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67.婚約準備
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シェリーが目を覚まし、ぼんやりしているとドアがノックされた。
「おはようございます、シェリー様。お手紙が届いております」
「おはよう。扉を開けて大丈夫ですよ」
ドアが静かに開けられ、メイドが頭を下げて部屋に入ってきた。
「こちらです」
「ありがとう」
メイドはお辞儀をして部屋から出て行った。
「……アシュトン様からだわ」
シェリーは手紙を開けた。
『手紙をありがとうございました。私も婚約の日が待ち遠しいです。父からカルロス様へお伝えしていると思いますが、私も国から婿入り、婚約の許可を得ることが出来ました。後はお会いして手続きを行うだけですね。お会いできる日が楽しみです。アシュトン』
手紙を読み終えたシェリーは、アシュトンの丁寧な文字を指でなぞり、優しく微笑んだ。
「アシュトン様、はやくお会いしたい……」
シェリーは手紙を封筒に戻し、机の引き出しにしまった。
ドアがノックされ、メイドが声をかける。
「シェリー様、朝食の用意が出来ました」
「今行きます」
シェリーは軽やかな足取りで食堂に向かった。
食堂には、すでにカルロスとグレイスがいて、何か話をしている。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはよう、シェリー」
カルロスがシェリーに顔を向け、挨拶をするとグレイスもシェリーを見た。
「気持ちのいい朝ね」
「ええ」
シェリーも席に着くと、スープとパンが運ばれてきた。
食前の祈りをささげてから、カルロスが言った。
「さあ、食べようか」
「いただきます」
オムレツやサラダが並べられ、シェリーがそれに手を伸ばした時、カルロスが言った。
「今日、シリル・クラーク子爵から手紙が届いた。あちらも婚約の準備が整ったらしい。再来週の終わりに、クラーク家を我が家に招待したいと思っている」
「分かりました、あなた。ドレスも早めにできそうだと職人から連絡があったと聞きましたし、準備は順調ですね。シェリー、婚約の日が楽しみね」
シェリーは口元をナプキンで抑えてから返事をした。
「ええ、でも少し緊張していますわ」
食事を終え部屋に戻ると、シェリーはもう一度アシュトンからの手紙を読んだ。そして、窓を開け、外を眺める。木々は生き生きとした緑が濃くなり、空の青さも目に心地よい。
シェリーは目を閉じて、春の柔らかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
一週間後の午後のお茶の時間に、シェリーはグレイスから呼ばれた。職人が出来上がったドレスを持ってきたらしい。
シェリーが広間に行くと、グレイスとドレス職人のバリーがにこやかに話していた。
「ああ、シェリー、やっと来たのね」
「シェリー様、こちらのドレスです。どうぞ、お試しください」
「ええ、ありがとう」
メイドが広間の隅に衝立をならべる。シェリーはその陰に隠れる。メイドがシェリーを出来上がったばかりのドレスへと着替えさせる。シェリーは静々と衝立の影から姿を現した。
「どうかしら? お母様?」
「綺麗よ、シェリー」
バリーが大きな鏡をシェリーの前に運んできた。シェリーは鏡の中の自分を見つめて、目を見開いた。
「想像以上です。すこし胸元が大胆に広がっているけれど、首が美しく見えるわ。華やか過ぎず、大人し過ぎず、品があって素敵なデザインですね」
シェリーの喜びを受け、バリーはお辞儀をした。
「ありがとうございます」
シェリーは広間の中を歩いた後、くるりと回ってみた。新しいドレスは体にぴったりと合っているけれど、動きやすい。窓から入ってくる光を受けた薄紅色の生地が、優しい光沢を放っている。
「バリーさん、素敵なドレスを作ってくださってありがとうございます」
「シェリー様に気に入っていただけて、嬉しく思います」
シェリーはまた衝立の裏に隠れ、メイドに元のドレスへと着替えさせてもらった。
メイドに新しいドレスを渡すと、シェリーはグレイスのそばへ移動した。
「お母様、アシュトン様はこのドレスを気に入ってくださるかしら?」
「ええ、きっと」
グレイスは執事に何かを伝え、バリーと執事が話し始めた。
「さあ、シェリー。新しいドレスも出来たし、あとは婚約の日を待つだけね」
「はい、お母様」
シェリーは新しいドレスをまとった自分を見て、アシュトンがどんな顔をするか想像してみた。ひょっとしたら、新しいドレスだと気づかないかしら? と思ってシェリーは苦笑した。
「それで、グレイス様、シェリー様、結婚式のドレスのデザインのイメージ画もいくつかお持ちいたしましたが、新郎様はいかがいたしましょうか?」
「「……あ」」
グレイスとシェリーは顔を見合わせた。アシュトンの服装まで気が回っていなかったことに気づいた二人は唖然とした後、笑ってしまった。
「なんてことかしら。私達ったらドレスのことしか考えていなかったなんて」
シェリーはそう言って、グレイスの目をちらりと覗く。
「ええ、本当に。気の利かないこと」
グレイスは、アシュトンのフロックコートの採寸を頼みたいとバリーに言った。婚約の翌日なら、時間がとれるはずだ、とも。バリーは了承し、屋敷を後にした。
グレイスが独り言のように言った。
「さあ、お父様にアシュトン様の予定を抑えていただきましょう。婚約の日の招待状を書き終えていなければ良いのですけれども」
グレイスがカルロスの部屋に急ぎ足で向かうのをシェリーは見送った。
シェリーは出来上がったばかりのドレスをもう一度見たいとメイドに言い、持ってきてもらうと体にあてて鏡に映した。
シェリーの月明りを思わせるような淡い金色の髪と、薄紅色のドレスは見事に調和している。シェリーはくすぐったいような気持になって微笑んだ後、小さくつぶやいた。
「アシュトン様も気に入ってくださると良いけれど……」
シェリーはメイドにドレスを衣裳室に運ぶように頼んで、自分の部屋に戻った。
「おはようございます、シェリー様。お手紙が届いております」
「おはよう。扉を開けて大丈夫ですよ」
ドアが静かに開けられ、メイドが頭を下げて部屋に入ってきた。
「こちらです」
「ありがとう」
メイドはお辞儀をして部屋から出て行った。
「……アシュトン様からだわ」
シェリーは手紙を開けた。
『手紙をありがとうございました。私も婚約の日が待ち遠しいです。父からカルロス様へお伝えしていると思いますが、私も国から婿入り、婚約の許可を得ることが出来ました。後はお会いして手続きを行うだけですね。お会いできる日が楽しみです。アシュトン』
手紙を読み終えたシェリーは、アシュトンの丁寧な文字を指でなぞり、優しく微笑んだ。
「アシュトン様、はやくお会いしたい……」
シェリーは手紙を封筒に戻し、机の引き出しにしまった。
ドアがノックされ、メイドが声をかける。
「シェリー様、朝食の用意が出来ました」
「今行きます」
シェリーは軽やかな足取りで食堂に向かった。
食堂には、すでにカルロスとグレイスがいて、何か話をしている。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはよう、シェリー」
カルロスがシェリーに顔を向け、挨拶をするとグレイスもシェリーを見た。
「気持ちのいい朝ね」
「ええ」
シェリーも席に着くと、スープとパンが運ばれてきた。
食前の祈りをささげてから、カルロスが言った。
「さあ、食べようか」
「いただきます」
オムレツやサラダが並べられ、シェリーがそれに手を伸ばした時、カルロスが言った。
「今日、シリル・クラーク子爵から手紙が届いた。あちらも婚約の準備が整ったらしい。再来週の終わりに、クラーク家を我が家に招待したいと思っている」
「分かりました、あなた。ドレスも早めにできそうだと職人から連絡があったと聞きましたし、準備は順調ですね。シェリー、婚約の日が楽しみね」
シェリーは口元をナプキンで抑えてから返事をした。
「ええ、でも少し緊張していますわ」
食事を終え部屋に戻ると、シェリーはもう一度アシュトンからの手紙を読んだ。そして、窓を開け、外を眺める。木々は生き生きとした緑が濃くなり、空の青さも目に心地よい。
シェリーは目を閉じて、春の柔らかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
一週間後の午後のお茶の時間に、シェリーはグレイスから呼ばれた。職人が出来上がったドレスを持ってきたらしい。
シェリーが広間に行くと、グレイスとドレス職人のバリーがにこやかに話していた。
「ああ、シェリー、やっと来たのね」
「シェリー様、こちらのドレスです。どうぞ、お試しください」
「ええ、ありがとう」
メイドが広間の隅に衝立をならべる。シェリーはその陰に隠れる。メイドがシェリーを出来上がったばかりのドレスへと着替えさせる。シェリーは静々と衝立の影から姿を現した。
「どうかしら? お母様?」
「綺麗よ、シェリー」
バリーが大きな鏡をシェリーの前に運んできた。シェリーは鏡の中の自分を見つめて、目を見開いた。
「想像以上です。すこし胸元が大胆に広がっているけれど、首が美しく見えるわ。華やか過ぎず、大人し過ぎず、品があって素敵なデザインですね」
シェリーの喜びを受け、バリーはお辞儀をした。
「ありがとうございます」
シェリーは広間の中を歩いた後、くるりと回ってみた。新しいドレスは体にぴったりと合っているけれど、動きやすい。窓から入ってくる光を受けた薄紅色の生地が、優しい光沢を放っている。
「バリーさん、素敵なドレスを作ってくださってありがとうございます」
「シェリー様に気に入っていただけて、嬉しく思います」
シェリーはまた衝立の裏に隠れ、メイドに元のドレスへと着替えさせてもらった。
メイドに新しいドレスを渡すと、シェリーはグレイスのそばへ移動した。
「お母様、アシュトン様はこのドレスを気に入ってくださるかしら?」
「ええ、きっと」
グレイスは執事に何かを伝え、バリーと執事が話し始めた。
「さあ、シェリー。新しいドレスも出来たし、あとは婚約の日を待つだけね」
「はい、お母様」
シェリーは新しいドレスをまとった自分を見て、アシュトンがどんな顔をするか想像してみた。ひょっとしたら、新しいドレスだと気づかないかしら? と思ってシェリーは苦笑した。
「それで、グレイス様、シェリー様、結婚式のドレスのデザインのイメージ画もいくつかお持ちいたしましたが、新郎様はいかがいたしましょうか?」
「「……あ」」
グレイスとシェリーは顔を見合わせた。アシュトンの服装まで気が回っていなかったことに気づいた二人は唖然とした後、笑ってしまった。
「なんてことかしら。私達ったらドレスのことしか考えていなかったなんて」
シェリーはそう言って、グレイスの目をちらりと覗く。
「ええ、本当に。気の利かないこと」
グレイスは、アシュトンのフロックコートの採寸を頼みたいとバリーに言った。婚約の翌日なら、時間がとれるはずだ、とも。バリーは了承し、屋敷を後にした。
グレイスが独り言のように言った。
「さあ、お父様にアシュトン様の予定を抑えていただきましょう。婚約の日の招待状を書き終えていなければ良いのですけれども」
グレイスがカルロスの部屋に急ぎ足で向かうのをシェリーは見送った。
シェリーは出来上がったばかりのドレスをもう一度見たいとメイドに言い、持ってきてもらうと体にあてて鏡に映した。
シェリーの月明りを思わせるような淡い金色の髪と、薄紅色のドレスは見事に調和している。シェリーはくすぐったいような気持になって微笑んだ後、小さくつぶやいた。
「アシュトン様も気に入ってくださると良いけれど……」
シェリーはメイドにドレスを衣裳室に運ぶように頼んで、自分の部屋に戻った。
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