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47.夕食

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 アシュトンとシェリーが食堂に入ると、金髪に紺色の目をした見目麗しい男性が手を差し出してきた。
「はじめまして、シェリー様。私はアシュトンの兄、ブラッド・クラークです」
「まあ。初めまして。シェリー・ホワイトと申します」
 シェリーはブラッドの手を取り、握手をした。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。こちらは妻のアボット・クラークです」
「はじめまして、シェリー様」
 アボットはまとめた栗色の髪に手を当ててから、シェリーに手を差し伸べた。
「よろしくお願いいたします、アボット様」
 シェリーは差し出された白い小さな手をとり、微笑んだ。

「さあ、どうぞお座りください」
 アシュトンの父のシリルが言うと、メイドがシェリーのために椅子を引いた。
「失礼いたします」
 シェリーは勧められた席に座ると、背筋を伸ばした。
 テーブルの上には、クジャクを焼いたものや、詰め物をされたウズラが並んでいた。
 シェリーは豪華な食卓を見て感謝し、ふう、と息をついた。

「シェリー様は、クジャクはお好きですか?」
「ええ」
「それは良かった」
 シリルはクジャクの一番いい肉を切り分けると、皿に乗せた。メイドがその皿をシェリーの前に運んだ。
「ありがとうございます」

「遠慮はしないでくださいね」
 アシュトンの母のシンディーが、シェリーに微笑みかけた。
「はい」
 シェリーはにっこりと笑いかえし、シリルがみんなにクジャクを切り分ける姿を静かに眺めていた。

「それで、アシュトンはホワイト家の婿になるのか?」
 兄のブラッドに言われて、アシュトンはきょとんとした顔をした後に口をもごもごと動かした。
「…………あ。そう、なるの……かな?」
 アシュトンは初めて気づいたという表情で、ブラッドを見てから、シェリーを見つめた。

「そうなるかも……しれませんわね」
 シェリーも冷や汗をかきながら、ぎこちなく微笑んだ。うっかりしていた、というには大きな事柄だ。道理で父のカルロスが喜んでいたわけだ、と今更ながらシェリーは納得していた。

「まあ、カルロス様のお屋敷は大きいし、アシュトンも贅沢をするたちではないから心配はないと思うが」
 シリルは食前の祈りを口にし、ワインを手に取った。

「今日の恵みと、幸せなめぐりあわせに感謝します。乾杯」
「乾杯」
 みんな、ワインを掲げ目で挨拶をすると、それを一口飲んでから食事を始めた。
「シェリー様、アシュトンのどこがよかったんですか?」
 ブラッドが不思議そうに尋ねた。シェリーは困ったように目を閉じてから、微笑んで答えた。

「穏やかだけれど、貴石を前にすると子どものように目を輝かせるところでしょうか?」
「そうですか。よかったな、アシュトン。めぐり合わせの奇跡に感謝だな。いや、ジルの不誠実さに感謝、かな?」
「兄上、そのような言い方をしないでください。ジルは……悪気があったわけでは無いのですし」

 アシュトンは少し怒ったような口調で、ブラッドをたしなめた。
「よけいに悪いと思うが?」
「……否定はできません」
 アシュトンは苦笑し、ワインを飲んだ。

「ブラッドにアシュトンが意見を言うなんて、珍しいわね」
 シンディーが驚いたように言った。
「……だから、兄上を紹介するのは嫌だったんだ」
「なんだよ、寂しいことを言うなよ? アシュトン」

 シェリーは家族に囲まれて話すアシュトンを新鮮な目で見ていた。
「どうしましたか? シェリー様?」
「いいえ、アシュトン様もそのようなことをおっしゃるのだと……少し驚きました」
「アシュトンは、外に出ると何も言えなくなるからな」

 ブラッドは笑いながら言うと、アシュトンにウインクをして、ワインをまた一口飲んだ。
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