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27.ジルの婚約者

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「婚約者がいらっしゃるとは、初耳ですわ」

 シェリーは胸にとげがチクリと刺さったような気持ちになった。

「メイリーン、それはおままごとの話だろう?」

 ジルは苦笑してメイリーンに言った。


「私、確かに16歳まで他に好きな人ができなければ婚約してくださいと言いましたわ」

 メイリーンは目に涙を浮かべている。

「確かにそんな会話をしたこともあるけれど、10年も前の話じゃないか」

 ジルは諭すようにメイリーンに言った。


「ジル様、女性を泣かすのは褒められたことではありません」

 シェリーは冷たい目でジルを見た。

「まいったなあ。僕には……好きな人ができたんだよ」

「……私よりも好きな人ですか?」

 ジルの告白にメイリーンは目を見開いた。


「比べることはできないよ。メイリーンは妹のように大切な存在だし……。シェリー様は一緒にいて飽きない」

 突然自分の名前が出てきたのでシェリーはジルの目をじっと見つめた。

「……言ってなかったですか?」

 ジルは居心地の悪そうな表情を浮かべたまま、首を傾げた。

「初めて聞きましたわ」

 シェリーは今にも泣きだしそうなメイリーンをちらりと見て、複雑な気持ちになった。


「シェリー様、ジルは渡しません。私の婚約者ですから」

 気の弱そうなメイリーンだったが、震えながらシェリーを見つめて宣言した。

 シェリーはどうすればよいのかわからず、こめかみに手を当ててため息をついた。

「ジル様、あなたもアルバートと変わらないのですね」

「そう言われると、返す言葉がありません……」

 ジルはいたずらが見つかった子どものようにシュンとしてうつむいた。


「ジル様、メイリーン様、お二人で話し合ってくださいませ。私は失礼いたします」

 シェリーはそれだけ言うと、帰る旨をメイドに伝え、ジルの部屋を後にした。

 馬車に乗り、屋敷に帰る。

 遠ざかっていくジルの住まいを眺め、また、ため息をついた。


「私、ほんとうに男性を見る目が無いのね」

 シェリーはひとり呟くと目を閉じて馬車が家に着くのをじっと待った。


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