パンケーキ一つ!」
「ありがとうございます!」
いつもより時間はかかったが、俺たちもポールたちも、もってきたものをすべて売り切ることができた。
「さあ、ジーンさんにお礼を言ったら、一度宿に帰ろう」
「そうだな」
俺たち四人は市場を後にした。
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